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アンジェは恐ろしさのあまり目を閉じた。
数発の発砲があった。
目を開けると男が倒れていた。
「リヒト…?」
アンジェの声にリヒトが振り返る。
「!」
リヒトの胸は赤く染まっていた。
最初の発砲を胸に受けたようだった。
「リヒト!!」
アンジェはリヒトに走り寄ると抱きしめた。
胸の血は止まらない。
「ノートを…燃やして、くれ…」
リヒトは男が握っているノートを指差した。
アンジェはリヒトを座らせ、ノートに近寄った。
男はしっかりとノートを握り締め、離そうとしない。
どうすればいい?
アンジェはリヒトを振り返る。
「燃やして…くれ」
リヒトが眉をひそめて言った。
だからアンジェはそのまま火をつけることにした。
台所から火を持ってきて、ノートに火をつけた。
火はたちまちノートと男を燃やしてゆく。
アンジェは火に背を向け、リヒトの傍に近寄った。
もうリヒトは息をしていなかった。
アンジェの目から涙が溢れた。
「ねぇ、私、甦らないほうが良かったかな。
そうすればあなたは死ななかった。
やがてあなたは他の誰かに出会い、結婚して幸せになったかもしれない」
アンジェはリヒトの頬に顔を寄せた。
「ねぇ、それでも私は嬉しかったの。
もう一度出逢えて、幸せだったの」
アンジェはリヒトに優しく口付けた。
リヒトの唇はまだ温かかった。
火は全てを飲み込んだ。
焼け跡から三つの死体が現れた。
二つは夫婦の死体。
そして残り一つの死体は誰のものか、判明しなかった。
近所の人が争う声と銃声を聞いている。
夫婦は事件に巻き込まれたのだろう、と噂された。
ブランは焼け跡を見つめた。
まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
幸せだと、笑っていたアンジェ。
耐えられない、と泣いていたリヒト。
まるで遠い日の出来事のようだ。
やはり、リヒトを止めれば良かったのだろうか?
あのまま、アンジェが死んだままでリヒトは生きていけただろうか?
…いや、それは無理だっただろう。
こうなる運命を止めることは出来なかったのかもしれない。
ブランはため息をついた。
そうして問いかける。
「お前達二人は本当に幸せだったのか?」
その問いに答える人は、もういない。