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介護付き(月)の王子様  作者: ゆうゆう遥か
1/1

夜空からの誕生日プレゼント

1話目です。

夜空を見てると不思議な気分に浸れます。


私は物心ついた頃から、夜空を見上げるのが好きだった。

夜空には、たくさんの星々。

そして絵に描いたような幻想的な月。

哀しい事や悩みも、夜空を見ていると忘れられた。


数年後、20歳の私は仕事に明け暮れる毎日を送っていた。

今、介護の仕事をしている。

高齢者の方達の、食事介助をしたり、オムツ交換をしたりと、

毎日大忙しだ。

職場は、住んでるアパートから徒歩10分で着く。

今年就職したばかりの私は、仕事を覚えるのに毎日苦労している。

要領は良くないタイプで、失敗ばかりで落ち込む事が多い。

でも利用者様(施設を利用する高齢者)の喜んでくれる顔を見れた

時は、とても嬉しい。

「ちょっと君」

1日の仕事が終わり、施設から出ようとすると、ふいに呼び止められた。

「お疲れ。今日はやけに張り切ってたね?」

そう言って声をかけてきたのは、私の指導係をしてくれている前田まえだ

さん。

男らしい体格で、力仕事が得意。

どんな利用者様も、ひょいっと持ち上げる事は造作もない。

「早く仕事に慣れたくて、頑張りました。それに‥‥」

「?」

キョトンとして私を見つめる前田まえださん。

「今日、私誕生日なんです」

恥ずかし気にそう言う私に、彼は拍手を送る。

「おめでとう!21歳かぁ。若いね〜」

彼もまだ若いのに、おじさんのようにそんな事を言う。

「では、お疲れ様でした。明日もお願いします」

お辞儀をし、彼と別れ歩いて帰宅した。

誕生日は特別な日だ。

一人暮らしの私は、自分自身で祝うしかないが仕方ない。

少し寂しいけれど。

窓の外を見ると、昼間晴れていたおかげで夜空が綺麗だ。

‥‥外に出てみようか。

私はサンダルを履いて、外に出た。

アパート周辺は街灯が少なく、夜はとても暗い。

だが私には星空が見えやすくて、好都合だ。

「きれい」

圧倒されるほど、夜空にはたくさんの星が瞬いている。

今にも星が降ってきそう。

そんな事を思った時、三日月がキラリと光り、黒点が現れた。

「なんだろ、あの黒いの」

目を凝らして、月を見ようとすると黒点が広がっていくではないか。

違う、何か接近している!

そう気付いた時には、遅かった。

目の前には、迫ってくる得体の知れない物。

反射的に目をつぶってうずくまる私。

降って来た隕石か何かで、運悪く死亡してしまうの⁉︎

しかも誕生日に‥‥‼︎

考えが頭の中で駆け巡る。


何も音はしない。

熱さも感じない。

衝撃もない。

何も、感じない。

私‥‥死んだの?


そっと目を開けると、そこには隕石ではなく、一人の女性が横たわっていた。

金髪の髪が足まで伸びており、顔は隠れている。

そして不思議な色をしたワンピースを着ている。

数秒間、驚いて見入ってしまったが、動かない彼女が心配になってくる。

そうっと近付き、肌に触れる。

体温と脈拍を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

まさか、夜空から降って来たのは、この人⁇

放置しておく訳にもいかず、私の部屋まで運ぶ事にした。

「よいしょ」

私の頭ひとつ分大きな彼女を、かつぐ。

予想より遥かに軽く、無事、部屋にたどり着けた。

布団の上にそっと寝かせる。

「すごくきれい‥‥」

まじまじと顔を見つめていると、突然目を開き、危うく叫びかけた。

叫びたいのは彼女かもしれないのに‥‥。

その目は私と同じ黒色だが、決定的に違う点があった。

目の中に、小さな星型がぐるぐる回っているのだ。

むくりと身体を起こすと、目の前の私を不思議そうに、その瞳で見る。

「きみは‥‥誰?」

不審がられたくないので、彼女にきちんと自己紹介をした。

すると彼女は、

御堂結月みどうゆづき。21歳。」と、私の言った事を繰り返す。

ちょっと人間離れした雰囲気の彼女に、名前を尋ねてみる。

「僕、」

僕⁉︎

「僕、名前忘れちゃった」

困った様子も無く、平然とそう言った。

倒れた時に頭を打ったのではないかと、私の方がオロオロ心配していると、

「大丈夫、心配しなくても。月の住人の体は貴重な物質で出来ているから

強いんだ」

そう言って微笑む。

金髪の長髪を揺らして、微笑む姿に見惚れてしまう。

「僕は月の世界では、落ちこぼれなんだ。皆のように黄金に光れなくて。

ほら、僕って汚いよね?」

自らの髪をつまみながら、表情に影を落とす。

そんな表情が、私と重なり気持ちが溢れそうになった。

「そんな事ない!貴方みたいに綺麗な人、見たことない。キラキラしてて

まるで星のお姫様みたい」

夢中で、そう言う私に

「‥‥初めて言われた。ありがとうね」

俯いて少し照れながら答えた。

「いいもの見せてあげる」

彼女は立ち上がると、人差し指で空中に円を描く。

すると瞬く間に、部屋中一帯が、闇色に包まれる。

呆気に取られていると、次第にポツポツと床や天井に、光の粒が見え始め

星空が出来上がった。

部屋全体がプラネタリウムのようで、身体が空中に浮かんでいるような錯覚を覚える。

「僕が人間じゃないって信じてもらえた?」

そう聞く彼女に、頷くしか出来ないでいると、彼女の指がもう一度、円を描き

空間が元に戻った。

何事も無かったかのように静かな私の部屋。

私は先ほどから気になっていた疑問を聞いてみた。

「貴方って‥‥男?」

「うん。雄だけど」

その場にひれ伏す私。

ずっと勘違いしてたーーー。

「ごめんなさいごめんなさい‼︎」

「ええと、謝るほどの事じゃないよ」

困ったように苦笑いする彼女改め彼は、私をそっと撫でる。

思わず驚き、顔を上げる。

女のように綺麗な顔立ちだが、微かに骨ばった手の感触が彼を男性だと伝えてくれた。

急に恥ずかしくなり赤面する。

「どうしたの?耳まで真っ赤だ」

尚も私の頭を撫でながら聞いてくる。

「‥‥雌は撫でると赤くなる」

どこからともなくメモとペンを取り出し、そう言い書き込む。

呆然と見ていると、ニコっと笑いながら

「いろいろな事、教えて下さい。勉強になるから」

まずは彼に、男女の呼び方を教える必要がありそうだ。


数時間後、そろそろ寝る時間に。

彼に布団を使わせているので、私の寝る場所を考えて見渡していると、

眠気が限界になってきた。

床ででもいいや‥‥。

横たわろうとした瞬間、彼に抱きすくめられる。

温かな彼の腕の中で、安堵に浸ってしまう。

なんだか船の上で、ゆらゆらと心地良く揺られている気分。

「一緒に、寝よう」

彼の言葉は聞こえず、眠りへと落ちていった。


翌朝、目覚ましがけたたましく鳴る中、目を覚ました。

布団の中でもぞもぞ動く。

耳元に吐息を感じ、振り向くと、横には彼が寝ていた。

「一緒に寝たの‥‥⁉︎」

更に、彼の腕は私の腰に回されており、抱き枕状態。

目覚ましが鳴っているが、彼の力が思いの外強いので、抜け出し止める事が

出来ない。

出勤時間が過ぎて行く‥‥。

それにしても、彼を一人残して仕事へ行くのは心配だ。

決心した私は、身をよじりながら力を込め腕から抜け出す事に成功。

思わぬところで介護士の体力を試す事になるとは。

仕事場に電話をかけると、聞き慣れた声が。

山田やまださん、当日になって申し訳ありませんが‥‥」

まさかトンデモない住人がいる事は言えず、風邪をひいたと伝える。

「そうか、了解したからゆっくり休むんだよ。いいな?」

優しくそう言ってくれ罪悪感があるが仕方ない。

健やかに眠る彼は、まだ目を覚ましそうになく私は朝ご飯の支度をする事に。

「月の住人は、夜行性だったりして」

彼の瞳の中に回っている星型を、早く見たくなってくる。



































次回もよろしくお願いします(ぺこり)

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