MEMORY 2
中沢は自分の記憶について話し始めた。俺は、俺はこの疑問を解消することに全力をつくすことに決めた。退屈な毎日だった。毎日毎日きめられた時間に起きて、クソして歯磨きして、登校。こんな日々を続けるために生きてきたのか、生きていくのか。そして何より、自分の身を守るために。
「先輩は人が死んだところ、それも老衰とかではなくてグチャグチャになるような、そういう場面を見たことがありますか?」
僕は首を横に振る。
「僕、一度だけ見たことがあるんです。トラックにひかれて、それはもう……。すぐに救急車が来たんですが、勿論即死です。その死体が野次馬の間からちらっと見えたんですが、それがおかしいんです」
「おかしいってのは?」
「人間じゃなかったんですよ、その人間が。」
「??」
「ロボットだったんです。中身は機械。といっても僕らの思っているような機械じゃなくって、もう少し生命体に近いような。内臓とか骨格が、僕らの知っているそれではないんですよ。」
「どういうこっちゃ」
「それで、その後にパトカーでやって来た人たちが持っていたのがこの機械です」
「お前にくれたの?」
「違いますよ、作ったんです。ネットに情報がおちていたんですよ」
「はあ」
「で、さらに問題が続くんです。この事件のことを聞いても、誰もロボットの死体のことを覚えていないんです。いや、事故そのもののことは記憶しているんですけれど、死体が人間じゃなかったことについては、誰に聞いても全然だめでした。」
「ふむ」
「僕ら二人の記憶が消えないというこの共通点は何なんでしょうか」
「何なんでしょうね。というか、俺としては、その記憶ぬりかえ装置の仕組みが気になって仕方ないんだけれどさ。順当にいって、それを明らかにするのならば、この装置の仕組みから攻めるべきじゃないか。しかも、中沢はそれをもっているわけで。というか、それは本物なのか?」
「あ、これですか。本物です。間違いありません。先輩、今日田中さんと話ましたか?」
「ああ」
「話、通じました?」
「!」
「昨日した会話、田中さん覚えてなかったんじゃないですか」
「分かった、分かった。本物だな。あんまりむやみに使うなよ。で、仕組みは分かるの?」
「仕組みは単純で、ボタンを押している間に、特定周波数の電波とごく微量の塩化水素が出ているだけです。その間に僕の方で与えた情報を相手は鵜呑みにします。今のところ分かっているのはそのくらいです。」
「ふーむ。意味不明だな。それだけで人間の記憶が変わるとは思えん。」
「お客様、そろそろ閉店の時間なのですが……」
ウェイターさんがまたまたやって来た。いいところなんだが。
「すみません。行くか、中沢よ」
「はい」
外はすでに暗くなっていて、吹く風は秋のにおいを含んでいた。