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次の日、ブランはリヒトがいないときに家に来た。
「どうしたの?リヒトは仕事だよ」
「ああ、知っている。だから来たんだ」
「?」
「…お前、今、幸せか?」
「何言ってるの?幸せよ」
アンジェは少し恥ずかしそうに笑った。
「なら、いいんだ。
お前は俺の妹のような存在だから、気になっただけだ」
二人が出逢ったきっかけはブランにある。
だから二人には幸せでいてもらいたい。
アンジェが幸せと言うのなら、これでいいのだ。
ブランは納得すると頷いた。
「変なブラン…」
結局、ブランはそのまま帰ってしまった。
「今日ね、ブランが来たのよ。
それでね、幸せか?って聞くの」
「…それで?」
「幸せよ、って答えたわ。だって幸せだもの」
ふふ、とアンジェは笑った。
そうか、とリヒトは言った。
「…ねぇ、私が死んだら、あなたはどうなってしまうのかしら?」
「!」
リヒトは驚き、アンジェを見つめた。
「だってね、あなたは無口で無愛想で人付き合いが下手でしょう?
私がいなくなってしまったら、生きてはいけないんじゃないの?」
リヒトは眉をひそめ、アンジェを抱き寄せる。
「冗談でも言うな。そんなこと…」
アンジェを失うなんて、もう二度とごめんだ。
あんな悲しみを味わいたくない。
「うん、ごめんね。
私、生まれ変わってもまた、あなたに恋がしたいわ」
アンジェはリヒトに抱きしめられながら幸せをかみ締めた。
リヒトの実験の部屋を掃除しているときだった。
山のようにある本を倒してしまった。
「あ~やってしまった」
アンジェは本を拾い上げた。
ふとその中の一冊のノートが目に留まった。
開いてみる。
リヒトの字で色々なことが書いてあった。
難しい研究をしていることは知っていた。
すごいな、と思っていた。
パラパラとページをめくる。
その中に自分の名前を見つけた。
『アンジェ、一日目。
胸が上下している。
成功したようだ。』
なんだろう?
観察日記のようにみえた。
ページをめくる。
『アンジェ、二十一日目。
目が覚める。
きちんと生前のことは覚えているようだ。
朝、普通に起きて食事を作る。
体に異常はないようだ。
良かった。』
これは何なのだろう?
生前のこと?
アンジェはめまいを感じた。
悲しんでいるリヒトの顔が浮かんでくる。
その時、自分はベッドに横たわっていなかっただろうか?
泣き叫ぶリヒトは何かを言ってなかっただろうか?