Fourthdayー終わりの林檎
「あと少し、あと少しだぁぁ!」
中谷はその声とともにゾンビを傘で叩いた。
4人はトンネルが見える位置には居たものの、そこまでの過程で1番前でゾンビを打ち払っていた藤谷の傘と割りと活躍をしていた桜木の傘は既に折れてしまい途中め捨てていた。
4人は傘の残っている中谷と川端の2人をそれぞれ前列右翼、左翼とし、荷物を桜木が持ちその後ろへ、そして1番後ろに管制塔的意味合いで藤谷がいた。
中谷の攻撃で倒れたゾンビを桜木は横にしっかり確認して横に通り抜けた。と、それに目を取られ、もう一体ゾンビが左側から近づいているのに藤谷が気付いていなかった。
「あ、くそ!」
川端が気付き傘でギリギリ打ち払ったが桜木、藤谷が反応に遅れ、目の前にゾンビが倒れ込む形になった。
桜木はその音に反応し、重い荷物を背負いながらもゾンビを手で後ろへ避けた。
結果ゾンビは正面に再び格好の獲物がいることとなり、人間離れした動きで再び藤谷に襲いかかった。
「うわぁぁ!」
藤谷がらしくない素っ頓狂な声をあげた。
慌てて後ろを振り向くとゾンビが藤谷に覆い被さり、さらにそれを見逃さず追い掛けてきていたゾンビがさらに集まっていた。
「藤谷さん!!!」
藤谷の体はもう既にゾンビによって姿を消していた。
「……く……クソ野郎……」
川端がワナワナと体を震わせていた。
お、おい川端、と声をかける前に川端がゾンビの方へ走り出した。
「クソ野郎共がぁぁぁぁぁ!!!!!」
雄叫びに近い言葉と共に傘でゾンビを一突きした。
傘を抜くとゾンビから体液が溢れ後ろへひっくり返った。
中谷がそれを見て藤谷の救助の為にゾンビの方へ向かった。
2人はゾンビを何匹かを苦戦しながら倒すとギリギリ空いた空間から藤谷が這い出して来た。
中谷はそれを確認すると下がってきた。
「藤谷さん!」
桜木が荷物を捨て、藤谷さんの肩を抱えた。
「す…すまない……」
藤谷の体は既に傷だらけで特に支えてない方の肩の肉は完全に抉られ白い物が見えていた。
「川端、戻るぞ!川端!!!」
中谷が川端へ言葉をかけているが完全にシカトをこいていた。
いやむしろ聞こえていなかった。
川端は無表情のままにゾンビに対し傘で攻撃を重ねた。
「川端、もう藤谷さんは助けたじゃないか!戻ろう!」
中谷の言葉は受け取る相手を失い、空へ消えていった。
桜木はあの状態の川端を過去の記憶と照らし合わせていた。
織田を病院送りにするほどの喧嘩を起こし、大暴れしたときの川端であった。
川端の手は決して止まらない。
その鬼のような表情のままに酷使された傘をあっという間に限界は超え、ぼっきりと折れた。
だが怒りに震え続ける川端は自らの拳を脚を使いゾンビを攻撃し続けた。
そうだ…桜木は思い出した。
彼とともに中一の臨海学校に行ったときである。彼はこう話していたのだ。
実は藤谷が好きなんだ…と。
彼は自らの大切なモノを傷付けられたとき鬼となる。
織田のときは自らの家族をバカにされたときに、今回は、藤谷が傷付けられた為にであった。
川端の怒りは烈火の如く燃え上がり、活火山のように活動を続けている。
ついに川端の拳からは血が吹き出した。自らの体を犠牲にしてでもその大切なものを守ろうとしているのだ。
「こんちくしょぉぉぉぉ!」
桜木は藤谷さんを地面に座らせ、川端の方へ走り出した。
俺だって……親友じゃないか…!
その勢いのままジャンプし、ゾンビを蹴り飛ばした。
「桜木……戻ろう…俺らが、俺らが戻らなきゃ……」
中谷の言葉で桜木は動きを止めた。
「川端……」
桜木が川端を見た。彼の体の肉は抉られ至る所から血が噴き出ていた。だがその決意しきった顔は変わっておらず、桜木を見ると川端は首を横に振った。
彼はもう戻らない。男として後ろへ引けない、漢の最後のプライドをかけたのである。
桜木は何も言わず、中谷の方へ戻った。
それは漢としての彼の決意を、プライドを受け入れる為の後退であった。
中谷は藤谷に肩を貸し待っていた。
桜木は荷物を背負い、三人はトンネルへと入っていった。
桜木は川端……と下唇を噛み締めた。
「桜木、どうか藤谷さんを守ってくれ。なに先に行くだけだ」
川端の声だ。だが桜木は決して後ろを振り向かない。なぜならそれもまた決意であったからだ。
トンネルを走り続ける三人だが藤谷を抱えている為、かなりスピードはない。
だが、そのトンネルを抜けるまで決してゾンビに襲われることはおろか、その足音すら無かった。
そしてそれが川端の最後の力であることは間違いなかった。
三人はようやくトンネルを抜けた。
「やった……戻ってきた…………?」
中谷が安堵の声を上げたが異変を察した。
桜木もその異変を感じていた。
公園にいるはずの三人の声はおろか、存在感すらない。
桜木は慌てて暗くなって明かりのない公園の中を見回し、目を凝らして人影を探した。
すると公園の真ん中の遊具のそばに人影があった。
「中谷、あそこに人影が見える」
中谷は藤谷の左手を服で固く縛り血を止めてベンチに座らせた。
それを終えると桜木とともに歩き出した。
行く途中のベンチに居たはずの神谷がいなかった。
え!と桜木は何かに躓き転んだ。
「う……うわぁぁぁぁぁぁ!」
桜木が躓いた何か、それは真矢の首であった。
桜木は歯をカタカタと震わしていた。何かが体を走り、そしてそれは嘔吐へと変わった。
「おぇぇぇぇぇぇげぼぉ……う…」
中谷も頭を抱えてこの状況を理解出来ていなかった。
2人は再び人影の方へ歩いて行った。
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ゴメンなさい…ゴメンなさい…ごめんナサイ…ゴメンサイ…
咲さんがそれただを繰り返しペタリと座り込んでいた。
中谷がその状態に唾を呑んだ。
「さ、咲さん…!」
咲がはっとなり中谷と桜木を交互に見ると、再び涙が溢れ出した。
「桜木君……中谷君……みんな……死んじゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
咲は泣き叫んだ。
「落ち着いて!落ち着いて、もう大丈夫だから…もう…」
中谷が声をかけた。桜木も手を握った。
しばらくの間、三人は沈黙し、そしてそれからお互いに起きたことを話し始めた。
「くそ……くそ…なんで俺は……俺は気付けなかったんだ」
中谷が自らの愚に地面を殴った。
「αがリンゴ……簡単じゃないか…池に行っただけが共通点じゃなかったんだ、池に行って行ったことが…それこそが今回のα…」
クラスの大半が池に行っていた。だがそれだけが共通点ではなかった。さらにもう一つの共通点、それはリンゴを食べたということであった。
そう、これは二段階のα、共通点の一つが二つ目を盲点にしてしまい、そして真実を隠した。真実であるリンゴを、だ。
そしてそれとは別に咲もまたショックを受けていた。
「川端君と織田君が……そんな……」
あまりに突然である。世の中にそんな非常理なことがあって良いのであろうか。
こうして、逃げ切った9人のうち、生き残っているのはわずか4人、そしてその中の1人はいままで前線で戦ってきていたが、もはや完全に沈黙。
みんなのぶんにと、とってきた食料だったが明らかに量が多い状態なっていた。
三人は藤谷のベンチで再び消えた火を点け、レトルトのカレーを食べ始めた。
「俺らは助かるのか……」
カレーを食べながら中谷が弱音をはいた。
「中谷……」
桜木は目を泳がしてしまった。とても生き残れるなんて言い切れなかった。
「2人とも……!」
パチンッ!と咲がほっぺたを引っ叩いた。
「もう私達は……私達は生き延びなきゃダメなんだよ。生きなきゃ、報われない……」
そうこのままでは報われない、人の為に散っていって若き命が、自らよりも人を助けてきた善良たる魂が。
3人は再び胸にそれを秘めた。
生き残った者に課せられた使命、命を使ってでも果たさなくてはならない。
生き延びる。絶対に。
藤谷には取ってきたスポーツ飲料を渡し、三人は火の近くで眠った。
既に時刻は1時を回っていた。
そして桜木はその日も夢を見ていた。
いままでの中で最も鮮明であった。
雲のような地面、そして木が生え、そこにはリンゴがなっていた。
そのリンゴは既に食い尽くされ、残っているのは芯のみであった。
それをまじまじと見ていると、地面の雲が消え、土の地面に落ちた。そして……ゾンビが現れた。
ゾンビ達が桜木を襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
桜木は目が覚めてしまった。
息を荒げ、辺りを見回す、まだ真っ暗じゃないか……と、桜木再び眠りについた。
ザッ……ザッ……
地面から聞こえるその音、桜木はハッと目を開け、体を起こした。
ま…まさか……
桜木は唾をゴクリと飲んだ。
この話にてFourthday編を終了させていただきます。
消えたぶんも取り戻したかはわかりませんが消えたときよりも話自体は進んでおります。
次回よりFiveday編となります
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m