カミソリと俺と心の調和12
窓に映る景色や通りの花屋をぼーっと眺めながらミチルは考えていた。
東雲有理沙がなぜ死んだのかではなく、自分が彼女と同じ状況下に置かれた時、〝自殺〟という選択をしたかどうかだ。
幸いにもミチルには兄という名の支えがある。単に支えがあると云っても、リストカットの常習癖が治り、対人恐怖症を克服したわけではない。とはいえ、支えが有るのと無いのとでは大きな差が出る。状況が酷い方に進めば進むほど、事態は最悪な結果を招くこともある...。
「お待たせ。...なにか考え事か?」
「なんでもない...。早くコンビニ寄って有理沙さんのとこ行こう...」
「あ、あぁ...((間違いなく何か考え込んでいる様に見えたが、まさかな...))」
墓参りのセットとお供え用の花を後部座席に置いて運転席に戻る。
なにか胸騒ぎみたいなものがしたが、今日くらいはと目を瞑ることにした。
そして再び車を出した斗真だったが、かける言葉が見付からず、しばらく無言のまま走っていた。
程なくして目的地である墓地に到着した。
車が停まってからも二人共無言のまま少し重い空気が漂う中、斗真は運転席に座ったままある事を考えていた。そのある事とは、東雲有理沙の母親の事だ。
どんな親であろうとも我が子の命日に墓参りに来ない親はいないだろう。だが、もしもその母親と鉢合わせした際、ミチルがどんな反応をするのか。これでも前よりかは多少マシになってきている人への恐怖などが上がるのではないか、最初の頃よりも輪をかけて対人恐怖症が悪化するのではないかと懸念しているのだ。
ここでようやく重い腰を上げる気になったのか、斗真は座ったままの状態で一回深呼吸し
「...よし、行くか」
そう言って運転席を離れ後部座席の荷物を取り出し、ミチルもそれに続いて車を降りる。
車のロックを掛け、二人はゆっくりと歩き出した。