カミソリと俺と心の調和11
時刻は午前八時二十分。
朝食を済ませた二人は、お互いに荷物を持って家を出る。車に乗りシートベルトを着け出発する際、ミチルはまだ頭の中で考え込んでいた。ここまで考えが纏まらないのは初めてで、表情に出るのを必死に隠そうと平然を装おうとしたが、さすがは心療内科医と云ったところ、当然の如く気付かないハズはない。
「...まだ考え事してんのか?」
「...簡単に弟の心、読まないでよ...」
「分かっちゃうんだから仕方ない。というか、顔に出過ぎなんだよ」
エンジンを掛けガレージから車道に出る。
「というか、何か言いたげだな。...試しに言ってみ?」
「言って...良いの?」
「あぁ。兄弟なんだし、弟一人に背負わせるわけにもいかんだろ」
少し考え、モノの試しに言ってみようと決起し、ミチルは座席に体育座りをしつつ口を開いた。
「じゃあ言うけど...小さめのカミソリ、一本だけ持ち歩いて良い?」
「......」
「切らないから...持ってるだけにするから」
「...分かったよ。でも、もし切ったら...一日携帯禁止・没収な」
ミチルは大きく頷き前を向いた。すると、目の前の通りに花屋が見えてきた。
近くの駐車場に車を停め、「すぐ戻ってくるから、中で待ってて」とシートベルトを外しながら言う斗真にミチルは引き続き頷き答えた。