ココロ コロコロ
淋しい野原の真ん中に小さな石がおりました。
丈の高い草むらの、かげにぽつりと一人だけ。
ともに語らう友もなく、ひとりぼっちでおりました。
ああ、ああ。
ここはなんてさみしいのだろう。
こんな淋しい草むらに埋もれているぼくを、誰が見つけてくれるだろう。
だれかに会いたい。会って友達になりたい。
この淋しいばかりの野原を出て友達をさがしにゆこう。
小石は力をふりしぼり、ころころといっしょうけんめいに転がり始めました。
ころころ ころころ。
しばらく転がり続けて、小石は一羽のひばりと出会いました。
はじめまして、ひばりさん。
ぼくと友達になってくれませんか?
するとひばりは、こう答えました。
あなたが私のように歌えるならば。
私は歌う鳥だもの、上手に歌で話せるならば。
ああ、ぼくには歌えない。
ぼくはただの小石だもの。
ひばりさんのようなきれいな声は出せやしない。
ころころ ころころ。
ひばりと別れた小石はふたたび転がり続けます。
小石はたくさん転がって、こんどはスミレの花に出会いました。
はじめまして、スミレさん。
僕と友達になってくれませんか?
するとスミレはこう答えました。
あなたと私では姿形がちがいすぎる。
私はこの姿と香りで人を楽しませるのが役目だけれど、あなたには何ができるの?
ああ、ぼくには何もない。
やわらかな花びらも、あまい香りも何もない。
小石はスミレにさよならを言って、しょんぼりと転がり出しました。
ころころ ころころ。
たくさん、たくさん転がってとうとう夜になりました。
夜空にはたくさんの星がかがやいています。
小石は空を見上げて星に話しかけました。
星さんにはたくさんの友達がいるのに、ぼくはどうしてひとりぼっちなんだろう。
星さん、ぼくと友達になってくれませんか?
すると星はこう答えました。
君と私では遠すぎる。
私は夜空を動けない。
どんなに腕をのばしても、けして君には届かない。
輝く星は空の上で、そっと小石をなぐさめました。
ああ、もしぼくの体が星さんのように美しく輝いていたなら。
いますぐにでも空の上までかけ上がりたいのに。
夜が明けると小石は星に別れを告げて、ふたたび転がり始めます。
どこかにきっと、ぼくの友達になってくれるひとがいるはずだもの。
あきらめたりしないんだ。
ころころ ころころ。
ころころ ころころ。
転がって、転がって。
ごつごつしていた体の角がすっかり丸くなり、ひとまわり程も小さくなるまで旅をして、小石は海辺の町にたどり着きます。
小石はが生まれて初めて見る海は、この世の果てのようでした。
ああ、ああ。
誰もいない。
ぼくの友達はどこにもいやしない。
なんてさみしいんだろう。
小石は大きな声をあげて泣きました。
だれにも聞こえない、大きな声で。
すると、ふいにあたたかな雨が小石の体をを濡らしたのです。
やわらかな、あたたかな雨です。
不思議に思った小石が上を見ると、それは雨ではなくひとりの少女が流した涙でした。
何故この子は泣いているのだろう。
小石は自分も悲しいのを忘れて少女に話しかけます。
どうして君は泣いているのですか?
少女は答えました。
たいせつな、たいせつなものをなくしてしまったのです。
もう二度ととりかえせない大事なものを。
こころに大きな穴があいて、たまらなくさみしいのです。
そう言って、また静かに涙を流す少女がとても気の毒になり、小石はさら言葉をかさねました。
君のこころにあいた穴をふさぐにはどうしたらいいのだろう。
ぼくが君になにかしてあげられることがあればいいのに。
ぼくはただの小石で、君を慰めるやさしい声も、気持ちをやすらげる香りも何も持ってはいないのです。
すると少女は、そのやわらかな手のひらに小石をそっと包みこみ、やさしくゆびで触れました。
ありがとう、小石さん。
あなたもとてもさみしいのですね。
私もあなたに何かしてあげられることがあるとよいのですが。
それならば君がぼくの友達になってください。
そうすればぼくはもうさみしくなんかない。
たとえほんの少しでも、こころの穴を埋めることができるなら、ぼくは君のさみしいこころのそばによりそっていたいのです。
少女の瞳から、はらはらと涙が溢れます。
けれど、それは最初に流されたものとほんの少しだけちがいます。
こころのおくがじわりとあたたかくなるような、そんな涙です。
いつかたくさんの小石が、君のこころの穴を埋めつくしてしまえばいい。
つめたいすきま風が入り込むすき間もないほどに。
君のなくしたものの代わりはどこにもなくても、君のさみしさを埋めたいと願うだれかがいることに気づいてください。
この日から小石は少女の宝物になったのです。
初の試みです。