カミソリと俺と心の調和13
二人無言のまましばらく歩いていると、東雲家の墓石が見えてきた。
墓石の前に人影が見えて斗真は立ち止まり、隣りにいるミチルにも分かるくらい身体に力が入っていた。兄が緊張している理由はすぐに分かった。
「...斗真、どうかした?」
「...お久しぶりです、おばさん」
ミチルは直感した。目の前にいる女の人が東雲有理沙の母親だと。
「この後、何処かで二人で話せませんか?」
「......」
「俺、ゲーセンかどっかで時間潰してるね」
「悪いな、一人にして」
「ううん、いいよ。気にしないで」
「駐車場で待っててもらえますか」
「......」
軽い会釈をして立ち去る後ろ姿が、ミチルには少し寂しそうに見えた。
「今年で六年か、時間が経つのは早いねぇ。今日は弟も連れて来た。ミチル、挨拶して」
「は、初めまして。一之瀬ミチルです...」
「お前、かしこまり過ぎ。...なんで顔赤いんだ? まぁいいや。来年は七回忌、また来るよ...二人で」
「俺、花瓶の水変えてくる...」
「...あいつなりに気を遣ってんのかね」
柄杓で墓石に水を掛けながら記憶の奥の思い出を掘り起こす。
六年前、有理沙が突然この世から居なくなったあの日のことを...。
「君は覚えてるかな、あの日最後に君が言った言葉...。あの日以来ずっと考えてるんだ。有理沙ちゃんがどういう気持ちでああ言ったのか...」
タオルで墓石を拭き、替えの造花を新聞紙から出し花瓶二つ分に分けながら
「確か、初めて会ったのは七年前の春だったか。当時プロの画家を目指していた有理沙ちゃんとまだ研修生だった俺。病院近くの公園で楽しそうににスケッチしている君を、たまたま通りかかった俺が見つけて...」
「......((なんか、気まずい...))。あっ...」
「そんなとこで何やってんだ? こっち来いよ」
小枝を踏んで出た音で気付かれ、渋々墓石の前まで行くことに...。
「ただの墓参りでなに緊張してんだ。前にも言ったと思うが、お前はそのままで良いんだよ。無理して何かしようとなんてしなくていいし、マイペースで良いから」
「.........っ...」
「どうした?」
「なんか今、声が聞こえたような...」
「もしかしたら、有理沙かもな。なんとなく人を寄せ付けないオーラを出してたけど、結構人と話すのは好きみたいだったし」
もしそうだったら面白いなと幻想を抱きつつ、墓前で手を合わせ祈った。