Sixthdayー咲散る花
人間というのは人に支えられて生きている、この言葉は昔から何度も使われてきた言葉である。
それはある意味、人の命を背負い生きているのだ。
人の時間で生まれた道路を歩く、
人の時間で生まれた自分。
自分と人の時間で育てられ、
自分と人の時間で感情を知る。
自分と人の時間で恋をして、
自分と人の時間で愛を育む、
自分と人の時間で子供を育て、
自分と人の時間で余生を過ごす。
そして自分と人の時間で死んでいく。
世の中はそうして回っているのだ。
ゾンビ達によって殺された仲間達は自分が生きるのとは別に、他人を生かす為に生きて、また死んでいったのだ。
桜木はそれにようやく気付いた。
生きなくてはならない…!
足を必死に動かし、腕をもがいた。
空気を!空気を!空気を!
プハッ……!!
桜木は水面から顔を出した。
「桜木!咲さんは!?」
桜木が息を貯めると再び水面に潜り咲さんを背中に背負い顔を出した。
これでいつでも咲は息が吸える状態になっていた。
だが、いまだ息の音はない。
「く…早く陸地に上がらなきゃ!!」
だが施設の近くにはゾンビがウロついていて上陸は不可能そうだった。
「桜木!少し遠いけど泳いで遠くの陸地に上がろう!」
一秒でも早く咲さんを陸地に上げて上げたかったが最優先させるべきは安全確保の方が大切だった。
少しでも遠くに少しでも早く、ただそれだけを思い続け、桜木と中谷はなんとか協力し咲を連れ泳ぎ続けた。
2人はちょうど良いところを見つけると咲を陸地に上げた。
辺りにゾンビは見当たらず、森なので木が生い茂っている。そのお陰でゾンビから発見されにくそうだった。
自分達ははともかく咲の体の温度がかなり低下していた。
それもそうだもう季節は紅葉した葉が綺麗な秋なのだ。
しかも夜明け前の湖となれば尚更、温度も限界まで下がり切っているだろう。
中谷は何か温度を上げられそうな物を探しに行き、桜木は体を震わせながら数少ない記憶を頼りに心臓マッサージと人口呼吸を開始した。
考えれば人口呼吸は桜木にとってファーストキスであったが、そんなことを気にしている暇はなかった。
「…頼む……戻れ……戻ってくれ……」
グッグッと力を入れる度に祈りながらただただそれを続けた。
「……戻れ……戻れぇぇぇぇ!」
と、不意に咲が咳き込んだ。
ゲホゲホと何か引っかかっているような咳の後、水を口から吐いた。
咲さん!!!と桜木は叫んだ。
「さく……ら…ぎ…くん…?」
「咲さん!!…良かった……良かった……」
桜木は涙を堪えられなかった。
良かった…ただただ良かったと桜木は安堵した。
「咲さん!ちょっと中谷を呼んで来る!!待ってて!!!」
良かった…良かった!!
「中谷!咲さんの意識が戻った!!」
「本当か!?」
中谷は少し離れたところで森を探索していた。
あぁ!と言うと2人は急いで咲のところへと戻った。
「咲さん!!………咲…さん?」
桜木が声をかけても咲からの返事はなかった。
意識がないわけではない。
そう、そこにあるのはもう二度と動かない咲の体だった。
桜木は現実を受け止められなかった。
「咲さん……おぃ…咲さん……やめてくれよ……咲さん…」
そんな……と中谷が後ろで呟いた。
「咲さん……!咲さん!!!」
うぉぉぉぉぉ!!!と桜木は涙をこぼし、地面を叩いた。
くそぉぉぉぉ!!!!!!返せよぉぉ……頼む……咲さんを返せよぉぉ!!!
憎い、ゾンビが憎い、学校が憎い、施設が憎い、世間が憎い。
何より救えなかった自分が憎い。
桜木の中で何かが壊れかけていた。
深い哀しみに明け暮れる2人の元に新たな日がが差し始めた。
太陽は咲の体に光を当て輝かしていた。
それはまるで咲の体から魂が天へと召される筋道のようだった。