Onedayー陸の孤島
森の木を切り倒し、木に囲まれた中にその建物はあった。
桜木 龍児を乗せたバスはその建物の近くに止まると、きた道をさっさと戻って行った。
「あーあ…帰れるのは、一週間後か。」
隣で親友の川端 真司が呟いた。
中学二年の秋、二年生最大のイベント林間学校で大谷中学の彼ら35人はY県の山奥に来ていた。
バスを借りて、高速道路を走り続け、民家を通り、山を越え、道なき道を進み、ようやくこの宿泊施設に着いたのだ。
歩いて戻れば遭難するというのは山登りをしたことのない桜木にもわかった。
「部屋に荷物をおいて、松の家の前に五分後に集合。では解散。」
担任の青木先生は51歳のベテランの先生で167センチの桜木、川端よりも小さいながら、威圧感のある顔によって、存在感は抜群だった。
「遅れないようにね。」
体育担当の副担任でもある新人先生の田中は
みんなが施設に入り始めた頃に言い出した。そんなのお構いなしに施設へ入った。
「床抜けないよな…。」
川端の冗談も今回ばかりは成立しなかった。
男子の部屋である竹の部屋があまりにも埃っぽく汚かったため、喘息持ちの佐藤が薬を呑んだのを桜木は確認していた。竹の部屋は施設としては、竹の部屋という広い部屋以外に
食堂、風呂のそれぞれ部屋もあった。
荷物をさっさと置くと、先生のいる松の家に急いで向かった。
「朝早くから出て、眠たい人もいるかも知れんが、そのおかげでまだ1時だ。予定より早く探索時間を行う。」
「班に別れて下さい。」
青木に遠慮しがちに田中が言うと35人はザワザワとしながら班に別れていった。
「5時までに戻ってくること。いいな?」
青木の言葉にうぃーす、としか聞こえないやる気のない返事をかますと班はそれぞれの進行方向へ歩き出した。
全部で七班あるうちの四班は桜木と川端の二人と中谷、関野、水口の男子五人という夢のない班構成となっていた。別に自分の顔はイケメンではないと思うが、桜木の本音としては、心の中では好きと思いつづけている松枝 咲と同じ班になりたいとは思っていたが、楽しめればいいや、とも思っていた。
「山だけというのも、なかなかハードだな。」
「水口が山好きだとは知らなかったもんで…。」
川端の嘆きに桜木は言った。
水口はいわゆる使い勝手のよい奴で、他の人が嫌がる事やめんどくがることをやってくれる、そのわりに面白いので班のリーダーを桜木と川端は押し付けたのであった。しかし、水口の隠れ山好きによって、四班は山の頂上を目指す事となってしまったのだった。
それでも決められないよりはマシか…と川端は呟いた。
山とは言っても、言うまで高い山ではないので水口は大したことなさそうだが、残りの四人は水口とかなり差を広げ、歩いていた。
休憩も挟んで、一時間半後、ようやく頂上に到着した。時間潰しの為、40分程雑談をすると山を下り始めた。
「やべ、降ってきたぞ。」
山の天気は変わりやすいとは、よく言ったも
ので、さっきまで晴れていた空は、いまは雲に覆われ、雨が降っていた。
四班は少し早歩きで、山を一時間で下った。
余談だが、このとき川端が勢いよくこけて、服が泥だらけになり、上半身裸で戻ってくるという伝説を作りだしていた。
結果的に、四時過ぎ程に戻ってきてしまったが、他の班も同じぐらいだったので、特に気にしなかった。
最後の班が五時を過ぎて到着すると、男子、女子の施設で、お弁当を食べ始めた。
「明日からは自分で作るのか…。案外、楽しそうだな。」
川端は弁当を食べながら言った。
「そうかぁ?」
桜木は思わなかったが、あちらこちらでそういう声が聞こえているのは、やはり男の性なのかもしれない。