カミソリと俺と心の調和9
「元気なのかな、有理沙さん。会ってみたいな♪」
ジュース片手に楽しそうに言うミチルに、斗真はベランダのカーテンを閉めながら「...彼女は死んだよ。六年前に...」
「死んだ...? なんで? 原因は?」
「落ち着け。今から全部話すから、落ち着いて聞いてくれ」
体育座りになって蹲りながらも首を縦に振って返事した。
コーヒーを一口飲み、一息ついた斗真は、事の一部始終を話し始めた。
「初めて彼女に逢ったのは八年前、俺が研修で行っていた大学病院近くの公園で昼を過ごそうと行った際に偶然彼女の姿を目撃した。その時はちょうどスケッチブックに風景画を描いてる途中だった」
「...声、かけたの?」
「いや、あまりにも集中してるもんだから、声なんてかけれなかったよ。名前を知ったのはその日の夕方。午後の仕事が終わって俺が帰ろうとした時、たまたま見つけた精神科のカルテに貼られてた顔写真に見覚えがあった」
「それが、有理沙さんだね」
本棚に並べているファイルを取り出し開きながら「ホント、自分の目を疑ったよ。昼間見た子とカルテに貼られてるのが同じ顔なんだから」
「...女の人苦手なのに、よく仲良くなれたね」
「まぁ確かに、ちょっと女性恐怖症みたいになってるけど...有理沙ちゃんと出逢う前はまともだから」
「...会ってみたかったな、有理沙さんに...」
「会えるぞ、明日なら」
「...どういう事?」と首を傾げながら訊ねるミチルに、ファイルをテーブルに置いて「明日は彼女の命日なんだ」
「あ、だから...明日朝早いって」
「そういうこと♪」
ミチルの手を引き立たせて「明日も早いから、もう休め」
「まだ、話全部聞いてない」
「続きはまた明日だ。おやすみ、良い夢を♪」そう言って額にキスを落とし頭を撫でる。
「...絶対だよ?」と言いつつ頷き、ミチルは寝室に入って行った。