出会い
少しずつ書いていきたいと思います。
三人のちょっと不思議なお話。
僕はしがないカフェ店員だ。
「プレミアムコーヒーとチーズケーキのセットですね、かしこまりました。」
僕がオーダーを取ると、多くの女性客がこちらを振り向く。
小さい頃からかわいいかわいい言われて育ってきた、誰もが認める正統派イケメンだ。…と自分で言ってしまうくらいの美形だ。僕は完璧すぎる。
身長は少し小さめでそれがコンプレックスだけれど、それを除いたら、そこらへんの芸能人にだって負けてはいない。大御所の芸能事務所にも何度もスカウトされている。勿論、渋谷駅をずっと練り歩いてスカウト待ちしていたわけじゃなく、「ちょっとの時間」店の買い出しを頼まれている最中にね。
都内のはずれにある、小さなカフェの中で、僕は働いている。
ここ「カフェ・本の森」は、僕の知り合いである、中森勇作が経営しているカフェだ。
落ち着いたログハウス風の建物の中で、コーヒーを飲みながら古本を読むことが出来る。お客さんは固定客が多いが、植物の蔦と花に囲まれた神秘的な佇まいに惹かれて、新規のお客さんもやってくる。おかげでカフェは大盛況。基本的にひっきりなしにお客さんが入ってくる。お客さん同士の仲も良く、カフェでの出会いから友好関係、はたまた恋愛に発展する人もいる。
おっと僕の紹介が遅れたね。僕は宮木雅と申します。
ここのウェイターの仕事は僕の本職じゃありません。僕は昼間、普通の会社員をしています。
仕事は、パソコンやらテレビやらの電子機器のネジを作るお仕事。
朝の10時から働いて夕方4時まで。副職で、ウェイターのお仕事。
こう紹介しちゃうと僕が仕事大好き人間みたいだけど、勇作に頼まれてずるずるとお手伝いしているだけで、別に好きでやってるわけじゃないの。こんなこと言うと勇作怒っちゃうから言わないけどさ。
まぁでもウェイターのお仕事はアルバイトで割り切ってるから、気楽でいいんだけどね。
そんなこんなで楽しく今日もアルバイトをしています。
カランカラン。
午後二時を過ぎて、昼のピークが終わった頃に一人のお客さんがやってきた。
すっと伸びた姿勢。小さいけど凛とした目元。揺れる黒髪。
こんにちは、と小さく呟いて窓際に座った彼女。
僕は見惚れて一瞬動けなくなる。
そこまで美人という美人ではない。それなのに。何だか心が惹きつけられてしまう。
「いらっしゃいませ」
少し緊張しながらオーダーを取りにいくと、彼女はこちらを見て、ふふと微笑んだ。
「素敵なお店ですね」
「あ、ありがとうございます」
指が白くて細い。
恰好は茶色のカーディガンに白のシャツ。赤いロングスカート。
素朴な彼女はピアスも開けてない。右手の中指に小さな花の指輪がついてる。
指輪の真ん中にあるパールが、木漏れ日を反射させてきらきら揺れている。
「カフェオレいただけるかしら。あと、モンブラン一つ」
はっと我に返ってかしこまりました、だけいうと、足早に厨房に戻る。
冷静に仕事に取り掛かれていない自分に気付いて、何だか恥ずかしく、その日一日は胸の中がずっとざわついていた。
それが、柴田綾との出会いだった。