カミソリと俺と心の調和8
「深刻な問題? お、親からの虐待とか...?」
「いや、それは無かったんだが...俺が本人から聞いた話によると、彼女が中三になった頃から両親が自宅のリビングで言い争っているのを二階の部屋からずっと聞いていたらしい。そしてある時、交通事故に遭って頭を打ち、命は助かったものの事故の後遺症で一時期失語症になってたとか」
「失語症って、言葉が分からなくなるってアレ?」
「そう。高校二年になる頃には少しずつ回復してきてリハビリにも励んでいたようだが、その最中両親の離婚が成立し母親が愛人と家を出て、父親は有理沙ちゃんを児童養護施設に預けて姿を消した...」
ミチルはその話を聞きながら、思い詰めたような顔でただ一言「...ひどい...」
斗真はそれを横目に話を続けた。
「その後、大学入学と同時に施設を卒業。病院を退院して以前のように日常生活を行ってた時に俺と逢ったんだ、あの公園で。最初は昼休みに彼女の姿を見かけただけだったけど、仕事終わりに何気なく公園を覗いたら、とっくに夜八時を過ぎてるっていうのにまだスケッチブックに絵を描いてた」
「有理沙さん、その頃からよほど好きだったんだろうね♪ 絵を描くのが」
「まぁ、将来の夢が画家になることって掲げてたくらいだからな」
この時、斗真は迷っていた。
ここから先の話をして、もしミチルにより大きい不快感などを与えて、病状が今以上に悪化するのではないかと...。