カミソリと俺と心の調和3
「...斗真! 会いたかった...!」
ミチルは斗真のことを兄とは呼ばない。それは決して二人の間に兄弟の信頼関係が成り立っていないからではなく、ミチル本人は名前呼びの方がひどく落ち着くらしい。
「仕事、早く終わらせて正解だったな♪ ...ん?」
ここで、何かに気付いたようにしゃがみ込み、ミチルの両手を持って目を合わせる。
「...また切ってたのか...」
「...我慢出来なくて、つい...」
突然の罪悪感に襲われ俯いていると、斗真はそっと微笑みかけ、『怒ってないから、こっち向いて♪ 自傷癖の克服は、なにも無理して我慢すれば良いってワケじゃない。自分のペースで良いんだよ♪』そう言ってミチルの頭を撫でる。その温もりの心地良さに、自然と笑みが溢れる。
「じゃ、気を取り直して、いつものとこ行くか」
いつもの所とは、この近くにある猫カフェ。兄弟揃って猫好きで、室内猫として(実家で)二匹飼っている。
「今日は違うとこ行きたい...美術館、とか」
「ミチルは絵を描くの好きだもんな♪ 俺の同級生に画廊を開いてるヤツ居るから、そこ行くか?」
「...うん!」
満面の笑みで返事し車に乗ると、家の中で余程緊張していたのか、シートベルトを着けてすぐに夢の中に堕ちた。