Fivethdayー崩壊
夢をまだ見てるのか?だが現実はそう甘くない。事実は小説より奇なのだ。
桜木は焚き火の中から火のついた木を取り出した。
辺りは暗く何も見えない。唯一の光源は青々しい月と施設の方の空が微かな明るさ、自分達が火を着けてきたからであった。
耳から聞こえるその音と光を頼りに施設と公園を遮る山を見た。
目をなんとか凝らしていくと、山の木の中を何かが動いていた。
それも一体や二体ではない。それだったら気付かなかっただろう。
それは、何十体と森の中からこちらへ向かってきていた。
「中谷!!!咲さん!!!藤谷さんも!!!」
桜木は慌てて熟睡する3人を叩き起こした。
「ど、どうした……桜木」
中谷が桜木へ質問した。藤谷も痛みに顔をしかめながら目を開けた。咲はまだ眠たそうだった。
「ゾンビが……ゾンビが山を下ってきてる!」
その言葉によって全員が目を覚ました。
「ま、まじかよ……」
「耳を済まして聞いてみろ!多分もう聞こえるはずだ!」
ザッ……ザ……
その足音は徐々に4人の元へ近付いてきていた。
「くっ……なんでこのタイミングで……」
藤谷が悔しさと困惑から呟いた。
「本当になぜこのタイミングなんだ…わからない……」
「考えている暇はありませんよ!逃げましょう!」
と咲は言った。
桜木は急いで食糧をカバンに纏め、中谷は焚き火の中からやはり火のついた木を二本持った。
咲さんは藤谷に肩を貸し、4人はゾンビがやってきている施設側の反対となる方へ逃げ始めた。
「あ、待てよ、山には入らないで行こう!池の岸から逃げよう」
中谷の発言の意図は怪我を負っている藤谷を抱えながら動いていては山で体力が足らなくなるであろうということ。
そしてゾンビを目視することが出来ず、発見が遅れてしまい襲われたときに対処しきれい可能性が高かったからだった。
結果四人は池の方からゾンビの来る反対側へ逃げ始めた。
桜木は時折、体が倒れそうになっていた。
いままでの4日間、激しいストレスにさらされ、また体力もいままで無いほど消費し続けている。
そしてまたいままで唯一の安息の地であった公園までもがゾンビに侵されてしまっているのだ。
「なぁ中谷、なんでいままでゾンビは公園へ来なかったんだ?」
桜木の疑問に中谷は一つの仮説を話し始めた。
「もしかしたら、奴らはゾンビになりきれていない、或いはゾンビに近い人間のような中途半端な存在で、αによってゾンビ化したその人間の微かな記憶が、本能的に池に近寄らせなかったのかもしれない」
中途半端な存在のゾンビ。
元はクラスメートだった、いや平たく言えば人間だったゾンビ。
桜木は中谷の仮説を聞き、なんとも居たたまれない気持ちになった。
だがその理論は5日目にして破られていた。
なぜ奴らゾンビはその本能をも無視して公園の方へやってきたのであろうか。
4人はその後、藤谷と咲の気を使うだけの素っ気ない会話をして池の岸を走り続けた。
かなり走っていると、池の先にあった建物が見えてきた。
「そう言えば初めて山で襲撃されたときは施設へ行こうとしてゾンビの移動してこれる中へ入っていたんだな……」
4人に体力はほぼ無い。とてもじゃないがこれ以上逃げるのは厳しかった。
また、何より例え逃げ続けても池はグルリと丸い形で元に戻ってしまう。となると途中で山の中へと入らないといけなくなりそれによって迷い、助けを求められないのは確実だった。
いままで公園に居座っていたのは一週間後に来る予定のバスを望みにしていたからだ。
この建物内にいてはそれが確認出来ない。そしてまたこれ以上離れれば例え何らかによって助けが来ても生き延びれないのはわかっていた。
4人は施設に入ることにした。
建物の周りにはフェンスがあり立ち入り禁止の看板とともにフェンスの入口はチェーンによって閉じられていた。
4人はチェーンをまたぎ、建物へと近づいた。
建物は意外に大きく、広そうだった。
「ドアは……あるな……」
中谷が火でドアを照らすと『玄関表口』と書いてあった。
ドアノブを動かし、ドアを押した。
ガチャ……
「鍵は空いてる……」
桜木は少し疑問を抱いた。立ち入り禁止なのに、鍵が空いてるというようなことがあるのだろうか。
「ここは……玄関ホールってやつか……」
中谷の推測通り、そこには通常受け付け嬢がいるであろう無人のテーブルがあった。
「何の施設なんだ?ここは」
藤谷の疑問に誰も答えられず、独り言のように終わった。
「テーブルのあのマークどこかで見たような……」
桜木は受け付け嬢がいたであろうテーブルについていたマークを見て記憶を思い出そうとした。
「このマーク……俺も見たことがある」
中谷もそのマークを見て思い出そうとしていた。
「あ、私、このマーク多分わかります」
咲がマークを見て言った。
「え…!これなんなの?」
「多分ですよ…?多分このマーク美肌園社だと思います」
美肌園社……
「あっ!!!化粧品のマーク!」
桜木の親が使っている化粧品に刻まれてるマークだった。
美肌園社は日本の化粧品メーカーで化粧品においてのいくつもの種類で国内シェア一位を取っていた。特にファンデーション、フェイスパウダーにおいては世界でも高い評価を受けていた。
その売り文句は
『美人になっていく化粧』だった。
「こんな辺境地になんで世界の有名なメーカーの工場があるんだ?」
中谷はますます混乱しているようだった。