第一話:思いの伝え方
今章から時間軸的に現在へと戻ってきます。
そして、「???」の人物=作者ではないと留意して読み進めていただけますと幸いです。
アストゥーリア「今回も無事に事態は収束しましたね。」
???「…はぁ、やっぱこうなんのか。ほんと上手くいかねーな。」
アストゥーリア「いかがいたします?このまま存続させますか。」
???「そろそろ…見切りをつける頃合かね。『あいつ』がいる限りあの世界は安定に傾く。」
???「ま、『失敗作』にしちゃあ長く持った方だろ。…長く続き過ぎた結果今がある、とも言えるがな。」
アストゥーリア「…中々に難しいものですね。『完璧な世界』を創造するのは。」
???「それを言い出したらきりが無いだろ。どこか欠落があるからこそ、世界ってのは面白おかしくなるんもんだ。『完璧な世界』なんて、退屈なこと請け合いだぞ。」
???「けど、なんでだろうな…その欠落をどうにかしようとばかりに世界が動く、そして緩やかに平穏へと向かう…俺が求めているのはそうじゃねーってのに。」
???「かと言ってぶっ飛びすぎると、今度は世界の方が持たねぇ。あっさり崩壊してはいさよならだ…短編ならそれでも構わねーが、長く愛読してもらうためにはやっぱある程度の存続は必要だ。」
アストゥーリア「しかし存続させるとなると、世界は安定を望む。」
???「結局、世界も自分が可愛いんだろうよ。だから欠落を補填したがる…。」
この二人の人物が話す空間には何もなかった。
いや、確かにそこには無数の『世界』が存在していたが…その全てが崩壊を迎え収束した世界だった。
???「今までに書いてきたのは五万以上か?…それだけの世界を創造しても、中々理想には辿り着けないもんだな。…単純に、俺に才能が無いだけかもしれんがな。」
アストゥーリア「…一つ、お聞きしてもいいですか。」
???「あ?なんだ。」
アストゥーリア「なぜこの…『to decide』の世界を存続させようと思ったのですか。失敗作であることを認定したにも関わらず。」
???「あー…ふっ、別に対した理由はねーよ。ちょっと物珍しかっただけさ。」
アストゥーリア「物珍しい…。」
???「まさかこっちの存在に気付く奴が現れるとは思ってもみなかったからな。本来ならばタブーを犯したとして世界ごと消去しなきゃならねーところだが…面白いことにならないかと放置しただけだ。」
???「逆に言えば…もうそれだけしか、あの世界を存続させる理由はねーってことだ。もう…そんなどうしようもない理由にすらすがらないければならないほど、俺は落ちぶれたんだ。」
アストゥーリア「落ちぶれているわけでは…ありませんよ。あなたには才能がある…現に、あなたの書く作品はどれも読者に愛読されています。」
???「はっ、下手な慰めはよせ。読者に受けるものを、その時々によって変えて書いてるだけだ。読まれてるってだけでその作品が愛されてるとは限らねーよ。」
アストゥーリア「…。」
???「…ま、いずれにしろこの世界はもうダメだ。いい加減終わらせねーと、俺も読者も退屈しちまう。…頼んだぞ、アストゥーリア。」
アストゥーリア「了解しました…。」
???「(結局、俺の見込みが甘かったってことだ。何かに期待するだけじゃあ何も変わらない…そんなの、俺が一番解っていたはずだったのにな。)」
…。
レット「ふぅ…変わらないっスね、ここは。」
宴が催された翌日、レットは人間居住区画へと戻っていた。
懐かしい風景にしんみりしながらも、一歩前へ足を踏み出す…その時。
???「しぃぃぃーーーーーしょぉぉおおおーーーーーーーーー!!!!!!」
明らかにレット目掛けてものすごい勢いで走ってくる少女の姿があった。
レット「え、あれって…。」
???「うぉぉおおおーーー!!!!!うぉかえりなさぁぁあああーーーーーーーいっっ!!!!」
レット「うおっ、ちょちょちょちょっと!止まるっス!止まるっスーーー!!!」
???「会いたかったです、ししょーーーっっ!!!」
レット「うぐはっ!!!」
レットの制止の声など意に介さず、思いのままにレットの胸元に少女は飛び込んできた。
弾丸のように迫るその体を受け止めきれず、レットは少女を抱えるようにして地面へと倒れる。
???「うおぉししょーお久しぶりです!はぁ、懐かしいですこの感じ。」
レット「おれっちも懐かしいっスよ…てか、そこんとこは落ち着いてて欲しかったっスけどね…。」
???「無理です!こんな感動の再会、喜ばない方がどうかしてます!」
レット「別に喜ぶなとは言わないっスけど、いい加減これやめないっスか…メトリィ。」
メトリィ「ししょーは嫌ですか?」
レット「嫌じゃないっスけど、メトリィだってもうすぐ二十歳になる頃っスよね?…だったらもっと年相応に振る舞うべきっス。」
メトリィ「うぅ…分かったよ…。」
渋々レットの上から降りるメトリィ。
レット「それにしても、さっきはいきなりだったんでよく分かんなかったっスけど…結構大きくなったっスね。」
メトリィ「ふふん!これでもメトリィは日々成長しているのですよ、ししょー!」
約五年ぶりの再会、昔の面影はあるものの、やはり年相応に成長したその姿は見違えていた。
メトリィ…レットの事を師匠と呼ぶこの少女は、レットの下で武具制作を学んでいた。
レット本人は弟子にしたつもりはないのだが、メトリィのししょー呼びはいくら直そうとしても直らず…結局そのままの呼び方が定着してしまった。
メトリィ「ししょーも随分逞しくなったよね!抱きついた時すごいガッシリしてるのが分かったよ!」
レット「まぁ一応、これでもいくつか修羅場はくぐってきたっスからね。」
メトリィ「うぉぉおーー、カッコイイですししょー!お話たくさん、聞かせてください!」
レット「いいっスよ。…でもその前に。」
メトリィ「?なに、ししょー。」
レット「ただいまっス、メトリィ。」
メトリィ「…うん!おかえりなさい、ししょー!」
…。
ルチカ「おーっ、帰ってきてたのかレット。どうだい、久々に一杯。」
レット「…帰ってきてそうそうそれっスか。相変わらずっスね、ルチカは。」
レットはメトリィに連れられ以前贔屓にしていた酒場にやってきていた…そこには昼間から酒を飲んだくれているルチカの姿があった。
ルチカはレットの姉のような存在で、魔界にいた頃困った時はいつもルチカが何とかしてくれていた。
メトリィ「ルチカー、言われた通り連れてきたよ!」
ルチカ「ん、ありがとな。ほら、メトリィもなんか頼め。」
メトリィ「はぁーい!」
レット「ん?…よく今日帰ってくるって分かったっスね。誰にも言ってなかったはずっスけど…。」
ルチカ「今朝早くにファウスが教えてくれたんだよ。」
レット「ああ、ファウスさんが。…昔から仲良かったっスからね。」
ルチカ「まぁな。…とりあえずお前も座ってなんか頼めよ、今日はあたしのおごりだよ。」
レット「今日はちゃんと、金持ってきたんスか。」
ルチカ「んだよ、あたしだって毎度毎度財布忘れてるわけじゃないんだからな。」
レット「…今までに何回、オレっちの財布から貸したことがあったっスかね~。」
ルチカ「うぐっ…ちくしょぅ、そんなに言うんだったらおごってやんねーぞ。」
レット「ははっ、冗談っスよ。」
メトリィ「ししょーはなに飲むか決めたー?」
レット「そうっスね、久々っスから…。」
再会を果たした三人、その後はレットの土産話などで大いに盛り上がり、日が暮れるまで飲み交わしていた。
…。
レット「二人共、今日はありがとうっス。何かこうしてると、昔を思い出すっスねー…。」
ルチカ「何しんみりしてんだよ。あたしらの腐れ縁が、そうそう切れるわけねーだろ。」
レット「…そうっスね。」
メトリィ「ししょー、明日からはまた、ししょーの所に行ってもいい?」
レット「いいっスけど…当面は仕事しないっスよ?向こうで得た知識自分なりにアレンジしたいっスから、しばらくは引きこもることになると思うっス。」
メトリィ「大丈夫だよー、おとなしくししょーに付きまとうんで!」
レット「…まぁ、大人しくしてるんならいいっス。じゃぁオレっちはもう帰るっスね。」
ルチカ「ああ。久々に話せてよかったよ。また飲もうな、レット。」
レット「気が向いたらっスね。…ルチカも、あんまり飲みすぎないようにするっスよ?担いで帰るの、いつもオレっちなんスから。」
ルチカ「ははは!気を付けるよ。」
メトリィ「また明日です、ししょー!」
荷物片手に手を振りながら歩いていくその背中を見届ける。
メトリィ「じゃあメトリィたちも帰ろ!みんなお腹空かせて待ってるよ。」
ルチカ「…あー、メトリィ。悪いけど、先帰っててくれないか。」
メトリィ「…?なんで?」
ルチカ「ちとあたしに客人みたいだ。すぐ行く。」
メトリィ「分かった!じゃあ先に帰ってご飯の用意してるね!ちゃんとルチカも手伝ってよ?」
ルチカ「はいはい、いいからとっとと行け。」
そこまで気に止めることもなく孤児院へと走っていくメトリィ。
その姿が見えなくなったのを見計らって、ルチカは茂みの中へと向けて声をかける。
ルチカ「で、いつまでそこでこそこそしてんだ?」
ファウス「ありゃ、バレてた?」
ルチカ「酒場にいた時からな…。」
ファウス「う~ん、気配は完全に消せたと思ってたのになー。」
ルチカ「はぁ…で、なんの用だよ。」
ファウス「分かってるでしょ、なんでわっちがここにいるのか。…いつ言うのかワクワクしてたのに、このヘタレめ!」
ルチカ「メトリィもいただろうが!あんな状況で言えるかよ!」
ファウス「じゃぁいつ言うのさ。レットが帰ってきて、メトリィちゃんはべったりになるよ。それなのにそんな言い訳してたら、いつまで経っても告白なんかできないよ!」
ルチカ「う、うるせーな。いいんだよ別に今すぐでなくとも…。」
ファウス「そう言って五年前からずーーーっと!先延ばしにしてるよね。『レットのしたことをやらせてやりたい』なんて言って人間界行く時も引き止めなかったし…もういい加減じれてきたよわっちは。」
ルチカ「ファウスにはかんけーないだろ。」
ファウス「関係あるさ!ルチカとわっちは友達なんだから、心配するのは当たり前でしょ!」
ルチカ「お前は…そういう恥ずかしいこと、よく平気で言えるな。」
ファウス「…こういうことを『恥ずかしい』って思っちゃうから、ルチカはいつまで経ってもヘタレなままなんだよ。」
ルチカ「なっ…。」
ファウス「レットを見送った時『帰ってきたら告白する』って言ってたのはどこの誰かなぁ?…ちゃんと実行しないと、いつまでも前と変わらないよルチカ。」
ルチカ「わ、分かってる…けど。…やっぱり怖いんだ。…別に、振られたっていい…でも、それであいつと気まずくなるのは嫌なんだ。」
ファウス「…そうだね、嫌いになったなわけでもないのに距離を置かれるって、凄く怖いよ。…でも、それを乗り越えなきゃ…結局は辛いままだよ。」
ルチカ「そう…だよな。」
ファウス「…まぁ今日は、いつものヘタレのせいにしとくけど。ちゃんと自分の口で伝えるんだよ。」
ルチカ「うん、分かった…。」
ファウス「ん!じゃぁ孤児院行こ!メトリィがご飯作って待ってるよ。」
ルチカ「あ!手伝うって言ったのに!…今からじゃ間に合わないか。」
ファウス「多分もう出来てるだろうねー。さーて、今日のご飯はなんだろなー!」
ルチカ「なぁファウス…。」
ファウス「うん?」
ルチカ「いつも…ありがとな。」
ファウス「…へへっ、どういたしまして!」
…。
メトリィ「ねぇししょー、回路組んでみたんだけど見てくれる?なんかうまく動かなくて…。」
レット「ん?どれどれ…あー、これこの回路が先行して処理されるっスから順序が逆になってるっスね。ここがかち合ってるっスからこの下に潜らせるように組めば、多分大丈夫なはずっスよ。」
メトリィ「おぉっ、なるほど!流石ししょー!」
魔界へ帰ってきてからの数日間、レットは自宅の作業場にこもり習得した技術をこれから作っていくものにどう反映させていくか…その試行錯誤のために図面と向き合っていた。
メトリィも、そんなレットを見習ってか自作の武具などを作成する傍ら、教えを請いていた。
メトリィ「…ねぇししょー。メトリィ、邪魔じゃない?」
レット「どうしたんスかいきなり。そんなこと気にするなんてらしくもない。」
メトリィ「むぅ、これでも色々考えてるんだからね!…でも久しぶりにししょーと一緒にいられて嬉しいから…。」
レット「…。」
メトリィ「わっ!…ししょー?」
一人前に人を気遣うメトリィの頭を無造作に撫でる。
レット「メトリィはメトリィのままでいいんスよ。本当に迷惑なら言うし、メトリィはそうやってちゃんと人のことを見れるっスから、別に嫌じゃないっスよ。」
メトリィ「…ししょー…っ!」
そんな微笑ましいやりとりを木に登って眺める人影を、たまたま巡回していたディバルバが発見する。
ディバルバ「そんなところで何をやっとるんじゃ、ファウス。」
ファウス「おー、ディバルバ。お疲れさん!…いやー、大したことじゃないんだけどねー。」
ディバルバもファウスが眺めていた方を向き、作業に没頭する二人の姿を見る。
ディバルバ「あの二人がどうかしたのか?」
ファウス「…仲いいなーって思ってさ。五年ぶりだけど、前と全然変わってない。」
ディバルバ「仲がいいのはいいことだろう。なんでそんなこと確認してんだ。」
ファウス「仲がいいのも考えものだなぁ…って考えてただけだよ。」
ディバルバ「…お前さんにしては珍しい事を言うのぅ。あの二人、訳ありか?」
ファウス「男の方を好きな子がいてさ、そいつと仲いいから応援してやりたいんだけど…どうもその子、あの子に遠慮してるっぽいんだよね。」
ディバルバ「そんなもの、欲しけりゃ力尽くでものにするだけよ。他者に遠慮して奪われでもしたら後悔するのは自分じゃい。」
ファウス「わっちもそう思うんだけどね~、そう簡単にいかないのが人間なんだよ。…まぁそいつがヘタレだってことも多分にあると思うけど。」
ディバルバ「で、それでなんであの二人を覗いてたんだぁ?男がちびっ子の方に手を出さないかの監視か?」
ファウス「そっちの心配はしてないよ。…ただ。」
ディバルバ「ただ…?」
ファウス「そのちびっこの方が好意を持ってるか持ってないのか…よく分かんなくてさ。仲いいのは見てて分かるし尊敬もしてるんだろうけど…それに恋愛としての好きも含まれてるのかなーって。」
ディバルバ「ほぅ…それで、分かったのか?」
ファウス「ぜーんぜんっ。まっ、これからどうするかは本人次第だから、わっちはこうして遠くから今まで通り見守るだけさね。」
ファウス「それはそうと、もう新しいのディサイド様からもらったんだ。」
ディバルバ「ん?おぉこれか。」
背中に背負っているその大剣は、あの時クレイスとの戦いで砕かれたはずの魔剣ミスティア・アブソーバーだった。
ファウス「そ、魔剣ミスティア・アブソーバー。勇者と戦って折られちゃったんだよね、確か。」
ディバルバ「油断してたとはいえこの剣を折るとは…歴代最強の勇者は伊達ではなかったということだな。」
ファウス「割と久々だけど…これで何本目だっけ。」
ディバルバ「確か五本目…じゃったかのぅ。」
ファウス「もう、あんまりディサイド様に心配かけないでよ。剣はいくらでも複製できるけど、わっちらは消されたらそれまでなんだから。」
ディバルバ「お前さんに言われずとも分かっとるわい。」
ファウス「じゃあわっちはそろそろ戻るね。」
ディバルバ「おう。」
すたっと木から降り城の方へ向かうファウス。
そしてディバルバも見回りのため、再び歩き出した。
レット「あ、そういえばメトリィ。あれ出来てるっスよ。」
メトリィ「え、ほんとーっ!?」
レット「ちょっと持ってくるっスね。」
奥の部屋のタンスからいくつか似たような洋服を取り出し、戻ってきて作業台に乗せる。
レット「ほい、ご要望の対衝撃用子供服っス。」
レット自身も昔は孤児院にいた経験があり、そこで暮らす子供たちを不憫に思いこうして自分の技術を応用し服や家具といった物を作っては孤児院に送っていた。
人間界へ技術を学びに行ったのもこのためであり、より精度の高い品物を作り子供たちの安全を守ろうと考えたことがきっかけであった。
メトリィ「ありがとう、ししょーっ!…でも、もっと後でも良かったんだよ?」
レット「流石に五年も同じ服が持つわけないじゃないっスか。ストックも作ってたとは言え、もう残りも少ないっしょ。」
メトリィ「あ、うん。そろそろ在庫もなくなりそうだったけど…。」
レット「メトリィはそういうの隠すのヘタっスからね。急ぎで作っておいたんスよ。」
メトリィ「うっ…!」
レット「ほんと、そういうことで遠慮なんかしなくていいんスよ?あ、ちなみに今回のは前のと比べて伸縮性もプラスしてあるっスから動きやすくなってると思うっス。」
メトリィ「さっすがししょー!でもこの柄…。」
レット「まぁ急ぎとは言えオレっちだけで仕上げると無地一択になるんで、ルチカも呼んでデザイン考えてもらったんスよ。…いやー、今回もまた色々注文付けられて大変だったっスよ。デザインの関係上、回路が複雑になって組み込むのに苦労したっス。」
メトリィ「…。」
レット「ん、どうしたっスか、メトリィ。」
メトリィ「やっぱりししょーはすごいです。メトリィはこんなすごいの…作れない。」
服を握る手が、僅かに強まった気がした。
レット「…メトリィも十分すごいっスよ。」
メトリィ「そ、そんなこと…。」
レット「オレっちは…ほら、こんなことしかできないっスけど…メトリィは孤児院の人気者じゃないっスか。人間誰しも得意不得意があって、メトリィはたまたま、みんなと仲良くなることが得意なだけっスよ。」
レット「それに人間界に行って、オレっち思ったんスよ。…やっぱりメトリィがいないと寂しいって。」
メトリィ「…ししょー。」
レット「だから、気にするなとは言わないっスけど、落ち込む必要はないっス。…みんなの一番のメトリィでいられるなら、その方が絶対いいっス。」
メトリィ「…うん、ありがとうししょー。」
メトリィ「ねっ、ししょー、今晩はうちに来てよ!夕飯一緒に食べよ!」
レット「え、いいんスか…?」
メトリィ「いいの!みんなも喜ぶよ!」
レット「じゃあ…久々に顔出すっスかね。」
メトリィ「やったーっ!」
その晩レットは、孤児院で騒がしくも楽しいひと時を過ごすこととなった。
…。
ルチカ「悪いなメトリィ、呼び出して。」
メトリィ「ううん、小さい子はお昼寝してるし大丈夫!…それで、どうしたの?」
それから数日後、ルチカはメトリィを誘い出しカフェへ来ていた。
ルチカ「あー、えっと…。と、とりあえずなんか頼めよ。今日はあたしのおごりだからさ。」
メトリィ「え、いいの!?やったーっ!ケーキ!ケーキ!…ルチカは何にするんだ?」
ルチカ「あ、あぁ…。適当に、ブレンドでいいや。」
メトリィ「じゃあ店員さん呼ぶねっ。…すみませーん!」
ルチカ「…。」
メトリィ「…?」
しばらくの間二人は雑談に興じたが、いつもと様子の異なるルチカにメトリィは違和感を覚える。
メトリィ「…。」
ルチカ「ん、どうかしたかメトリィ。」
メトリィ「それはこっちのセリフだよ。今日のルチカ、なんかいつもと違う…何かあった?」
ルチカ「あ…。」
メトリィ「…こうやってさ、いつもみたいに話すのは楽しいけど…でも今日はそれとは別に何かあるんでしょ?」
ルチカ「…相変わらず察しがいいな。」
メトリィ「ふふんっ、伊達に毎日子供たちの相手してるわけじゃないからねっ。…話しにくいこと?」
ルチカ「まぁ、ある意味な。」
メトリィ「ちゃんと言ってくれないと分からないよ?ルチカは分かりやすい時と分かりにくい時があるから、メトリィも全部は分かんないもん。」
ルチカ「ふっ、そうなんでも分かられたらそれはそれで困るがな。」
ルチカ「…レットのこと、なんだがな。」
メトリィ「…?ししょーがどうかした?」
ルチカ「お前、あいつに懐いてるだろ?…どういうところが気に入ってるのか、少し気になってな。」
メトリィ「…。」
ルチカ「あぁ、難しく考えないでいいんだ。別に言いたくなければ言わなくていいし。」
メトリィ「…ごめん、よく分かんない。」
ルチカ「あ、そっか…。まぁそういうのって何となくの感覚だったりするしな。」
メトリィ「ううん、そうじゃなくて。…なんでルチカがそんなこと聞きたがるのか、分かんないって意味。」
ルチカ「え…。」
メトリィ「だってそんなこと、わざわざ呼び出してまで聞くようなことじゃないし…。それに、ルチカ緊張してる。もっと他に聞きたいこと、あるんじゃないの?」
ルチカ「…お前は色々察しすぎだ。」
メトリィ「…ルチカが言ってくれたように、メトリィも無理に理由を聞こうとは思わないけど…でも何かあるなら言って欲しい。メトリィは、ルチカの力になりたいと思うよ。」
ルチカ「(しっかりしろあたし!ここでヘタレたら…一生何も変わらないっ。)」
ルチカ「…知りたいことが二つあってな。一つは、レットのあたしに対する気持ち。そしてもう一つは、メトリィ…お前のレットに対する気持ちだ。」
メトリィ「メトリィの、気持ち…?」
ルチカ「ああ。」
メトリィ「…。」
恐らく、その気持ちを今ここで表すことにメトリィはなんの躊躇いもないだろう。
しかし先程同様、その言葉の中にある真意を…メトリィは探す。
メトリィ「…ふふっ、安心していいよ、ルチカ。」
ルチカ「…?」
メトリィ「ししょーがどう思ってるかはともかく、メトリィはししょーのこと、単純に尊敬してるだけだから。それ以上の感情はないよ。」
メトリィ「ルチカが聞きたかったのは…こういう答えだよね?」
ルチカ「…。」
なにか言葉を返さなければ…そんなことを考えつつも、体が脱力しきってしまい漏れるのは自分の震える息のみだった。
メトリィ「ていうか…いつからなの?」
ルチカ「自分の気持ちに気付いたのは、レットが孤児院を出た頃だ。自分のやりたいことのために全力で取り組もうとするあいつの姿を見て、はっとしたんだ。」
メトリィ「え!?じゃあもう十年以上も前じゃん!…ルチカ、ヘタレ過ぎだよ。」
ルチカ「あはは…ファウスにもよく言われる。…自分でも自覚はあるんだが、やっぱり確かめるのが怖くてな。」
メトリィ「ファウスねぇは知ってたんだ。」
ルチカ「まぁな。」
メトリィ「そっか。…それで、ルチカはこれからどうするの?」
ルチカ「え、どうって…。」
メトリィ「メトリィが、ししょーのこと、恋愛的な意味で好きか知りたかったんでしょ?メトリィの気持ちはさっき言ったから、これで心置きなくアタックできるよね。」
ルチカ「そ、そんなすぐにどうこうできたら苦労はないって。…そりゃぁ自分がヘタレだってのもあるけど、これ聞こうって決断して実行するのも結構緊張したんだぞ!?」
メトリィ「でも、聞けたじゃん。だったら次は、もっと楽にいけるはずだよ!」
ルチカ「…そうだといいな。」
メトリィ「で?で?いつししょーに告白するんだ?」
ルチカ「ばっ…おまっ、ませがきじゃねーんだからそんな食いつくな!」
メトリィ「えーいいじゃーん。ししょーと二人きりになりたい時とか、協力するよー?」
ルチカ「…今はいいんだよっ、お前の本心が聞けただけで。」
メトリィ「ぶーっ、つまんないのー。」
ルチカ「別にお前を喜ばせるためにあいつを好きになったわけじゃねーんだから。」
メトリィ「ちぇっ…まぁいいよ、メトリィはルチカの見方だから!応援してるよ!」
ルチカ「…ああ、ありがとなメトリィ。」
ルチカの懸念は解消され、メトリィとの絆は更に強まった気がした。
そしてこの日を境に、ルチカはある覚悟を決める…そう、レットへのアタックである。
…。
メトリィ『告白したらー?とは言ったけど、やっぱりまずはルチカのことをちゃんと異性として見てもらう必要があると思うんだよねー。』
頭の中で反芻されるメトリィの言葉、あの日カフェで語られたそれらを元に、今日という日を特別な日へと変えようとしていた。
メトリィ『子供たちもさ、やっぱ好きな子には周りの子とは違う接し方をするんだよ。それが意地悪に見えたり素っ気無く見えちゃうのは、まだ上手く気持ちを伝えられないからだと思うけどね。』
ルチカ「(今までは、意識しないようにしてきた…変わってしまうのが怖かったから、でも…。)」
メトリィ『でも別に、口で直接言うだけしかないわけじゃないし。それにいきなり意識してない相手にそんなこと言われても困るだけかもだし、『あなたを特別に見ています』って遠まわしに伝えるのは必要だと思う。』
そう、今日はレットを誘ってのピクニック…未だ自宅にこもり気味なレットに気分転換も兼ねて出かけないかと、数日前に訪ねた。
その場にはメトリィも居合わせていたが、三人で行こうと提案するレットに用事があるから二人で行ってきたらと断りを入れ、こうして無事デートの約束を取り付けることができた。
ルチカ「…よしっ、行くか!」
身だしなみの最終チェックを終え、準備完了…いよいよ勝負の時が始まる。
…。
ルチカ「よ、ようレット!待たせたな。」
レット「早かったっスねルチ…カ。」
ルチカ「な、なんだよ。なんか変か?」
レット「いや…なんかいつもと雰囲気違うっスけど、そういう大人っぽいのも似合ってるっスね。」
ルチカ「お、おう。ありがと…。」
レット「ルチカは美人なんスから、普段からそれくらいおしゃれにしてればいいのに。」
ルチカ「…っ、い、いいから行くぞ!」
レット「あ、ちょっとルチカ!?」
今日この日のために慣れない化粧をし、ファウスとメトリィによって選定された洋服…レットはいち早くその違いに気付いた。
そうやって指摘されて嬉しい半面、やはり照れくさい面もあり、ルチカはレットの手を強引に取り目的地である小高い丘へと急ぎ足で向かうのだった。
見慣れた景色を通り過ぎ、目的地に辿り着く頃には太陽はほぼ真上にあった。
ルチカ「きょ、今日は弁当作ってきたから…その、もしよかったら。」
レット「そのバスケットっスよね。中身そうなんじゃないかって実は結構期待してたんスよ。いい感じに腹も減ってきたし、食べてもいいっスか。」
ルチカ「お、おう!食え食え!」
バスケットを開くと、そこには何種類かのサンドイッチが詰められていた。
が、それを見てルチカは崩れ落ちる。
ルチカ「…走ったせいで、少し崩れてやがる。」
レットに引き止められ途中から歩いてきたが、それまで走っていたため揺れによって僅かに形が崩れてしまったのだろう。
レット「…パクッ。」
そんな落ち込むルチカを見て、レットは何気なくそのサンドイッチを一口。
レット「…十分美味しいっスよ。ほら、ルチカも。」
もう一つサンドイッチを取り出し、ルチカの方へ。
ルチカ「ありがと…。」
レット「見た目が多少不格好になってもいいじゃないっスか、これもピクニックの醍醐味の一つっスよ。」
ルチカ「…うん。」
レットのフォローに一瞬泣きそうになりながらもぐっと堪えサンドイッチをぱくつくルチカ。
二人の穏やかな昼食は、こうして過ぎていった。
…。
ルチカ「…。」
レット「…。」
無言だった。
二人の間に交わされる言葉はなく、ただただ時間だけが流れていた。
恐らく先程の失敗を、ルチカは引きずっているのであろう…らしくもなく体育座りをしてルチカは俯いていた。
何度目かのため息が吐かれる。
レット「そんなにため息ばっかだと、幸せが逃げていくっスよ。」
ルチカ「…いいんだよ、どうせあたしなんか幸せになれるわけないし。」
レット「…まぁ確かに、今のルチカには幸せの神様は微笑んでくれてないのかもしれないっスね。」
ルチカ「…。」
レット「でも、ルチカは今日…何かを変えようとしてたんスよね。」
ルチカ「どうして…そう思う。」
レット「いつもと違っておしゃれしてきたし、こうしてお弁当も…なにより誘ってくれた時、すんごい気合入ってたっスよ。」
ルチカ「うっ…そんなに変だったか?」
レット「別にオレっちは、そうは思わないっスよ?」
ルチカ「じゃぁ…今のあたしのこと、どう見える?」
レット「…分からないっス。」
ルチカ「…そうか。」
レット「こういうルチカは初めてで…オレっちがどう思ったのか、まだよく分かってないんスよ。」
ルチカ「…え?」
分からないと聞いて落ち込みかけたルチカは、続けられて発せられたレットのその言葉に引き戻された。
レット「いつまでも、変わらないと思ってたんスよ。ルチカがいて、メトリィがいて…孤児院のみんながいて。…でも今日、ルチカは変わった。いや、多分もっと前から変わってたんだと思うっスけど、変わったことに気が付いたのは今日…今この瞬間ス。」
レット「その変化に…戸惑ってるんだと思うっス。…ルチカが変わったことをオレっちに伝えて、オレっちにどうして欲しいか。それはまだ分からないけど、でもいつかその答えを言う時が来るなら…。」
レット「その時は、よろしくっス。」
ルチカ「…ぷっ、なんだよ、よろしくって。あたしは何をよろしくすればいいんだよ。」
レット「オレっちだって、よく分かんないっスよ。…ただ。」
ルチカ「…ただ?」
レット「今のルチカも、悪くないんじゃないっスか。」
ルチカ「…おう。」
…。
ファウス「ま、今はこれが及第点かな~。」
メトリィ「んー…でも、ししょーも、もうちょっと踏み込んでもいい気がするけど…。」
ファウス「そこら辺は、まだレットの中でも、答えが見つかってないんじゃない?なんにしても、これでようやくスタート地点だよ。」
メトリィ「がんばれルチカっ、メトリィは応援してるぞ!」
いつものように親しく話す二人を見つめる影が二つ。
ようやくその一歩を踏み出したルチカ、その恋の行方は何処に向かうのかまだ分からない。
ただ、後悔しないよう…それだけを、祈りながら。
願わくば、その顔に浮かぶ笑顔が…ずっと、ずっとそこにあり続けますように。




