≫エピローグ≪
≫罰ゲーム≪最終話です。
少し長いかもしれませんがお付き合いください。
夜月は夢を見た。
子供の頃の思い出。辛い思い出。
辛い。それは今も同じ。
辛い。なのに何故逃げようとしないのか。
これじゃまるで、家畜みたいじゃないか。
→→→→→→→→→
埃の臭いがする部屋。
資料にあり歩く所がない部屋。
その中に少年がいる。自分だ。
ひたすら勉強をしている。死にたくないからだ。
足音が聞こえ、扉が開く。
「ーー」
名前を呼ばれた。だが、もう名前を覚えていない。
”前“の名前はあまり呼ばれなかったから。
「ーー。またお勉強?」
「はい」
「少し休んだら?」
「いえ、大丈夫です」
「あら、そう?」
「はい」
「……可愛いげの無い子ね」
女はそう言った。
少年は気にせず勉強を進める。いつもの事だ。
勉強して、訓練して、勉強して、訓練して。
将来、良い”研究員“になるために勉強する。
研究員になったら誰のために動くのかわからないまま働かされて、必要ならば仲間を殺す。
勉強は研究員になるため。
訓練は人殺しになるため。
いつだろうか? 母親にこんな質問をしたことがある。
「何故こんなことをするのですか?」
「世界のためよ」
世界のため。母親はそう言った。
こんなことが世界のためになる訳がないだろう。
それから数日後。両親の様子がおかしくなった。
いきなり発狂したり、屍の様に黙り込んだり。
どうやら薬の実験体にされたようだ。
その日から、よく両親に殴られるようになった。
少年はストレスが溜まりすぎて感情を表すことをしなくなった。
ある日、また親はいつものように発狂して暴れては少年を殴っていた。薬は失敗だったのだろう。
そんな中、暴れ狂う両親を無視して態度の悪い研究員達が部屋に入ってくる。
そして研究員は、
「こいつらを殺せ」
そう言ってきた。
期限は3日。
それまでに殺せなかったら自分も死ぬ。
期限は3日。
1日でできる。そのための訓練だ。
その日、少年は、
初めて人を殺した。
親のいなくなった少年は秀才だったため、鬼蘇茂に引き取られた。
綺麗な服。綺麗な部屋。綺麗なナイフ。
全てが変わりすぎて慣れるのに時間がかかった。
何年かして、少年は少しずつ”仕事“をするようになった。人も殺した。
ある日仕事の報酬として茂に何が欲しいか聞かれた。
その時、何故ああ言ったのか自分でもわからない。
「……兄弟が、欲しいです……」
「ほう……何故?」
「何故、と言われましても……」
きっと、寂しかったのだろう。
「まあいい。丁度仕事をするのにパートナーが必要になってくる頃だと思っていたからな。すぐに手配して明日、会わせてやろう」
「明日、ですか?」
「ああ。何か不満か?」
「い、いえ……有り難うございます……」
その日は何故かよく眠れなかった。
次の日、茂に呼び出されある部屋へと向かった。
扉を開けると、にこにこ笑っている女の子がいた。
「あそこにいるのが今日からお前の妹だ」
「妹……」
「2人共、仲良くするんだぞ」
そう言って茂は部屋を出ていった。
どうすればいいのだろう?
話しかければいいのだろうか?
そう悩んでいると女の子が近づいて来た。
「はじめまして」
「えっ」
「君が今日から僕の兄さんになるの?」
「え、あっう、うん……宜しく……」
「宜しく! 兄さん!」
その笑顔は眩しかった。
「あっ兄さんの名前は?」
「え、……忘れた」
「そっか。じゃあ僕がつけてあげるよ!」
「え、あ、いいの?」
「うん!」
女の子はずっと少年の名前を考えていた。
女の子が考えている間、少年は月を眺めていた。
月明かりが射し込み、部屋の中を照らす。
「う~ん……月と夜って字、使いたいなぁ……」
「あの……何でもいいよ?」
「う~ん……月夜って普通だし、女みたいだしなあ」
「…………」
「あっ! 夜月ってどう? 夜に月って書く」
「なんか、女みたいだなぁ」
「あ、いや……だった?」
「ううん。有り難う。気に入ったよ」
「えへへ」
その日から少年は”夜月“になった。
「ねぇ、君の名前は?」
「ん? 無いよ」
「そっか……」
“この世界”では普通の事だ。
むしろ名前を持っている方が珍しい。
「んー。じゃあ、君の名前は月夜ってのは?」
「月夜」
「月に夜って書く。俺と反対」
「なんか、男みたい」
「俺が女みたいだったから君は男みたいなのにしたんだけど、嫌だった?」
「ううん! 兄さん、有り難う! 気に入ったよ」
「へへへ」
“夜月”という名前を貰った。
“兄さん”という立場を貰った。
“月夜”という家族を貰った。
“幸せ”という感情を貰った。
その時、自分が生き延びるのに必死だった俺は、『こいつのためなら死んでもいい』そう、思った。
→→→→→→→→→
「――――さ……」
「んー……」
「兄さん!!」
「んー。何?」
「着いたよー。起きてー」
「ふわぁ……」
ああ、着いたのか。帰りたくないな。
その言葉が頭の中を駆け巡る。
「茂様の所に行けよ」
「……わかってる」
研究員の1人が睨みながら言ってきた。
夜月はため息をつき、月夜と共に茂の所へ向かった。
「ああ、帰ってきたか」
茂はどうやら資料の確認をしているようだ。
「ただいま戻りました」
「結果はどうだ?」
「1つは何の効果もありませんでした。他は問題ありません」
「そうか。ご苦労だった。1日休暇をやろう。1日で十分だな?」
「はい……あの、外出を許可してくれませんか?月夜を何処かに連れて行ってやりたいので」
「ふむ。いいだろう」
「有り難うございます」
「……何処か出掛けるの?」
横から月夜が小さな声で話しかけてくる。
「ああ。だから少し静かにしてろ」
「はーい」
「あまり目立つようなことはするなよ」
「わかっています」
「……相変わらす、可愛いげの無い奴だな」
「そうですか?……では、俺達はこれで」
夜月は茂が言った言葉を気にせず部屋を出ていった。
「ねえねぇ。何処に出掛けるの?」
「お前は何処に行きたい? 何処でもいいぞ」
「え、じゃあ! じゃあね、ゆうえんちに行きたい!」
「遊園地? わかった。じゃあ明日は遊園地に行こう」
「うん! やったあ~!」
「うひょお~! ゆうえんちだあ!!」
「おい。あまりはしゃぎ過ぎるなよ」
「はぁい」
今日は約束通り遊園地に来た。たまにはこういうのも悪くはないなと思った。
「兄さん!! 早速いろんなのに乗るぞ~!!」
「はいはい……」
それから時間になるまで、馬鹿みたいに遊んだ。
「あー、楽しかった!」
「お前、よく疲れないな」
「兄さん体力無いよね」
「お前は頭脳が無いよな」
「むむむ……あまり否定出来ない」
「ははっ。……おっとそろそろ時間だ」
「……早いね」
「だな……」
「待ち合わせ場所近かったよね?」
「ああ。少し歩くぞ」
そろそろお迎えが来る時間なので夜月達は待ち合わせ場所まで歩いていくことにした。
月夜が、こんなことを聞いてきた。
「兄さん、もし……”普通“に生きていけたらどうする?」
「そういうことを軽々と話すな。聞かれてるんだぞ」
「そうだけど、いいじゃん。別に」
聞かれているというのは盗聴されているということ。
つまり、外出するというのは必然的に監視されるということだ。
組織から逃げないように。
組織のことを口外しないように。
組織を裏切らないように。
監視されている事を知っていながら話を進める。
「そうだな……もし“普通”にできるんだったらもっとお前の兄貴らしい事をしてやりたいな」
「今だってできてるじゃん。他には?」
「んー……特に無いな」
「えー」
「お前は?」
「あー、そうだな。”普通“に、恋とか……してみたいな。あと、女友達ときゃっきゃしたり」
「何だその、無駄に女子みたいなやつ」
「いやいや。女子なんだって」
「ははっ。まあお前ももうそんな年だもんな」
「まあ、内蔵引きずり出し楽しんでるようじゃあ無理だね」
「確かに。ていうか楽しいのか? あれ」
「んー。多分」
「多分って自分の事だろ?」
「そうだけど、よくわからないんだよね」
月夜は夜月と同じ、というか、少し違うが、ストレスが溜まりすぎて常に笑うということ覚えた。
そして、もう1つ。
人に八つ当たりをすることを覚えた。だから殺す対象を酷く痛めつけるのだ。
夜月は無表情。
月夜は笑顔。
まるで反対だ。
「ねえ、兄さん」
「何?」
「僕のこと好き?」
「ん? 好きだよ」
突然の質問だったが、夜月は当然と言わんばかりに即答した。
「あ~。こう……なんでかな。兄さんって妙なところ鈍感だよね。わざと?」
「何がだよ」
「なんか、すごく妙なところ鈍感。馬鹿みたいに」
「馬鹿って何だよ」
「ばーかばーかばーか」
「何なんだよ!?」
「あはは。ゴメンゴメン」
「ったく」
「ホント鈍感だね」
「何だよ、さっきから……」
「お迎えがきたよ」
「ああ……」
「残念だな。もっと楽しみたかったのに」
「だな」
車を運転している研究員が窓を開けて言う。
「早く乗れ。人目につくとまずい」
「わかってる」
夜月達は車に乗り込む。
すると月夜が夜月の足に指で何か文字を書いていく。
多分、その文章は、
と お る は に げ れ た か な ?
徹を逃がした事がバレると大変なことになるからこういう手段を選んだのだろう。
夜月は月夜の手のひらに指で文字を書いた。
た ぶ ん に げ れ た と お も う
月夜が安心したような顔をする。
「ふわあ……眠くなってきた……」
「着くまで少し寝てもいいぞ」
「うん、そうする」
確かにあれだけ動けば眠くもなるだろう。
「兄さん」
「ん?」
「僕をおいて何処かに行っちゃ駄目だよ?」
「何処にもいかないよ」
「ホント?」
「うん」
「約束ね?」
「ああ」
月夜は不安になるのか、たまにこういうことを聞いてくる。
「兄さん。僕、兄さんのためなら何でもできるよ」
「ああ。俺もお前のためならなんでもできる」
「ふわあ……おやすみ。兄さん」
「ああ、おやすみ」
月夜は夜月の肩に寄りかかり寝てしまった。
「ごめんな。月夜」
夜月は月夜を自由にしてやれないことを責めた。
いつもの事だ。
夜月は正直、月夜を守っていく自信がない。
「うぅ……」
月夜は少し魘されているようだ。
夜月の頭の中でふと、さっき月夜が言った言葉がよぎる。
『もし……”普通“に生きていけたらどうする?』
「月夜、俺らには”普通“だなんて有り得ないんだよ。それが例え話だとしても」
「ぅぅ……」
「だからこそ俺はお前のためならなんでもできるよ」
「…………」
「お前のためなら、死んでも、構わない」
夜月はふと、月夜の方に目を向ける。
月夜は眠りながら、悲しい顔をして。
涙を、流していた。
読んでくださり有り難うごさいましたー!!
本当は5話位で終わらせるつもりだったこの話。
こんなに長くなってしまいました。
最後まで読んでくださった方本当に有り難うございます!
と・こ・ろ・で、皆さん。
いやいやいや。なんか中途半端じゃん。
と、思った方!
そういうことです。(どういうことだよ!)
まあ、そんなこんなで
本当に、本当に、
最後まで読んで下さり有り難うございました!!