【タイムスリープ】
タイムスリープ。
それは寝ている間に時間が進む現象である。
1日、2日、3日。いやいや、それどころではない。
1週間、2週間、3週間、そんな話じゃないんだよ。
1月、2月、半年、1年、いやいや、もっと、10年、まだまだ。
300年!!
更に!プラスの!500年!!
合わせて!なんと!800年!
、、、そう、、、。
この男は800年間ものあいだ、眠り続けていた。
途中、300年くらいで、オシッコをしには行ったが、それ以外はほとんど眠った。
起きたら寝癖が取れないどころの話ではなかったので、すぐにボーズにしたし、ボーズにするためのバリカンはそこに置かれてあった。
タイムスリープをした理由については、彼は重い病気に掛ってしまったからである。
彼は死にたくなかった。彼がタイムスリープした時代の医療はわりかし進んでいた。
すでにガンはなんでもないくらいの病気になっていた。
医者も「風邪ですよー」━の、テンションで「ガンですよー」━と、患者に言っていたし、薬局では、風邪薬の雰囲気でガン薬が置かれていたし、おたふく風邪の雰囲気でエイズに掛かる若者も続出していたし、ピンクの小粒はさらに小粒になっていた。
しかし!!それだけ医療の進んだ時代であっても、治らない病気も、まだ、あった。
その1つが、病名【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】である。
【オー・イチ・ゴー・ナナ】はとっくに治った。
【オー・イチ・ゴー・ハチ】も時代が進むにつれ、薬品が開発された。
しかし、【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】だけは無理だったのである。
世界医療開発センターの1番エライ奴も、「いやー、時代的に、パーツとか揃ってないんで、ムリっしょ」━と、諦めていた。
それに割って入る様に、2番目にエライ、副理事長的な奴が、「あのー、しかし、これは言っておきたいんですがねー、出来る理論は分かってるんですよ。つまり、我々は、作り方、作るメカニズムに対してはシッカリと把握しているわけです。ただ!それらを作るための材料!つまりは!いま、院長がおっしゃった様、パーツが無いというだけの話であって……」と、自分達の名誉を守る為の発言に専念していたので、彼は怒った。
「オマエラの名誉を守るための発言はいらねんだよーー!!そんな1滴1滴の大切さはいいから!俺の病気を治せ!治しやがれ!金ならある!俺は社長だ!正確には社長の息子だ!とおいやーー!!!」━━社長の息子は金をバラ撒いた。
床にバラ撒かれた札の1枚を看護婦がそーっと、自分のつま先下に隠した。彼はそれを見ていたが、もう、そんなこと、どーでも良かった。もはや、金などいらない。死んでしまえば意味もない。私は死にたくないのである!、、、彼は嘆いた。
それからどーやったら死なずに済むか、色んな方法を調べた。
雨の日も調べた。
風の日も調べた。
嵐の日も調べた。
室内なので特に問題もなかった。
インターネットでそれ関連のサイトを手当たり次第に調べまくったのだ。
途中、変な闇サイトに行きつき、変な薬を買ってしまったりもした。それくらい必死だった。追いつめられていた。
そして、ようやく、信頼出来る1つの方法に辿り着くことが出来た。
、、、それが、、、、。
タイムスリープである。
眠っている間、人間の体は機能しない。
したがって、病気も進行しないと知る。
彼はタイムスリープをすることにした。
【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ハチ・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】が治る医療が開発されている時代まで眠る予定にした、と、いったところで、無論、そんなものは、未来の事なので、いつなのか、なんてもん、分かるはずない、なので、とにかく、いっぱい、眠る事にした。
なぜなら金はあった。
彼は社長だった。
そして、正確には社長の息子だった。
たくさんの金を投資しまくり、世界トップクラスのタイムスリープを受けるものとなった。━と、いったところで、彼からしてみれば、大した金額ではなかった。
それに、この時代のタイムスリープは思っていたより手頃だった。キャンペーン中ならさらにお得だった。なので、その日を狙った。
金持ちほど、そーゆーところに目がないものだ。
彼は社長である。金持ちである。そして、正確には、社長の息子である。
さらにもっと言うと、おじいちゃんも社長だった。
ヒイおじいちゃんもだった。ヒイヒイおじいちゃんもだった。もう、そんな家系だった。恵まれていた。つまりは、ボンボンだった。
根性が腐れていた。
世間を舐めていた。
「ほーら!金だ!金だ!ビンボー共よ!拾いやがれー!」━と、文房具屋で売っている、裏がメモ帳になっているお札を撒き散らかしながら大学に通ったりしていた。
さすがに本物のお札でするほどではなかった。なぜなら、彼は社長の息子であって、社長ではないからである。
社長は息子に甘かった。そして、心配性でもあった。毎日が父親参観日だった。
そして、そんな、息子が、【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ハチ・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】に掛ってしまったわけである。
金などいくらでも出した。そして、息子が生き延びるためには800年間、別れなくてはならないということを知った。
父親は泣いた、、、。
息子も泣いた、、、、。
しかし、すぐに泣き止んだ。
理由は一緒にタイムスリープしてしまえばいいではないか、という逆転の発想に到ったからである。
したがって父親もタイムスリープすることにした。
それだけではない。
母親も、父親と同じくらいに息子を愛していた。
したがって母親もタイムスリープすることにした。
元社長のおじいちゃんも彼を愛していた。
したがっておじいちゃんもタイムスリープすることにした。
なにも、彼を愛しているのは父や母やおじいちゃんだけではなかった。
【彼は、とっても、人気があったのだ】
【━━━タイムスリープ当日━━━】
カプセルの前には4227名が並んだ。内、身内が56名、友人が32名、お手伝いさんが1944名、猫が7匹、ワンちゃんが101匹、子豚が3匹、宇宙人が4体、それらの、ドサクサに紛れて、タイムスリープをしてみたいと思っただけの全く関係ない奴がわんさかいた。
そして、そんなことは何1つ関係なく、彼の病気は進行していたのだった。
【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ハチ・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】―のウィルスが繁殖し、今や……【オー・イチ・ゴー・ゴー・ゴー・ハチ・ニー・イチ・サン・ニー・サン・ナナ・キュー】にまで発展していたのだ。
そうなってからでは遅い!手遅れになってしまう!早くタイムスリープしなくてはならない!
もう!
身内とか!
身内じゃないやつとか!
宇宙人とか!
どーでもいい!!!
そんなものを分けている暇もない!いやいや、少しはある……少しはあるけど、めんどくさい!金ならある!えい!えい!えーい!!こーなりゃ!全員まとめて!タイムスリープしてしまえええええええーー!!!!
(ガシャン!!)
(ういーん!!)
(プシュー!!)
金持ち家族は長い眠りについた。
家族じゃない奴も眠りについた。
長い眠りは300年間つづいた。
はじめに起きたのは父親だった。
デジタルモニターに表示されているカプセル板には【300年経過】━━の、文字。
つまり、あと、500年、眠れる計算だが、オシッコがしたかったので起きた。
父と一緒に息子も起きた。生活リズムがずっと一緒だったので、トイレに行くタイミングも一緒だった。
それは母親もだった。
じいちゃんもだった。
ばあちゃんもだった。
4、5人で起きて、盛り上がり過ぎたので、うるさすぎて、他の奴も起きた。
2時間が経った。
眠っている奴の方がめずらしというまでの流れとなった。
起きた人間に叩き起されたり、ボールペンで顔に鼻毛を書かれたりする奴も現れ出した。
それから「腹へった」といって、コンビニに行こうとした、おじいちゃんが絶叫した。
「えええーー!セブイレねーじゃん!!」
セブイレが消えていた。
セブイレだけではない。
ファミマもローポンもエブリーも消えていたのだ。
それだけではない。
店、家、問わず、建物という建物はほとんど消えていたのだから。彼は焦った。みんなも焦っていた。
もう、ミステリアス過ぎて、考えるのも嫌になったので、何も見てなかった事にして、全員、眠る事にした。
こいつらは基本的にめんどくさがり屋だったので、あまりにもミステリアスだとホッタラカしてしまう性格だった。
それは、そーゆー血筋だったので、全員が全員、それでいいとも思っていたし、誰も、そんな事はあまり気にも止めてはいなかった。
呑気な家族は、再び長い眠りについた。
【800年が経った】
(がさがさがさがさがさ)
最初に起きたの社長の息子だった。そして、焦った。
それもそのはず……。
そこは『ゴキブリだらけ』の世界だったのだから。
他の場所からも大声、絶叫、悲鳴が聞こえた。
まだ長い眠りから覚めきれていない脳ミソのまま、彼は飛び跳ね、騒ぎ立てた。
意味が分からないままに彼は叫んでいた。
体は苦しかった。
【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】のウィルスは、わずかにだが、少しずつではあるが、タイムスリープの中、進行していたのだった。
この世界に薬局はなかった。だから薬なんてなかった。
医療技術が上がるどころか、変わらないどころか、退化どころか、滅びていたのだから。だから、苦しむしかなかった。だから、苦しかった。そして、苦しかった。とても、苦しかった。
その苦しい中、彼は周りを見渡した、が、やはり、そこは、その世界は、おごめかしい世界、という表現も出来ないほどに「ゴキブリ」「ゴキブリ」「ゴキブリ」「ゴキブリ」ゴキブリだらけの世界でしかなかった。
彼は無数に溢れ返るゴキブリの中、体を引きずり続けていた。玄関の扉を開けようとした。しかし、それが正確に玄関のドアノブなのかは分からなかった。
なぜなら、そのドアノブには大量のゴキブリがウジャウジャと集っていたからである。
小さいゴキブリや……
大きいゴキブリや……
赤や青や白や緑や……
黄色や水色や紫や……
一瞬、一瞬で色が変化するレインボーなゴキブリやらが沢山いたのでおじいちゃんは絶叫していた。
「うわー!めっちゃ!きもちわりーんすけどー!」
彼も鳥肌を立てていた。
鳥肌を立てながら、ゴキブリだらけの世界を何日も歩き続けていた。
最初にタイムスリープから目を覚まし、この世界を見て、自殺する人間を含め、大量の人間が一気に死んでいった。
4000人以上居た人間の数はすぐに半分にまで減った。
それから、しばらく経たないうちに、その半分もまた半分に減った。
そして、その半分が、さらに、半分にまで減った時の人間達はみんなゴキブリを食べていた。
もう、生きる希望も、意味も、そんなことすらも考える気力もない人間達の中で、苦しむ人間達も増え続ける中で、生きるためには、何か食べなくてはならない。
だからゴキブリを食べるしかなかったし、それがこの世界の「生きる」でもあった。
しかし、1つだけ問題があった。
それは……【この時代のゴキブリはめちゃくちゃ強い】……という事であった。
800年の時を経て進化し続けたゴキブリ達は昔の何倍も強い。早い。無敵状態。人間達を食べる。人間が寝ている間にその人間の体を、バリ、ボリ、バリ、と食べてしまい、起きたらどーしようもなくなっている人間達は動けないまま、少しずつ食べられていくしかなかった。無論、人間も腹が減る。だから、そのゴキブリを殺して食わなくてはならない。しかし、逆に食われる事の方が圧倒的に多かったし、殺されずに食われる事も多かったのだ。
増殖、繁殖、増殖、繁殖、増殖、し続けるゴキブリ達に、とても太刀打ちできるわけはなかった。
しかし、生きるためには、それを食うしかない。
なぜなら、それしか無かったのだから。他の動物はいなかったのだから。植物も全滅していたのだから。
【なぜ全てが無くなったのか?】
核戦争?ノー!!
隕石衝突?違います!!
もう……300人程になった人間達はそんな事すらも考えなくなっていた。
人間は人間達の【絶滅】を覚悟した……が、そこで突如として人間が増え始めたのだった。
はて?はて?
なんで???
まずはポッと10人。
20人、30人を超える頃には、もう、みんな事情を分かっていた。それからも人間達は増え続けていった。
【━━800年前━━】
ここからは少し、金持ち家族と、他人を合わせた、およそ、4000人が同時にタイムスリープをした、少し、、、後の世界のお話をしよう。
いくら金持ちといえども、タイムスリープが手頃な値段で出来る時代だったとしても、それでも4000人同時にそんなことをすることなんて、それまで無かった、以前に、タイムスリープという科学技術自体が、それ程までに、世間に認知されてもいなかった。
そう、この日、事情が変わった。
金持ち家族の一斉タイムスリープを面白がったマスコミはすぐにそれを報道した。
タイムスリープの記事は世界中に配信された。雑誌に載った。テレビで流れた。ラジオで聞こえた。
以下に、ジャパニーズタイムリーの記事を引用する。
「今、話題のタイムスリープだが、果たして、この科学技術は善なのか、悪なのか、はたまた、なんなのか?と、考えている人間は多いのではないのだろうか?なぜに?これほどまでに?話題沸騰なのでしょう?と、詳しく知りたくなっているのは私だけでは無いはずである!今現代の医学で治らない病気にか掛かってしまった。めちゃくちゃ未来が見てみた~い☆なんとなく現代にいたくないっす……―と、人によって、理由は様々だが、流行っているのは流行っているので、私もしようと思うっす☆」
━と、こんなヘタクソな記事が何処其処で書かれていた。理由は人気作家や、金持ち作家なんてもんは、とっくにタイムスリープしてしまったからである。
こんなヘタクソな記事が、というより、こんなヘタクソな記事ばかりが増えたことによって、さらにタイムスリープの認知度は上がった。
益々、タイムスリープは流行った。
もはや、この流れは止まらなかった。
流行れば企業が増える。タイムスリープを扱う会社が更に増える。それは、当り前の流れだった。
そして、増えたと同時に『減りもした』……という、おかしな現象に対する説明は以下にしよう。
タイムスリープを扱う会社が増えた、経緯、つまり、キッカケについては上に書いた通り、この金持ち家族の一斉タイムスリープが引き金となっていた。
信じられないほどに増えたし、そりゃー、増え続けた。
今は、タイムスリープの時代なのだから、タイムスリープの会社を作れば、ある程度は儲かる、と分かっているからこそ、ある程度の金持ちは、それ関連の事業を立ち上げたし、それがしばらくは当たり前の流れでもあった。
それが良くなかった。
だから、ますます、みんなやった。「なにを?」無論、タイムスリープである。
タイムスリープの会社で働いていた人間達も皆、タイムスリープをやり始めた。
色んなものがスカスカになった。
上にあった変な記事もそうだが、それ以外にも、例を挙げれば霧がない程に世間では様々な問題が発生した。
遂にはこんな記事までもが新聞に載ってしまった。
「ブラジル人口、残り30人!!」
「中国!!自転車あまりまくり!!!」
「韓国!!竹島ほったらかし!!」
スポーツ、政治、その他、もろもろ、人口が減れば、実力レベルが下がる。
サッカーは人気が下がった。本田木、香山、友永、長谷部田、これらの人気選手がこぞってタイムスリープしてしまったからである。
しかし、その事によって、補欠がレギュラーに繰り上がった。
昔バリバリだった、カズモトも、また、バリバリとなった。
カズモトダンスを披露しまっくった。力が戻ったのではない。彼は年をとっていた、というほどの年齢ではなかったが、少なくとも、サッカー選手としての力はピークを過ぎていた。
しかし、それなりに活躍した。
ラモシックもハゲシンドも監督から選手に戻った。
無論、彼等、外人選手とてピーク時の力はない。
しかし、それなりに活躍出来たのだ。
【タイムスリープ】というもの、その広がり1つで、世界は大きく変わるんだ。
みんな、み~んな、【タイムスリープ】をやったのである。
それほどまでにタイムスリープというものはこれまでのどんな社会現象とも似つかないほどの例を見ないスピードで急激に増え続けています!―と言ったレポーターも、もう、それをレポートする意味はほとんどないと思い、タイムスリープをした。レポーターがいなければカメラを回す意味はない。カメラマンも長い眠りに付く事にした。砂嵐の番組が増えた。植物は枯れた。ペットは死んだ。餌を与えられなくなった動物達は絶滅していくしかなかった。そんな中、動物愛護団体のムッツリーゴローさんだけは頑張った。
「よ~し、よし、よし、よし、よし。ええ-、ああ、はい、ゴキブリですか?、、、ええ、かわいいと思いますよー、めちゃくちゃツヨイって知ってましたかー?、、、いや、いや、まあ、そーゆー話じゃないわけで、そりゃ、パワーとか、スタミナとか、そんなの言いだしたら、そりゃー、ライオンとか、トラとか、ゴリラの方がツエーわけですよー、つーか、人間にも手のひら一発で殺されるレベルなわけですよー、そーではなくて、生命力の話でねー、ええー、ああー、はい、いや、いや、まじ、まじ、まじですよー。ゴキブリって、なんでも食うって知ってましたか?だから、最後まで生き延びるんですよ?え?最後って?もちろん生き物の最後ですよ?もしですね~、もしですよ~、もしも、地球の生命が滅びていくとしますでしょ?ドンドン、どんどん、滅びまくっていくとしますでしょ?それで、最後の最後の最後まで生き延びてるのがゴキブリってなわけですよー。えー、あー、はい、そーですねー。昨日、【世界の果てまでレッツゴー】でもやってたやつですよ。あなたも見ましたか?へー、そーですか、あははははははは」
彼は死に掛けの体を引きずりながら、昔見た、【世界の果てまでレッツゴー】のゴキブリ特集を思い出していた。
思い出しながら彼は自分で自分の終わりを悟った。
【オー・イチ・ゴー・ハチ・イチ・サン・ニー・サン・ヨン・ナナ・ヨン】の苦しさは、彼の精神を破壊した。
ゴキブリを食しながら、泣きながら、自殺を考えながら、生き抜いた。
ワクチンはない。
あるはずがない。
いくら時間が進んだところで、人間全体の進化が止まれば、なんの意味もないと彼は知った。
何度も諦めた。頑張った。泣いた。うじゃうじゃのゴキブリの中で色んな理由が分からないまま泣き続けた。
人間の数自体はそれからも増えたが、多少、自分達より、早くとも、遅くとも、この世界に行き着いた事に変わりない、関係ないくらいに意味はない。
それを理解し、彼は余計に泣いたし、泣くしかなかった。
海を渡った向こうでは更に進化したゴキブリ達がタイムスリープから目を覚ました人間達を奴隷にしたりもしていた。
命令したりもしていた。
拷問したりもしていた。
地球全体がそんな感じだった。
彼は苦しみながら、最後の世界、世界の最後、どっちが先かも分からないまま、大量の札束を投げ散らかした。
「金ならある!俺は社長だ!そして、正確には、社長の息子だー!とおいやー!」
しかし、それは札束ではなかった。ただの、ハッパだった。
彼は動けなくなった。
彼の死にガラに大量のゴキブリ達が集った。
バリ、ボリ、バリ、と、彼の体を食べ始めた。彼は少しだけ「イタイ」と、思った。しかし、言う気力までは無かった。それに言っても無駄だとも分かっていた。
意識は遠くなった。
目からは涙が出ていた。
相変わらずなんの涙なのかは分からなかった。
彼は最後に真っ暗になりながら「このまま死ぬのかな?」と思った。
それから「イヤだな」と少し思い、暫く経って「まぁいいや……」とも思った。
〔━━END━━〕




