七話 お姫様
瞳は好奇心からか爛漫と輝き、首を少し右に傾けながら話しかけてくるどこかのお嬢様。
白い光るような艶のある髪を後ろに縛り、利発そうなを顔をしたこの子に、紫の大人びた感じのドレスは…………まだ早いなと、36歳を迎えた僕は思った。甥っ子がいたらこの子くらいか。背もほとんど同じくらいだし、どうみても同い年か、ちょっと下だ。
この国は美人が多いのか。よしゑのような鼻を持った女性を僕はまだ見ていない。長い睫毛に、ふっくらとした白い頬。鼻が可愛らしくちょんと乗っている印象を受ける。絵画の中の美少女って感じ。
ていうか、お主って? 気品あるこの子の雰囲気も妙に気になる。
どこかの帝国のお姫様かな?
「そうだけど、君は?」思ったままを口にする僕。白い頬をうっすら赤く染め、嬉しそうに少女は話始めた。
「やはりか!お主の噂はきいとったからな。蒼い髪にその瞳。うむ、いい顔じゃの。そう思わぬかアイリ!」
「はい。そのようです」
うお! 気づかんかった。お嬢様の左後ろに、若い女性が…………白銀の鎧を着けて立っていた。いい加減、人を驚かすのは辞めて欲しい。そろそろ僕のキャパがブレイクしそうだ。灰がかった銀色の髪。周りを見渡す鋭い眼光は、狼のようだ。犬の耳を着けたら似合いそう…………いやいや僕は何てバカなことを。白一色の鞘のレイピアを腰につけ、お嬢様と一緒にこっちを見てる。
というか、なんで鎧を着てるんだ。5歳児の誕生日パーティーに鎧っておかしくないか…………いったい何しにきたんじゃっお主ら! って突っ込んだら負けだろうか…………
「妾はローラ・フォン・ライルボルト・ギルバートと言う。よろしくの!」
「僕はクリム・アース・ギルメリア・ラミレス。こちらこそ!」
互いに握手を交わした。営業マンだった頃の癖というか、条件反射で。
「うむうむ。ところでお主よ。将来私の騎士にならんか?」
「はい?」
「ローラ様。それは些か…………今日は挨拶だけの筈では」
「嫌じゃ! 見よアイリ! この溢れんばかりの才気を。必ずや蒼き獅子の名に負けぬ男になるじゃろう。あんなハゲの息子とは大違いじゃ。欲しい!」
「そう言われましても…………あぁ、王にも内密でこちらに来たのです。そろそろ帰りませんと」
「お主の主人は妾じゃ!問題あるまい」
「それはそうですが…………」
おぉ、何だか騎士さんが頭を垂れて困ってる。僕が一番困ってるんだけどね! あんまり聞きたくない不穏なワードが乱立してるんだけど。
「姫様ではございませんか!? どうしてこちらへ?」
やった! 父上が来てくれた! さっきからターニャ姐と狐さんもこっちを不思議そうに見てるし、何とかして欲しかった! って…………今父上なんてった? 会場の人々もざわざわと混乱している。
「久しいな。アレン。父が此方に顔を見せんから拗ねておったぞ」
「いえそれは…………それよりどうして此方へ?」
父上が焦るなんて珍しいな。片膝をつき、姫と目線を合わせている。
「お主自慢の秘蔵っ子を見にきた。どうせ城には連れてこんじゃろうしの。お主譲りの見事な蒼髪じゃ」
「は、光栄であります」
「騎士になるのが待ち遠しい。…………ふむ、不本意だがあまりアイリを困らせるのも悪い。妾はもう帰るが、近いうちに顔をみせよ。父も喜ぶじゃろ。」
「は! ギルバート王にも宜しくお伝えください」
そういえば、母上に聞いたことがある…………才女と名高い王国の第二皇女。
神の祝福を受け、王に溺愛されている彼女は滅多に人前には出ないが、その美しさは他を圧倒するとか。僅か5歳にしてラスルコフ大学院の入学試験をパスしたスーパー少女。
「それじゃあの、クリム。また会おう」
颯爽と去っていく姫に、無言で従う白銀の騎士。その後ろ姿を、僕は呆然と見送ることしか出来なかった。