3
愛する人の死に耐えることが出来なかった。
例え、それが病死だとしても。
そんな時、日々の研究を思い出した。
それが神に背く行為だとしてもかまわなかった。
死んだ人を甦らせる。
リヒトはその研究を実行した。
アンジェのために。
そうしてそれは成功した。
アンジェは元気に暮らし、自分が死んだことも覚えていない。
それでいいのだ、そう思っていた。
「…ねぇ、私は一度死んだのよね?」
帰宅したリヒトにアンジェは聞いた。
「どうして…?」
思い出したから、とアンジェは悲しそうに微笑んだ。
リヒトはアンジェを抱きしめた。
「耐えられなかったんだ。君のいない生活に」
ああ、やっぱりこの人は一人では生きていけないのだ。
そう思ってアンジェは嬉しくなった。
「…うん、私もきっとリヒトが死んでしまったら、そうなるわ。
私、もう一度あなたに会えて幸せだわ」
自分の死よりもリヒトのことが心配だった。
だから甦った自分を素直に受け入れることが出来た。
「明日、職場の人が来る。だから」
「うん、分かった。ブランのところにでも行っているから」
アンジェの言葉にリヒトは安心したように頷いた。
そうか、思い出したのか、とブランは言った。
「うん。これで良かったのよ。だって幸せだもの」
そう言ってアンジェは笑った。
ブランも笑った。
「もう帰るね。そろそろ夕飯作らないと」
外は茜色に染まりつつある。
「ああ、気をつけて帰れよ」
ブランに手を振ってアンジェは帰った。
もう帰ったと思っていた職場の人はまだ家にいた。
部屋の中で声がする。
喧嘩しているようだ。
「…止めろ!」
男の叫び声が聞えた。
アンジェは思わず研究室のドアを開ける。
部屋の中央で何かが燃えていた。
男は必死になって火を消している。
「どうしたの?」
リヒトと男が振り返る。
男はアンジェを見て驚いたようだ。
「これが研究の結果か!素晴らしい!」
男はアンジェの腕をつかんだ。
「触るな!」
リヒトが男ともみ合いになる。
「なぜ、発表しない?
こんなに素晴らしい研究は発表すべきだ。
死者が甦るなんて、こんなに素晴らしいことはないだろう?」
「これは素晴らしいことじゃない。
神に背く行為だ」
自分の欲のためにアンジェを甦らせた。
誰かに知られてはいけないのだ。
いらだった男は懐からピストルを取り出した。
「それなら俺の研究として発表しよう。
このノートがあればそれが可能だ。
お前に用はない」
男はリヒトに向かって発砲した。