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to decide  作者: 村瀬誠
第五章:孤独の王が欲したもの
19/30

第三話:湧き出でる知識と気怠さの共演

あれから数百年の時を過ごし、ディサイドは勇者との攻防を繰り返した。

互いに殺し殺され…いつしかその回数を数えるのをやめた。

そんな中、ディサイドの仲間になりたいという人間が現れた。

その者はかつての勇者の仲間であり、勇者がディサイドに殺される現場を目の当たりにした人物。

仲間の死を嘆くでもなく、ディサイドに対し怒りを見せるでもなく…その者はディサイドの目の前にかしずいた。

そんな彼の様子を見たディサイドは、それを無下にすることなく魔界へと連れ帰った。

しかしここで問題が発生する…それは彼がどこで寝泊まりするか、ということ。

ディサイドは城に住まわせようとしたが、メルティナがこれを拒絶…ディサイドはそれを諌めようとする中意外な人物から声が上がる。

それは他でもない、勇者の元仲間であった…野宿でも構わないという彼にディサイドはしばし考え込み、そして魔法を使い仮屋を城の外へと立てた。

元々人間を連れて帰ることを良しとしていなかったメルティナは、それでも難色を示していたが渋々受け入れた。

ひょんなことから始まった人間との共同生活…それは次第に規模を大きくしていった。

ディサイドが何をするでもなく、勇者との戦いの真実を知る者がディサイドの元に集まり、数百年をかけその数は四桁を越えようとしていた。


メルティナ「大分人間の数が増えてまいりましたわね。」


ディサイド「ああ、初めは一人であったが、ここまで私に賛同する人間がいるとはな。私も驚きだ。」


メルティナ「それで、本題なのですが…。」


ディサイド「分かっている、人間と魔物との間の抗争であろう。」


メルティナ「ええ、今に始まったことではありませんが、人間の数が増えそれに合わせるように居住区を建てていったところ魔物たちの住処が減少…監視の目の届く範囲外に出てしまう魔物のいるくらいです。」


ディサイド「それを制したら、なんとか住処を確保しようとし、人間との睨み合いが起きてしまった…。どうしたものか。」


メルティナ「ですからわたくしは苦言を申し上げたのです。人間との共存など、初めから不可能だったのです。」


ディサイド「しかし私を慕う者を無碍にもできまい。」


メルティナ「ディサイド様のお気持ちも分かりますが、現状それは上手く機能していません。今からでも遅くはありません、今一度お考え直しを…。」


青年「た、大変です!ディバルバ様がまた…!」


慌てた様子で駆け込んできた青年の言葉を聞いて、メルティナは目頭を押さえため息を付く。


メルティナ「…わたくしが対処いたします。場所はどこですか。」


投げかける言葉がいつもより冷たくなってしまうのは、仕方がないことなのかも知れない…。

青年と共に現場へ向かうと、そこには呻き声を上げ地面に横たわる人間が数人…そしてそれを見てどうしたものかと頭を掻くディバルバが。


メルティナ「…一応お聞きします。一体何があったのですか。」


ディバルバ「や、ここまでするつもりはなかったんだが…どうも力が入りすぎちまったよーでよ。」


青年「倒れてる奴らが魔物をいじめてたんだ。…それを見てディバルバ様が。」


現場に魔物の姿はなかったが、恐らくディバルバが庇ってどこかに逃がしたのだろう…メルティナは大きなため息を一つ付くと。


メルティナ「ともかく、彼らを治療室へ運びます。あなたも手伝いなさい。」


ディバルバ「…ちっ。死んでねーんだからほっときゃいいだろ。」


メルティナ「聞こえていますよ。」


ディバルバ「だがよメルティナ!最近人間共がでかい面してるのが俺は気に食わねーんだ!ここは俺らの住処だろ、なんでよそ者の人間が我が物顔で闊歩してるんだ。」


日頃の鬱憤が溜まっていたのか、怒りを露わにするディバルバ。


メルティナ「…あなたの言い分も分からないではないです。けれど暴力に訴えてはただの獣と変わりありませんよ。」


言葉で諌めても効果は薄いだろうなと考えるメルティナ…しかし予想に反して、ディバルバは黙りこくってしまった。

そして、いつもの自身に満ち溢れた表情とは打って変わり、何かを自分の内に押し込むように…。


ディバルバ「…殺さねぇだけありがたいと思って欲しいもんだぜ。ディサイド様の言いつけがなきゃあ、そこに寝っ転がってる奴ら全員…。」


地面に倒れている人間を睨みつけるディバルバ、その瞳には明らかな殺意が込められていた。


メルティナ「わたくしの方でも今一度、ディサイド様に掛け合ってみます。…確かに、人間の中にもわたくし達に味方する者がいても不思議ではないのでしょう。しかしそんな志を持った人間が、果たしてここに住む中でどれだけいるのでしょう。子孫を残し繁栄を繰り返す人間…新たに生まれた命に自らを移し替える事はできませんからね。」


…。


メルティナ「…報告は以上です。」


ディサイド「ご苦労であった。」


治療室に人間を送り届けたあと、メルティナは城へと戻りディサイドに事の顛末を報告した。


メルティナ「あちらこちらで人間と魔物との争いが起きています。一つ一つは小さな諍いでもこれだけ多くのトラブルが起こっているのです。…ディサイド様、今一度お考え直しください。これ以上人間を増やしても、我々にとって害にしかなりえません。」


ディサイド「かと言って無闇に人間を追放するわけにもいかないだろう。今ではこの魔界で生まれた者が大半を占めている…そんな者が人間界へ行き、その輪の内に溶け込めると思うか。最悪の場合、魔界出身であると分かっただけで惨殺されるであろう…。」


メルティナ「ディサイド様は人が好すぎます!元々、我々と人間は敵対関係にあるのですよ。ほんの数人の有志を匿うことはできても、それはあくまでこちらが優位に立っている状況下においての話です。…人間とは都合のいいことを思いたがるものです。昔はディサイド様に忠誠を誓っていた者も大勢いました…しかし今はどうです。まるで人間が我々よりも優位に立っているような振る舞いではないですか。事実、ほんの数百年前はわたくしたちが便宜を図る度に頭を下げていた人間も…次第にそれが当たり前と思うようになりむしろそれを要求してくる始末。数で優っているという集団心理に踊らされ感覚が麻痺しているのです。ディサイド様の言い付けを守りわたくしも我慢してまいりましたが、もう限界です。」


メルティナ「まずは我々を第一にお考え下さいディサイド様。…でなければ、我々はいつか人間に滅ぼされてしまいます。」


ディサイド「…。」


メルティナ「通常の魔物よりも強力な力を持っているわたくし達であれば、人間如きに遅れを取ることはありません…。ですが、他の魔物はどうです。人間の持つ包丁や鍬でも…力あるものが使えばそれは十分な驚異になりえます。…戦争が起こってからでは遅いのです。」


メルティナの語るそれを、ディサイドは否定できるはずもなかった…可能性が万に一つとしてない、とは言い切れないからだ。

会話はなくなり、静寂が場を覆う…その沈黙を破ったのはメルティナであった。


メルティナ「…申し訳ありません、ディサイド様に忠誠を誓っておきながら意見するようなこと申しました。ですがディバルバも先程の様子を見るに我慢の限界を迎えているようです…先にこちらから手を出さぬ内に、何か策をお考え下さい。…わたくしが今申し上げられるのは以上です。」


静かに言葉を紡ぎ、メルティナは書斎を後にした。


ディサイド「…最早、あの手しかないか。」


ディサイドは、ある決意をする。

それは、かつてディバルバを生み出した時と同じ…もう一体、人型の魔物を作り上げるということだった。

メルティナの事を思えば気が引けるが、現状思いつく限りの打開策としてはそれが精一杯であった。

翌日、以前と同じようにディサイドはメルティナの部屋を訪れた。


メルティナ「…やはり、そう結論付けられますか。」


僅かに顔を伏せるメルティナは何を思うか…それを知る術を持たないディサイドは緊張の面持ちであった。


メルティナ「以前は…ディバルバを生み出した時は思うようにことが運びました。魔物の中に馴染み、ディサイド様が力を鼓舞することでディバルバを従え今の関係に落ち着きました。」


メルティナ「ですが今回は、人間と折り合いを付けなければならりません。…わたくしとしては、少しでも反抗の意思のある人間は処刑しても構わないと思っておりますが…そんな戒めを行ったところで反感を買うだけでしょう。」


メルティナ「どのような者をお作りになるおつもりですか。単に力だけで押さえつけるのみでは根本的な解決にはなりえません。」


ディサイド「現状としては、人間の管理が不十分であるから今の状況があると私は見る。…それを考察し、分析する者が必要だと私は考える。」


メルティナ「魔物を従えるのとでは訳が違うのですよ、同じこちら側に属するものが人間の在り方を十分に把握できるかどうか…不安要素は残ります。」


ディサイド「…これは一つの賭けだ。この賭けによって今より更に人間との関係性が悪化することもあるだろう。しかしただ時が過ぎるのを待っていたとしても、その未来にやってくるのは同じことだ。ならば多少なりともリスクを孕んでいたとしても、私は己の可能性に賭けてみたい。」


メルティナ「…ようやく、ディサイド様も現状を正しく認識していただけたようですね。」


ディサイド「ああ、昨日の思いつめた表情を見てはたと気付いた。…いや、気付かないふりをしていたのだろうな、私は。己を信じて付いてきてくれた人間…その子孫を蔑ろにしたくないばかりに甘やかし、裏切られることを恐れた。結局私は、己の身が大事なのだ。傷つく事を恐れて保身に走り問題から目を背け続けた…それを自覚した。毎度のことながら呆れてしまうな。」


自らを蔑むように吐き出すディサイド。


メルティナ「ディサイド様は誰よりも他人を愛しておられます。その愛が深すぎるが故に、こうしてお悩みになられるのです。…ですがその愛を見捨てる覚悟があると、そう仰るのですね。」


ディサイド「ここでまた保身に走りお前たちに見捨てられては私は立ち直ることができないであろう…人間との絆より、お前たちとの愛を取ろう。」


メルティナ「かしこまりました。では、さっそく詳細な人物像を考えましょう。決断したのなら、あとは実行に移すのみです。」


ディサイド「…すまないなメルティナ、毎度世話をかける。」


メルティナ「いいえ、わたくしはディサイド様に頼られて嬉しく思っておりますよ。」


微笑むメルティナに改めて感謝を抱きつつ、ディサイドとメルティナは新たに生み出す者の討論を始めた。


…。


そして翌日、人気のない場所へとやってきた二人…これで人型の魔物を作るのは実質三回目である。


ディサイド「実はな…この案を思い付いた時、初めはお前にこのことを伏せたまま実行しようとしていたのだ。」


メルティナ「…そうだったのですか?」


ディサイド「メルティナにこれ以上心労をかけさせるのも忍びないと思ってな。…だが、いつまでも隠し通せるものではないだろう…いつしかそれはメルティナの目に付くと思ってな。」


ディサイド「そうなった時、悲しみに暮れるお前の姿が浮かんでな…。ならばいっそ、非難されるのを覚悟で打ち明けようと思ったのだ。」


メルティナ「そうですわね、このことをもし隠されていたと知ったら…わたくしはそれほどまでに信用されていないと思い嘆いていたでしょうね。」


ディサイド「…その言葉聞いて安心した。では始めよう。」


メルティナ「はい。」


ディサイドは目を瞑り、前に突き出した手の平に意識を集中させる。

前回と同様、黒い流体の球が出現し浮遊する。

意志を持ったように蠢くそれは次第に肥大化していく。

ある一定の大きさになると、次にそれは人の形を成していき…そして誕生を迎える。


???「…。」


焦点の定まらない視線、ぼんやりと周りを見る彼にディサイドは言葉を投げる。


ディサイド「気分はどうだ。」


???「あんた…誰?」


短い時間で意識は覚醒しきり、顔をしかめて目の前の存在に問う。


ディサイド「私はディサイド、お前という存在を作り上げた者だ。」


???「へぇ…じゃあこの体は作り物ってことか。」


その回答をあっさりと受け入れ、自分の体をまじまじと見る。


???「確かに、今より前の記憶がない。…あんたの言ってることに間違いはなさそうだ。」


嬉しそうに笑みをこぼす…そんな彼の態度、この者が黙っているはずもなかった。


メルティナ「少しは慎みなさい。あなたの主となるお方ですよ。口の利き方に気を付けなさい。」


???「は?あんた何様よ。」


冷たく放たれた言葉に屈することなく…むしろ状況を楽しむようにメルティナへと問いかける。


メルティナ「わたくしはメルティナ、ディサイド様に忠誠を誓うものです。」


???「ふーん、要は奴隷ってこと?」


メルティナ「なっ…!そのような下劣な存在と混在してもらっては困ります!」


???「じょーだんだってぇ、真面目に受け取るなよ。」


メルティナ「なんなのですかこの者は!ディサイド様、一体どのようなお考えでこの者を作り出したのですか!」


ディサイド「いや、多少厳しい意見でもはっきりと述べられるよう思ったことをある程度口にできる者をと考えていたのだが…。」


???「思ってることを我慢するなんてストレスが溜まるだけじゃないか。」


メルティナ「立場を弁えなさいと言っているのです。あなたはこれからディサイド様に仕えるのですよ?」


ディサイド「よい、今はそれよりも先に解決するべきことがあるであろう。」


???「ふーん…。その口ぶりからして、俺になにかさせたいってわけ?」


ディサイド「ああ、だがその前にお前に名を付けてやろう。」


???「名前?…まああった方がいいか、無いと不便そうだしな。」


メルティナ「名誉あるべき行為なのですよ、もう少し敬意というものを…っ。」


ディサイド「この場は抑えてくれメルティナ。」


メルティナ「…仕方がありませんね。」


メルティナを諌めた後、咳払いを一つしてディサイドはその者の名を与える。


ディサイド「スペルア…それがお前の名だ。」


スペルア「スペルア。…へぇ、中々いい名前じゃん。」


いたずらをする子供のように無邪気に笑う彼は、こうして誕生を迎えた。


…。


スペルア「もっと数を増やすべきだね。」


城へと戻り現在の状況を伝え、解決策がないかをスペルアに問いかけた。

タキシードを身に付け、たまたま衣装部屋にあったメガネをかけるスペルアは、そう結論付けた。


メルティナ「これ以上ディサイド様に負担を強いれと…?あなたはそう言っているのですか。」


スペルア「そんな怖い顔するなよ。これから順を追って説明するさ。」


スペルア「まず、今起こっている問題は『管理体制』の有無によるものだね。どういった人物が統べるかというよりも、どういった制度があるかどうかで人間は左右される。」


スペルア「常にディサイド様が人間の目に付くところを練り歩いていれば問題としては解決さ…けど実用的じゃない。」


スペルア「ならどうするか…それは人間界に答えがある。」


メルティナ「人間界に…?」


スペルア「『法律』さ。人間たちは王宮の定めた決まり事に従って生活をしている。だったらそれと同じことをすればいい。」


スペルア「ただ、それだけじゃ弱い。いきなり紙に書かれた規律を見せられても、そこには自分たちに不利になるような内容が書かれているんだ…賛同する者も少ないだろう。」


スペルア「だからこそ、もっとこちら側の人数を増やすべきなんだよ。話を聞く限りだと、あいつらは魔物に対しては強気だけど俺たちみたいなのには頭を下げるんだろ?だったらそれを使わない手はない。」


スペルア「何もスペックから何から全部同じにしろってわけじゃない、むしろ人間と同じくらい貧弱な奴でも構わないさ。とにかく目に見える形で圧倒して人間を押さえ込む。」


スペルア「そうすれば人間も大人しくなるし、こちらからの威圧感としても十分だろう?それで決まりごとを破るような奴がいたら見せしめとして処刑すればいい…支配しているのは、あくまでもこっちなんだから。」


ディサイド「なるほどな…人間の文化を利用するということか。」


スペルア「その通り!魔物と人間とじゃ根本が違うんだから、無理にこっちのやり方を突き通そうとしても通用しない。なら元からあるものを使えばいい。別にやり方を盗んじゃいけないなんて決まり事はないだろ?」


スペルア「あ、あとそうだ。新たに作り出すことに引け目を感じるなら今いる魔物たちを合成とかしてみるのはどう?それなら現状でやりくりしているわけだし負担はそこまでじゃないと思うけど。」


ディサイド「うむ、それは考え付かなんだ。私は概ねスペルアの案に賛成だが、メルティナはどうだ。」


メルティナ「そうですわね…思っていたよりも実用的でした。これならば実行する価値はあるかと。」


スペルア「それと、魔物と俺たちを区別しちゃってもいいと思うよ。あまり優劣は付けたくないかもしれないけど、関係性をはっきりさせておくのも人間から見れば意識が変わるからね。」


ディサイド「そういうものか。…ならばなんと区別を付けたものか。」


スペルア「『魔族』…でいいんじゃないかな?族っていう文字には『仲間』って意味合いもあるし。」


ディサイド「魔族か…良い響きだな。」


スペルア「気に入ってくれたようだね、あともう一つ普通の魔族と俺らでも区別を付けよう。俺たちの方が格上の存在ってことをアピールしとけば、勝手に奴らは恐れてくれる。」


メルティナ「細かいですわね…。」


スペルア「今までとはガラっと変わるんだ、それにある程度合わせていかないと逆に浮いちまうぜ?異端のものとして扱われるよりはいいだろ。」


ディサイド「その辺りもお前に任せる。ちなみに区別するとしたらなんと名付ける?」


スペルア「そうだな…なにか称号みたいなものがいいな。魔族の中でも選ばれしものにしか与えられない、みたいな。…『結魔』なんてのはどうだい?」


メルティナ「結魔?」


スペルア「魔王様が自ら作り上げた特別な存在…その結び付きってやつを表してみたんだけど、どう?」


ディサイド「…よし、ならばそれでいこう。今よりメルティナ、スペルア、ディバルバの計三名に結魔の称号を与える。」


そうして、魔界に新たな風が吹いた。


…。


頭の回転は早いが行動するのは面倒だと言い張るスペルアの代わりに、メルティナが次々と計画を実行していく。

新たなる規律の立案…結魔とディサイドが集まりどのような法律を定めるかを選定し人間たちへと発表した。

また、それと並行してディサイドは魔族の生産に取り掛かった。

当初スペルアが言っていた形とは少し違っていたが、魔物一体にエネルギーを注入し人の形を作り上げていった…ベースはあくまでも元の魔物そのままであるため生産にかかる負担も軽量化されている。

それでも連続して生産するのは難しく、一日に一体のペースで量産していき最終的には百体の魔族が生み出された。

そして法律を定めるのと同じくして、ディサイドは人間が暮らす区域を定めることにした。

その都度拡張していくのではなく、予め範囲を決めその土地を人間に自由に使わせる…これもスペルアの助言であった。

初めはそれらに反対する者もいたが、スペルアが一言。


スペルア『お前らは忘れてるかもしれないけど、元々はディサイド様のご厚意で住まわせてやってんだ。トップの言うことが聞けないってんならグチグチ言う前に出ていきな。』


と一蹴…それでも尚口汚く罵る者もいたため、容赦なくそれを斬首…血に染まった手でその生首を持ち上げながらスペルアは。


スペルア『あのさぁ、勘違いしてもらっちゃ困るんだけど…俺たちが『上』で、君らが『下』なの。そこんとこきちんと理解してね、君らは束にならないと何もできないけど…俺たちなら一人でこの場にいる全員を粛清することだって出来るんだよ?そこんとこ、もう一回よく考えてみてね。』


見せしめのように晒される生首、そして以降人間の住む街を何人かの魔族が武装して見回りをするようになった。

それが功を奏したのか…以降人間と魔物、魔族との間のトラブルは目に見えて減少した。

順調に事が運んでいるかに思えるが、ディサイドの顔色はやはり優れなかった。


ディサイド「スペルアよ、あれはやりすぎではなかったか。」


スペルア「あれくらいしとかないと今まで付け上がっていた奴は大人しくなりませんよ。」


メルティナ「ええ、多少過激な面もありますが、成果は出ています。」


スペルア「お、なに。珍しく褒めるじゃん。」


メルティナ「きちんと結果が出ていれば文句は言いませんよ。…それとあなたのサボりグセに憤りを感じるのは、また別の話ですけれどね。」


スペルア「ほら、俺は参謀の立ち位置だから。頭は回るけどそれだけだからね。」


メルティナ「戦闘能力も充分に備わっているでしょうに、毎度毎度言い訳ばかり…口だけは達者なんですから。」


スペルア「いーじゃんこんだけ貢献したんだしさー、少しくらい大目に見ても。…大体俺だってメルティナやディバルバの野郎と同じで、人間なんてどーだっていいんだ。ディサイド様がどうしてもって言うから立案しただけで、それに参加するとは一言も言ってないよ。」


メルティナ「また屁理屈を…っ。」


スペルア「ほーらまたすぐ怒るぅ。せっかくの美人が台無しだよ。」


メルティナ「あなたになんと思われようとも構いません。あなたに望むことはただ一つ、真面目に業務をこなすことです。」


スペルア「相変わらずお堅いなー。こんな奴と一緒にいて疲れない?ディサイド様。」


二人のやり取りにすっかり毒気を抜かれたディサイドはため息をつき答える。


ディサイド「メルティナはよくやってくれている。私からは感謝しかない。」


スペルア「はぁ、人が好いなーディサイド様は。まあこっちとしては好き勝手にやれてるからいいけど。」


ディサイド「確かにお前の上げた功績は大きい。…もう少しやる気を見せてくれると有難いがな。」


スペルア「んー…気が向いたら?」


メルティナ「ですから、なぜあなたはそう適当なのですか!」


スペルア「ある程度気を抜かないと押しつぶされちゃうよー?頑張りすぎて倒れたりしたら、元も子もないでしょ?」


メルティナ「…あなたの分の補填は一体誰がしているのかしらね。」


スペルア「いやーまじメルティナは神だわー。神のように慈悲深い方だわー。もう輝かしくて視界に入れられないわー。…んじゃ!」


いかにもな棒読み、これ以上追求されることを回避するためスペルアはそそくさと部屋を出ていった。


メルティナ「はぁ…なぜディバルバスペルア両名共に、一癖も二癖もあるのでしょう…。」


ディサイド「…すまないなメルティナ。」


メルティナ「いえ!決してディサイド様を責めているわけではありません!…ただ、あの者たちの我が強すぎるのです。もう少し協調性というのを学んでくれると良いのですが…。」


ディサイド「…。」


ディサイドはあることについて思いを馳せた…なぜ、メルティナと他の結魔は友好関係を築けないのだろうと。

そしてそれは当たり前のことだと気付く、元は問題を解決するために生み出した存在…予め共に生活することを考慮して生成していなかったためだ。

故に協調性がなく、主たるディサイドの言うことには大人しく従うが、それ以外の者には強く自分を見せる。

メルティナにもそのような一面があるため、衝突が絶えないのである。


ディサイド「(…これでは本末転倒ではないか?私のわがままのせいでメルティナに負担がかかるのは、私の本意ではない。)」


考えるディサイド…そして思い付いたのは。


ディサイド「メルティナよ、明日丸一日を使って人間界へ行かないか?久しく訪れていないだろう。」


メルティナ「え、ですが業務が…。」


ディサイド「スペルアとディバルバに話をつけて私がなんとかしよう。ここのところ働き詰めであったからな、気分転換も兼ねて…どうだ。」


メルティナ「それは、ディサイド様も一緒に…ということですか?」


ディサイド「ああ、お前が望むのなら。」


メルティナ「…。」


考え込むメルティナ…ディサイドはああ言ったが、恐らくあの二人がまともに業務をこなせるとは思えない。

一人は、小難しい事を考えることができないだろうし…もう一人は隙を見てはだらけるだろう。

結局尻拭いをする羽目になるであろうが、せっかくのディサイドからの誘い…メルティナは面を上げ笑顔でそれを承諾する。


メルティナ「では、お願いいたします。久しぶりに、本でも探したいですね。」


ディサイド「決まりだ。では二人に話をつけてこよう。」


椅子から腰を上げ書斎をあとにする。

明日に思いを馳せるメルティナの表情は、喜びに満ちていた。


…。


ディサイド「…という訳で、スペルアに穴埋めをしてもらいたい。」


スペルア「…。」


近くを彷徨いていたスペルアを見つけ、ディサイドは先程の話を聞かせ承諾するよう願い出た。

面倒くさがりのスペルア…説得には時間がかかるかと思いきや、意外な回答が彼の口から飛び出した。


スペルア「ほんと、ディサイド様は人が好いですよね。『これは命令だ、私の言うことに従え』とでも言えば、俺やディバルバも流石に服従するというのに…あくまでも『お願い』をするんですね。」


ディサイド「お前達は物ではない、意志の通った一つの人格を持つ者だ。その者の気持ちを無碍にはできまい。」


スペルア「はぁ…だからお人好しだと言ってるんです。…まぁいいですよ、明日一日ぐらいなら真面目にやります。これでも、恩を感じてないわけじゃないんですよ?」


ディサイド「分かっている。いずれお前たちにも暇を出そう。」


スペルア「普段からサボりまくってる俺にまで暇をくれるとか…いつか誰かに騙されても知りませんよ。」


ディサイド「その時はその時だ。それに、失態を犯したことによりそれは戒めとなる。何事も無駄にはならない。」


スペルア「…敵いませんね。」


ディサイド「業務をサボることに少しでも罪悪感を抱いているならば、私から言うことはない。心に痛みを感じることができる者は成長するからな。」


スペルア「…なんかむず痒くなってきたんで、この辺で失礼しますね!」


気恥ずかしそうにその場を去るスペルアを見て、ディサイドは思う。


ディサイド「(正しく心に感じることができるのなら今は良い…。)」


そう心に呟き、ディサイドは城の外へと向かう…次の目的の人物は、ディバルバである。


ディバルバ「…こんなこと言うのもなんだけどよ、俺でいいのか?」


事情を聞いての意見としては、至極真っ当なものである。


ディサイド「もちろん他の魔族にもフォローに回ってもらう。トラブルが起きたら、できる限り自分たちで対処して欲しいのだ。」


ディバルバ「ん…まぁ一日だけならなんとかなるか。ゆっくりしてってくれよ。」


ディサイド「ああ、帰ったら土産話でもしてやろう。」


ディバルバ「それよりも、今度また手合わせしてくれねぇか。最近体動かしてねぇから鈍ってやがるんだ。」


ディサイド「ほう、本気でやっていいのか?」


ディバルバ「もちろんだぜ。前みたいに素手でやり合うのもいいけどよ、今度は武器も魔法もありにしようぜ。」


ディサイド「珍しいな、肉弾戦を得意とするお前が。」


ディバルバ「この間人間の子供が棒切れ振り回して遊んでたんだけどよ、それ見て俺もディサイド様からもらったミスティア・アブソーバーをスイングしたらおもしれぇぐらいにばったばった木が倒れてな。…調子に乗って周りの木を切りすぎちまったんだ。」


ディサイド「…あの周辺の緑が著しく減っていたのはお前の仕業だったのか…。」


思い当たる節があるのか苦笑いのディサイド。


ディバルバ「最近は木も貴重だからって人間にどやされたぜ…。だからよ、あの大剣を思いっきし振り回してぇのさ。」


ディサイド「なら後日付き合おう。危害が出ないよう、人気のない開けた場所でな。」


ディバルバ「おう、楽しみにしてるぜ。」


ディサイドとの再戦を思い浮かべ、上機嫌にディバルバはその場を去っていく。


ディサイド「戦いに喜びを見出す…か。やはりディバルバには、ああいった報酬の方が良さそうだな。」


踵を返し城へと戻るディサイド、その他の根回しも済ませ心置きなく人間界へ出かけられることをメルティナへと伝える。


メルティナ「明日が楽しみでございます、ディサイド様。」


静かに礼を言うメルティナは、期待に胸を膨らませていた。

まだ多くの問題を抱える魔界…そして更にそれは目に見える形で現れる。

その足音に気付く者はまだない、それは徐々に徐々に忍び寄ってきたからである。

一時の安息を迎えたように見えたが、またまた窮地に陥る。

それに気が付くのは、もう少し先の話である。

メルティナ・ディバルバ・スペルア…ディサイドに忠誠を誓いしこの三名は、以降もディサイドの手となり足となりて様々な問題に直面する。

孤独の王であったディサイドは新たな仲間を得、前へと進む。

…例えそれが、延々と続く希望なき未来であったとしても。

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