SCHOOL
ミンミンゼミが鳴いている。朝からうだるような暑さだ。教室の天井に設置してある扇風機が首を振りながら送風している。
「こちらが今日から転校してくることになった、山田花子さんだー。仲良くしてやってくれ」
ドヨドヨ
「あのーハナコといいます、宜しくお願いします!」
ペコっと頭を下げた彼女は何を隠そう、昨日の彼女である。偽名のにおいがプンプンしている。教室がどよめくのも無理はない。ここは男子校だ。男子校。大事なことなので二回書いてみた。
「せんせー」
「なんだ、田中?」
「なんで女の子の転入生が来るんですか?」
そうだ、その通りだ、と俺は激しく同意する。
「これには訳があってな。俺も平教員だから、詳しいことは聞かされていないんだが、文科省のお偉いさんの決定事項らしくて。」
「」
俺も全然、意味分からないから絶句する君の気持ちはよく分かるぞ、田中。大方、あのよく分からない昨日作ったなんちゃって記憶塗り替え装置で色々でっち上げたに違いない。しかし男装するはずではなかったか。なぜあえてこんな面倒な真似をしたのか腑に落ちない。
「というわけで、みんな仲良くするように」
「ういーす」
休み時間には転入生の周りには人が集まり……となりそうなものだけれど、男子校で同年代の女の子に接することに慣れているやつはそう多くないのでそのようなことにはならない。その上、得体が知れないことこの上ないので皆も何となく敬遠している節がある。
「ねえ」
そんなに親しげに俺の方に来るんじゃないよと、心の叫び。
「あ、はい」
「今晩、暇?」
「部活、そのあと塾で勉強」
「部活、そのあと塾で勉強」クスクス
「真似すんな」
「だっておかしくって」
「昨日はあんなに泣きそうな顔していたくせに、今日はそんなに仏頂面しながら『部活、勉強』でしょ」
「いいから、そういうこといわなくていいから」
ほれみろ、周りのやつの興味津々な顔を。
「修理計画を立てたいんだけど」
「へい」
「よろしく」
「」
彼女はてってと自分の机に去っていった。昨日花子くんに会った時点で俺のマトモな生活は幕を閉じ、どんどんイヤな方向へ引きずられていく予感がする。チャイムがなり、おのおのが席に着いて、僕は質問ぜめにあうことなくその休み時間を終えた。