第10ゲーム ≫ゲームオーバー≪
今生きているのは葉と徹、目の前の化け物2匹だけ。
もうすぐで、全てが終わる。
「さて、最後に長野が死んだ時の話をしよう」
「……長野さんもよくわからない薬を使ったの?」
「ああ。あの薬は脳を少しずつ破壊していくものだ」
「よくそんなもの作ろうと思うわね。頭可笑しい」
「まあ、作ったのは俺ではないんだが」
「兄さん、僕疲れた」
「じゃあ椅子にでも座って休んでろ」
「それでなんで長野さんまで殺す必要があったの?」
「見られたんだよ。七穂の食事に薬を盛る所を」
「あれは完璧僕の注意不足だったね」
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月夜は今まさに七穂の食事に薬を盛っている最中だった。
その時、何かの気配を感じた。
……誰だ? 見られるとまずい。
どうする?
今殺すか? いや、駄目だ。
騒がれると面倒だ。
月夜はそんなことを考えていた。
しばらくしてその気配が去っていった。
月夜は気づかれないように後ろ姿を確認した。
消えていく後ろ姿は、長野だった。
「見られた?」
「うん……」
夜月は見るからに怒っている。その威圧に耐えきれず月夜は目をそらす。
「誰に?」
「……長野」
「はあ……それで?」
「特に何も」
「……まずいな。バレて騒ぎになると計画が進まなくなる」
「うん……」
「隙を見て殺すぞ。いいな?」
「わかった」
しばらくして扉をノックする音がして開けると長野がいた。
「月夜」
「大丈夫。多分」
夜月は月夜にしか聞こえない声で
「隙を見て殺せ」
そう、声を低くして言った。
それに月夜は目を合わせ頷きもせず部屋から出ていった。
月夜は長野に追い詰められながらも殺すチャンスを見計らっている。
「七穂ちゃんの夕食に何か白い粉入れてたよね?」
「……ッ!」
「黙ってないでさぁ。教えてよ」
「やだ……」
「俺だけでも逃がしてくれないかな?」
「やあ!!」
その瞬間、月夜は長野を階段から突き落とした。
「うああああああああああ!!」
「はぁ……煩いな」
遠くから此方に走ってくる足音が聞こえる。
「……これは僕の演技力が試されるよね」
月夜は深呼吸して泣き崩れるフリをした。
しばらくして徹を部屋から追い出し夜月は話し始めた。
「長野は? 死んでなかったんでしょ?」
「ああ。気を失っているだけだ」
「どうするの?」
「上杉にバレないように長野の口の中に薬を入れてきた」
「ああ。あれか」
「まあ、しばらくすれば効いてくるだろう」
「一応、事故っぽくしといたよ」
「そうか」
「これからどうする?」
「まあ、ある程度結果が出たしな。特にやることはない」
「じゃあ、長野に飲ませた薬の結果が出るのを待つだけか」
「ああ。そう言うことだ」
その後、長野の息は止まった。
→→→→→→→→→
「ちょっと待って! 昭太くんが言ってた上杉さんの私物から出てきた瓶ってなに?」
「あれは上杉が長野を見ている間に上杉が置いて行ったジャケットの胸ポケットにこっそり入れたんだ」
「何のために!?」
「念のためだ。特に意味はない」
「早めにバレると計画が進まないもんね~」
「さて、そろそろ終わりだ」
「……あぁ……」
葉は咄嗟なのかわからないが徹を庇うように抱き締める。
「他に聞きたいことはないか?」
「……こんなことして絶対後悔するわよ」
「ああ。そうだな」
「兄さん、そろそろ研究員がくる時間だよ」
「わかった。じゃあもう死ね」
「葉さん!!!」
最後に徹が叫んだが、結果は変わらなかった。
葉は頭に1発、銃弾が貫通した。徹は葉の返り血で真っ赤になった。
「葉さん!!」
「徹。お前は――」
ああ。もう、駄目だ。
徹がそう思った時、夜月からは意外な言葉が発せられた。
「――逃げろ」
「え……今、何て……」
「逃げろと言っている」
「な、んで……おれだけ」
「早く逃げろ!! 殺されたいのか!?」
「うう……」
徹はあまりの恐怖に声を出さず泣き出してしまう。
そして夜月は徹を抱きかかえ出口へと向かう。
「何でおれだけ生かすの!? どうしてみんなを殺したの!!?」
「みんなを殺したのは仕事だからだ。命令されたから殺した。お前を生かすのは……お前は、生きなきゃならないからだ」
「おれなんか……どうせ生きてたって……」
「……そうかもしれないな。けど、お前は生きなきゃならない」
夜月は出口の所で徹をおろし、しゃがみこんで徹と同じ目線になり、徹の目を見て言い聞かせるように話す。
「此処の坂を真っ直ぐおりて行けば町がある。そこの町まで走り続けろ。いいな?」
「いいから走れ。運が良ければ『菅野治』っていう男に会えるはずだ。運が良ければ」
「何で、その町なの?」
「町には男の探偵事務所がある。よく町を彷徨いているはずだから運が良ければ会えると思う」
「うう……」
「ほら、泣くな。泣く暇があるなら走れ」
「でも……」
「何を迷ってる! 早く行け!!」
「うああ……!!」
徹は泣きながら夜月に背を向け走り去って行く。
「うわあああああああ!!」
「……徹。強くなれ。誰にも負けるな」
「兄さん、これ怒られるんじゃない?」
「何が?」
「だって、あの子僕らの顔見てるし口外されたら……」
「多分、しないと思うぞ」
「何で?」
「なんとなくだ」
「あっ」
「……来たか」
その時、ぞろぞろと研究員達がやって来た。
徹は、ただ、ただ、走り続けていた。
ようやく、町が見えてきた頃で、くたくたになりながら走って走って走って、倒れる思いで町の中心へと近付いた。
「はあ、は、ぁ……」
徹は路地裏あたりに倒れるように座り込んだ。
町の人々は徹の事などお構い無しで過ぎ去っていく。
誰も、他人の事など気にしない。気にする必要がないからだ。
ぽつぽつと降っていた雨がだんだん激しくなる。
人通りが少なくなる。傘をさす人が町を歩く。
誰も目を合わせない。
その時、徹の目の前に立ち傘を差し出す人が。
「君、大丈夫? お家は? ……血がついてるけどどうしたの?」
「……ッ! ぁ、……だ、だれ……なの?」
「怯えてるね。大丈夫だよ。怖くないから」
「だれ、なの?」
「僕は菅野治。一応、探偵だよ」
徹はその言葉を聞いて、その名前を聞いて泣き出してしまった。
夜月は研究員達が散らかったものを片付けているところをじっと見ていた。
研究員の1人が夜月に言う。
「この屋敷はもう駄目だ。燃やすぞ」
「ああ。わかった」
「それと、研究所に帰ったら茂様がお待ちだ。今回の結果を報告しに行け」
「わかった」
茂とは、『鬼蘇茂』のことだ。
鬼蘇家は随分昔から様々な研究をしてきた家だ。
夜月と月夜は養子だ。
「そろそろ出発する」
「ああ」
夜月達は用意されていた車に乗り込む。護送車のようなものに。
それと同時に他の研究員達も乗り込む。
「あまり調子に乗るなよ」
そばにいた研究員が夜月に向かって言う。
「何が?」
「茂様に気に入られているからって調子に乗るなよって言ってるんだよ。程々にしないと組織に消されるぞ」
「ご忠告どうも」
「…………」
その研究員は夜月を睨みつける。
「兄さん……」
不安なのだろう。月夜は震える声でそう言った。
「どうした?」
夜月は不安そうにする月夜の手を優しく握った。
「……ううん。何でもない……」
「出発するぞ」
外にいる研究員が屋敷に火をつける。
徐々に燃え上がっていく屋敷を後に護送車のような車は発進した。人混みを避けれるような道を選んで進んでいく。
燃える屋敷を見て夜月は子供の頃の事を思い出していた。
自分の人生は何処で間違えてしまったのだろうか?
何故こんなことをしているのか?
何故、自分には、月夜には、自由が無いのだろうか?
人生を間違えたのは、生まれたとき。
こんなことしているのは、自分が上の人間に逆らえないから。
自分、月夜に自由がないのは、自由を勝ち取れる程強くないから。
夜月はだんだんと眠くなってきてしまった。
ここ数日、しっかり寝ていないから無理もない。
睡魔に勝てず、少し眠ることにした。
夢の中で夜月は、子供の頃の夢を見ていた。