冬の子と、ちっちゃな少年リク
最近、めっきり寒くなってきたねぇ。
冬は冷えて風邪を引きやすいからね。ちゃんと暖かくするんだよ。
え?どうして冬は寒いのか、って?
それじゃあ、教えてあげようか。どうして冬が寒いのか。
わかった、わかった、話すから。そんなせっつかないでおくれ。まずは、火の近くに寄りな。毛布も被って。暖かくするんだよ。いいね?
そしたら始めようか。とある島の小さな町の、冬の子と、ちっちゃな男の子のお話を。
むかーしむかし、とある島に、小さな町があった。町の人たちは、そこで、畑を耕したり、ニワトリや牛を飼ったりして暮らしていた。そしてそこには、春の子と、夏の子と、秋の子と、そして、冬の子がいた。
春の子が笑えば、雪が溶け、暖かい春がきた。
夏の子がはしゃげば、お日さまがサンサンと照って、みんながワクワクする夏がきた。
秋の子が微笑めば、作物がたっくさん実る、幸せな秋がきた。
そして、冬の子がフーと息を吹いたとき、雪が降り、寒くて厳しい冬がくるんだ。
春の子も夏の子も秋の子も冬の子も、みーんな神さまから、この町の季節を巡らせるように、って言われて、一瞬懸命がんばっていた。順番に、春の子は笑って、夏の子ははしゃいで、秋の子は微笑んで、最後に冬の子がフーって息を吹きかけて。
そうやって、季節は巡っていった。
町の人たちも、「ちゃあんと季節が巡るのは、この子らのおかげだ」って言って、みんな感謝していた。
そうやって、月日は流れていった。
この小さな町に、リクって名前の、一人の男の子が住んでいた。
この子は年の割に小さくて、怖がりで、おまけに泣き虫でね。友達から、よくからかわれた。
「やーい、やーい、ちっちゃいリク!
そんなに小さきゃ、踏まれるぞ!
やーい、やーい、ビビリなリク!
そんなにビビっちゃ、情けない!」ってね。
冬のある日、リクは、いつものようにからかわれて、いつもよりずっと悲しくなって、泣きながら走って、その場から逃げてった。
走って、走って、どう行ったかわからないくらい走って、気づいたら町はずれの森にいた。おまけに、辺りはもう暗くなってた。
リクは、暗い森の中に一人ぼっちだった。いつもなら、きっと怖くて泣いていた。
だけど、この時は泣かなかった。ちっとも怖くなかった。
だって、とても綺麗だったから。
一か所だけ、森に穴が空いていた。そこから、大きな大きなお月さまが見えた。お月さまの光に照らされて、積もった雪がキラキラ光って、まるで、一面に宝石が散りばめられたみたいで。
それはそれは綺麗だった。
リクはしばらくボーとその景色を眺めていた。
そして、ふと、そこに一人、女の子がいることに気づいた。
冬の子だった。
冬の子は、リクに気づくと、どうしたの?と聞いた。
「走ってきて、気がついたら、ここにいたの。帰り道が、わからない」
そう答えながら、リクはじわっと涙が出てきた。
それを見て、冬の子は慌てて、泣かないで、大丈夫だから、私が帰り道を教えてあげる、と言った。
リクはホッとして、冬の子と一緒に森を歩いた。
「ねぇ、君はどうしてあそこにいたの?」
リクが聞くと、あそこの近くに私の家があるからよ、と冬の子が答えた。
「それじゃあ、君のお母さんとお父さんも、あの近くにいたの?」
「いいえ、私には、お母さんもお父さんもいないもの」
「それじゃあ、君はあそこに一人で住んでるの?」
リクはそう聞きながら、またじわっと涙が出てくるのがわかった。
あんなに町から離れたところに、一人で暮らすなんて…。リクは考えただけで寂しくなった。
そんなリクを見て、冬の子は慌てた。
「本当に大丈夫なのよ。寂しくないわ。そういうものなの。町の人たちも、とても良くしてくれるもの」
それに、私は、これでいいの。
最後にそう付け加えた冬の子が、とてもとても寂しいそうに見えて、リクはまた、泣きたくなった。それでも、泣いたら冬の子が困ると思って、リクは精一杯明るく言った。
「あそこ、綺麗だもんね!僕、あそこ好きだよ!」
冬の子はそれを聞いて、小さく笑った。
それで、リクはすっごく嬉しくなった。
気がつくと、もう、町の入口だった。
「もう、大丈夫?」
冬の子に書かれて、リクは、うん!と元気よく返事した。
「ねぇ、また、遊びに行ってもいい?」
リクが聞くと、冬の子は少し困った顔をした。
「でも…あそこはとても寒いわよ?」
「大丈夫だよ!だって君といると、ちっとも寒くないんだもん!」
冬の子は少しびっくりした顔をして、ちょっと考えて、いいよ、って小さな声で言った。
それから、リクと冬の子は、少しずつ仲良くなっていった。冬の間、森の中で一緒に遊んだ。かけっこも、かくれんぼもした。冬の子がフーと息を吹いて、雪がチラチラ降り出すのを眺めるのが、リクは好きだった。春になると、一緒に森の奥まで探検した。綺麗なお花畑も、静かに流れる小川も見つけた。そこで、花かんむりを作ったり、草舟を流したりして遊んだ。
リクは、相変わらず、ちっちゃくて、怖がりで、友達によくからかわれたけど、ちょっとだけ、泣き虫じゃなくなった。
春が終わり、夏がくるという時に、夏の子が夏カゼをひいた。夏の子がいつもよりはしゃげないでいると、お日さまがあまり顔を出さず、夏なのに少し寒い日が続いた。
次に、秋の子が微笑んで秋がきても、作物があまり実らなかった。
町の人たちは、困って、相談を始めた。
「どうしよう。夏にあまりお日さまが出なかったから秋に取れる作物が少ない。これでは、厳しい冬を越すことが出来ない」
だから、町の人たちは、冬の子にこう言った。
「このままでは、私たちは冬を越せない。どうか、冬をとばして、春にしてくれないか。春は暖かく、山菜も取れる。どうか、そう出来ないだろうか」
冬の子は答えた。
「それは、出来ません。私達は順番に季節を巡らすよう、神さまに頼まれているのです。順番を飛ばすことは出来ません」
「そうはいっても、このままでは町で飢え死ぬ人が出てしまう。どうにか頼みたい」
何度も何度も、町の人たちは冬の子に頼んだ。
それでも冬の子が断っていると、だんだん、冬なんていらないのに、という町の人も出てきた。
「冬なんて、ただ寒いだけじゃないか。食料も取れないし、つらいだけじゃないか」
「いっそ、冬なんか無くなればいいのに」
普通ならチラチラ雪が降りはじめ、冬が始まる頃になっても、その年は雪が降らなかった。
不思議に思って町の人たちが冬の子の家を訪れると、そこには誰もいなかった。
冬の子が、いなくなっていた。
「冬の子は、いらない子だからいなくなったんだ」
「冬なんていらなかったんだ」
いつもリクをからかう子たちが、そう言った。
それを聞いてリクは、悲しくなった。苦しくなった。
はじめて、この子たちに大きい声で言い返した。
「冬の子は、いらない子なんかじゃない‼︎」
それから、ポカンとしている子たちをおいて、リクは走った。まるで、はじめて冬の子と会った日みたいに。
走って、走って、走って、走って
リクは、冬の子を見つけた。
「君はいらない子なんかじゃない‼︎」
リクは叫んだ。
冬の子はびっくりして振り返った。
「春の野菜が甘いのは、冬が寒いからだって、じいちゃんが言ってた!あったかいシチューが美味しいのは、冬が寒いからだって、ばぁちゃんが言ってた!
だから、冬が寒いのは悪いことじゃない‼︎
君が連れてくる冬は悪いものじゃない‼︎
だから……君は……君は……」
言いながら、リクは、ポロポロ泣いた。
冬の子は、ちょっと困ったように笑って言った。
「でもね、今年、冬が来たら町の人たちは困ってしまうの。リクのおじいさんとおばあさんもきっと困ってしまうわ。だけど、私はあの町にいたら、季節を巡らせなければいけないの。それが私たちと神さまとの約束だから。だから……」
私はね、あの町にいてはいけないの。
冬の子がそう言い終わるよりも早く、リクは冬の子をぎゅっと抱きしめた。
「あとね、僕はね、冬のいいとこ、もう一個知ってるよ。冬はね、寒いから、母さんに思いっきり、ぎゅってするんだ。するとね、とっても暖かくてね、すっごく幸せな気持ちになるんだよ。冬なんていらないって言ってた、いつも僕のことをからかう子たちもね、みんな家じゃお母さんにぎゅってしてもらってるの、僕知ってるんだよ。それで幸せそうな顔をしてるの、僕知ってるんだよ。みんなみんな、ぎゅってして、幸せな気持ちになってるの、僕知ってるんだよ。
それは全部冬が寒いからなんだよ。
全部君のおかげなんだよ」
だから、君は、あの町にいていいんだよ。
だから、一緒に帰ろうよ。
そういいながら、リクはポロポロと涙をこぼした。リクがこぼした涙は、冬の子の頬も濡らした。
それは、とっても、暖かい涙だった。
「本当ね。ぎゅってすると、とても暖かいのね。とても幸せな気持ちになれるのね」
そういいながら、気付いたら、冬の子もポロポロ涙を流していた。
「本当は、冬はこんなに、暖かい季節だったのね」
それから、しばらくの間、リクと冬の子は、互いにぎゅっと抱き合って、泣きつづけた。
すると、いなくなった冬の子とリクを、一生懸命探していた町の人たちが、彼らを見つけて、無事でよかった、と泣きながら駆け寄って来た。
よかった、よかった、そういいながら、町の人たちは何度も何度も、二人を抱きしめた。
やっぱり、とっても暖かかった。
それから、町の人たちは、冬の子に、無理を言ったことを謝った。「冬なんていらない」そう言った子達も、ひどいことを言ってごめんなさい、と謝った。
そして、みんなで町に帰って行った。
町に着くと、冬の子は、いつもより優しく、フーと息を吹いた。すると、いつもより優しい冬が来た。
町の人たちは秋に取れた作物を、みんなで少しずつ分け合った。冬にとれる少しだけの作物も、やっぱり、みんなで分け合った。少し寒いと思ったら、みんなでぎゅっと抱きしめ合った。
その冬は、町の人たちにとって、いつもより少し貧しくて、いつもよりずっと優しい冬になった。
そして、春の子が笑い、春がきた。
町の人たちは、みんな無事に、冬を越えることが出来たんだ。
それからも、ずっと、春の子が笑い、夏の子がはしゃぎ、秋の子が微笑み、冬の子がフーと息を吹いて、その町の季節は巡っていった。
今もそうやって、この町の季節は巡ってるんだ。
だからね、寒いなって思ったら、誰かにぎゅって抱きついてごらん。すると、きっとどこかで、冬の子が笑ってこう言ってるよ。
「寒い時に、ぎゅってすると、暖かくて、幸せな気持ちになれるでしょう?」
「だから、冬は寒いのよ」ってね。
ん?どうしたんだい?
え、ぎゅってしてもいいかって。
まったくもう。甘えただねぇ……
-END-
はちです。
冬の童話祭に出そうと思って書いたお話です。
参加表明してなかったので結局参加できませんでしたが…
誤字、脱字等ありましたらご指摘頂けるとありがたいです。
感想、コメントなど頂けましたら、よろこびまくります。
最後に、お読みくださいましてありがとうございました。
皆様に、最大級の感謝を込めて。