Seconddayー食べ物はわけろ【契約編】
「お、お前いくらなんでも、人間としておかしいぞ…」
川端が言った。
「じゃあお前は織田に生きてて欲しいのか?」
こう聞かれた川端は唾を呑んで覚悟を決め直したようだった。
「俺もあいつは嫌いだ、でも生きてる人に俺らが食料を与えないってことは、俺らが織田を殺すんだぜ?俺は…殺人者になりたくはない。」
「私も同じだ。生きてる者を死なす必要はない。」
「桜木は?」
意見を持ってそうな人が消えていき、ある意味順当に桜木へ回ってきた。
「お、俺は中谷の意見に賛成だけどっちかと言うと…さっきの交渉の、これからの食べ物の確保の方が問題かと…」
しばらくの沈黙があいた。
「え、それで?」
中谷的にはこの後、意見があるのだと思っていたらしいが、桜木はここまでが限界だった。
女子二人も特に意見を持っているわけではなく、中谷の意見に同調した。
結果、神谷だけが反対する状態となった。
「お前ら、気付いてないのか?」
神谷が突如口を開いた。
「な、何にだ?」
「俺らいま、結構死にかけてるんだぜ。」
どういうことだ?と聞く前に、神谷が続けた。
「生き抜くための食べ物は、現時点で石原しか持ってない、取りに行くにしても殺されそうになる…ありえないだろ、こんなの。」
確かに神谷の言うとおりであった、いままで普通に過ごしていた中学生が生きていくにはあまりに過酷な状況だった。
考えてみれば、桜木はなぜ自分がこのような状況にあるのかさえわからなかった。
「確かに、あり得ない状況であるのは間違いない…異常だと思う…」
中谷にしては珍しくしんみりと言った。
「だけど、どんな状況であれ助け合わないといけないと思う、多分、俺らみたいな心の弱い人間が織田を見捨てる判断をしたら、俺らは…心からゾンビになっちまう。」
桜木は織田を見捨てたときのことを考えた。恐らく…俺らはもう助け合っていきていくことはできない。俺らの中にある唯一の均衡が、なにかが崩れてしまう。
桜木はそう感じていた。
「なぁ神谷…今回は意見を引っ込めてくれないか?俺らのためにも…」
川端の言葉に神谷は、わかったよ、と口が動き頷いた。
「織田…」
「決まったか…長かったな。」
一人離れベンチで寝ていた織田は不機嫌そうに言った。
「俺らは織田にちゃんと食べ物は分ける。ただ…」
「わかってる、暴力とか…そういうことするなって事だろ!もらえるなら誓うさ。」
神谷がやはりイライラしてるのに桜木は気付いた。
「そうだな…あと、これから食べ物を取りにいかなきゃいけない。」
えっ!とさすがの織田も驚いた。
「お前のだーいすきな暴力をせいぜいゾンビになった奴らに当ててくれ。」
おい!と藤谷が言うと、神谷は怯んだ。
「織田さん…協力してください…私はみんなに助けてもらわないと生きられないんです。」
咲さん…可愛すぎる…なんだ!この健気さは…このシビアな空気の中、桜木はどうしても思ってしまった。咲さんの恐ろしさをある意味感じてしまった。
正直に言うと、書いてる僕自身、僕の中での咲さんは超可愛いのだ。だから咲さんが出るとドキドキしてしまう。
「わかった。約束する…俺のできることをやるよ。」
織田が納得したのは、咲さんのおかげなのではと、川端は思っていたが、口にしなかった。明らかに咲さんに惚れてる親友の桜木に悪いと思ったからだった。