Fourthdayー策の囮
「どうやってあれを突破する?」
再び木の影に隠れ、川端がみんなに聞いた。
「俺に……作戦がある」
織田が何かを覚悟したように言った。
「どんな作戦だ?」
「囮だ、囮で奴らを引き寄せてその間に侵入する」
まさか…と藤谷が言った。
「まさか、織田、お前……」
普段鈍い桜木でも察した。
「囮なら俺がやる、お前らじゃ出来ないだろうが?」
織田…お前、と川端が呟いた。
「私も行く、織田だけには…」
「うるせえ、俺だけで充分だ、さっさと松明と棒、貸せ」
藤谷を一蹴すると中谷と目を合わせ強く言った。
「わかった…」
中谷が仕方なく手渡した。
「いままで迷惑かけたな……」
あばよ!!と織田は茂みから駆け出した。
織田!
「囮は帰ってくるまでが囮だぞ」
川端が織田に叫んだ。
あれだけお互いを傷つけあっていた二人が…と桜木は感じていた。
「うぉぉぉぉ、こっちに来い!クソ野郎どもが!!!」
松明を振り回し、近くによるゾンビを払いながら少しずつ山の方へと登り始めた。
ゾンビ達もそれについていき、宿泊施設から離れていった。
「行くぞ!」
中谷が走り出し、それにみんなも続き走った。
中谷を先頭に桜木が続き、川端、藤谷がサイドを走る。
近寄ってくる残ったゾンビは松明で振り払い、進む。
茂みから施設までは500メートル程であった。
走り、あと少しとなったところで山の方から叫び声が聞こえた。
「こんのぉぉぉ!」
桜木が気になって後ろを見ようとした。
「振り向くな、信じろ」
「川端……」
桜木は仕方なく前に進んだ。
「扉は外れてる、さっさと中に入って必要なもの見つけて帰るぞ」
みんなが施設に入ると中谷がポケットから新聞紙を出した。
「トイレの裏に落ちてたんだ、侵入を防ぐ為に扉は燃やすぞ」
新聞紙に松明から火を移すと、玄関に火をつけていった。
「早く…早くつけよ……」
「中谷、時間がない、松明を置いて燃えるのを待つしかない」
自分達の姿を確認したゾンビが玄関に突っ込んでくるのを見て藤谷は言った。
5本の内2本目を失うのは痛いが時間がない。中谷はそう悟り松明を置き立ち上がった。
「川端、行こう」
桜木が川端を呼んだ。
「よし、何かを見つけたら叫べよ」
中谷は藤谷さんと共に二階へ上がった。
「よし、施設の形は同じみたいだね、行こう」
桜木がそれに気付き一階にある食事の部屋へ入った。
「くそ…!」
部屋の中にはゾンビが2体程いる。
「全部倒すぞ!」
幸いにも松明の残った3本のうち2本はこちら側にある、運動神経で劣る桜木も戦うことは出来そうだった。
「この野郎!!!」
桜木が松明を横に勢いよく振った。ゾンビの顔面にヒットして倒れるが、殴られ崩れた顔以外、特に変わりなく立ち上がってきた。
「この服…クラスの女子だろ…」
桜木が呟いた。体の大きさも160センチないだろうし、服には薄汚れながらも可愛いらしい絵柄が入っている。
「うあうううううえあ!!」
ゾンビが手を思い切り突いてきたが、松明でそれを打ち払った。
そしてその隙を逃さないよう顔の崩れた部分から松明を差し込んだ。
「うあおおぉぉぉぉ……」
グジュグジュ…鼻が潰れ、変な液が出る。
思わず嘔吐しそうになるがなんとか踏ん張った。
刺されたゾンビは松明を握り、そして力尽きたように倒れた。
「ちきしょ、なんだこいつ…」
川端が身体の大きいゾンビに苦戦していた。
170センチ程だろうか、多分剣道をやっていたクラスの女子だと記憶していた。
「川端、手伝うぜ!」
「悪い、頼む!」
ところが、桜木は自分の武器が無くなっていることに気付いてなかった。
「桜木!危ねぇ!」
無防備な桜木にゾンビが飛びかかってきた。