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Fivethdayー生きる理由

「桜木君……」


咲さんが疲れ果てた声を出した。

考えればこの五日間もの間常に緊張状態にあったのだ。

女子唯一の生存者と思われる彼女が疲労困憊なのは当たり前だ。


「大丈夫?咲さん」


「まぁ…ちょっと疲れちゃった……」


笑顔を作ろうとしているのか顔がピクッと動いたが筋肉は意図した通りには動かず再び元の顔に戻った。


「なんだかもう……人の死に触れ過ぎちゃって……なんていうか……」


今もまた犠牲になった人がいる、自分達は偶然の中に生きているに過ぎないのだ。


あまりに死が近過ぎる。


咲はそう続けたのだった。


桜木は目を下に向けた。


ただ生きるために走り続け、逃げ回ったこの5日間

まだ自分は生きている。それは多くの仲間の犠牲の上にだ。

だが、それで何が残るのだろうか?

自分が生きて、仲間が死んだ。


自分はその数十名の命を背負って生きていく資格があるのだろうか。


「2人とももう蓋が空きそうだ!」


ダストホースの方から中谷の声がした。


先程から何かを蹴る音がしていたがどうやら蓋を強引に開けようとしていたらしい。


ドポン!!


水が跳ねる音がした。


「……ぷは…桜木、咲さん降りてくるんだ!」


だが桜木はある疑問が湧いていた。


「中谷…その湖は…入っても大丈夫なのか…?」


そう、この湖はヴィーナスが流された場所なのだ。

安全とは言い切れるはずがない。


「…いや、多分……大丈夫なはずだ…」


何故?と咲さんが先に聞いていた。どうやら咲さんも不安を感じているらしい。


「この場所に毎年うちの学校は来ていると聞いた。もしいままでに人間がゾンビ化するような事件があればそれこそ大事件だ。多分今年、ヴィーナスの生物濃縮が林檎に到達し効果を起こしているということなら、まだ水は成分が薄いということになる」


なるほど…確かにそうかもしれない…

と桜木は納得したが、やはり不安ではあった。


所詮は中学生が考えた理論なのだ、本当に正しいのかなんてわからない。


「うぁあぅうぅあぅぅぁぁぅぅ」


後ろからゾンビの声がした、物を食べ終えダストホースから香る餌の匂いにやってきたのだ。


迷っている余地はない。


「咲さん、行こう!」


桜木と咲は慌ててダストホースを滑り落ち、湖に投げ出された。


ドボン………


水面に顔を出すと咲がダストホースの下にいた。


こっちへ……!


こっちへ来るんだ、と伝える前に奴らは降ってきた。


「うぅぁぁぅぁぁぁぁああ!!」


咲の頭にゾンビが一体突っ込んだ。


「咲さん!!!」


ゾンビに目を向け警戒を保ちつつ咲の浮上を待ったが…やってこない。


「や…やめてくれ…頼む…咲さん……!」


大慌てで湖の中に潜った。


あまり泳ぎの得意ではない桜木だったが何故かそのときはすぐさま目を開き咲さんを探していた。


いた……!


咲はまったく動かず湖の下へと落ちていっていた。


海面で空気を補給し湖の奥へと潜っていった。


頼む…頼む頼む頼む頼む頼む…!


手を必死に伸ばした。


掴んだ!!上がれぇぇぇ……


体の全ての力を使い浮上しようとする。


まずい……酸素が……


体を激しく動かせば動かず程体の中の空気はどんどん消費されていく。

体内の空気の使い方を知っているのは救助訓練などを受けたプロの救助者だけでただの中学生の桜木が人を持ち上げようなど無理だったのかもしれない。


く……くるしい……


元々光が無い真っ暗な状態だったが視界はますます悪くなり、掴んでいるはずの手の感覚は無くなりつつあった。


「もう…無理なのか…」


桜木君……お願い………!


誰だろう……


不意に頭に響いてきた声は反響しこだまし始めた。

声は至るところから鳴り始めそして……一つとなった。


桜木君……お願い……生きて!


桜木はフッと目が覚めたように上を目指した。


そう声の主は自分の為に死んでいった人の声だった。




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