六話 波乱の誕生日
今日はラスルコフ学園はお休みだ。週に二回休みがあるのだが、丁度僕の誕生日と合わさったので、昨日半日かけて兄上たちと姉上が駆けつけてくれた。久々の再会に悦びつつ、お昼から屋敷を使った規模の大きな誕生日パーティーとなった。
ラミレス家って凄いんだ…………今更ながら実感する僕。分家筋だけで結構な人数が。他の貴族の面々も。この世界の料理は僕にとって当たり外れが大きい。まぁ基本的には肉と果実は外れはないので、今日はご馳走だ! よく見ると僕の好物がたくさん並んでる! よ! 仕事人の料理長に金一封!
興奮する僕の横には、ターニャ姉が白い可憐なドレスを着て嬉しそうに微笑んでる。昨日の夜からずっとこんな調子だ。母上も呆れるくらい、ずっと僕の周りを離れない。夜は一緒に寝ることになった。流石にお風呂は遠慮した。というか僕が逃げた。僕の危機察知センサーに何かが反応したのだ…………
最近は少しずつ女の子らしくなってきている。髪も肩まで伸ばし、ずっと笑みを絶やさない彼女は魅力的なのだろう。さっきから周りの少年たちの視線が張り付いていた。間違いなく母上似の美人さんになるからな。話しかけたくてうずうずしてるみたいだ。
思春期の少年を助けてあげよう! と人助けをしようと考えた僕はと、軽い気持ちで姉上に話しかける。
「お姉ちゃん。あの男の人、ずっとお姉ちゃんを見てるよ。ちょっと話しかけてあげたら?」
「 私はあんなゴミクズに微塵も興味がないからいいわ。それより今日は私の傍を離れちゃダメよ。明日から会えなくなるんだもん…………はぁ…………拐っちゃおうかな」
一気に何かが重くなった! 誰を?? 何で?? 何処へ?? 余計なことをしたのかもしれない。ターニャ姉が冗談を言っているとは思えなかったらだ。見ると、彼女の目は本気だった。本気で悩んでいた。
「でも…………話したら面白いかもよ。ちょっと僕、あっちに行ってるからさ」
君子危うきに近寄らず、との頼もしい教訓の通りに、僕は戦線離脱を試みた。
「だ〜め。拐われちゃうよ?お姉ちゃんと一緒にいるの。何だか他の女がクリムを狙ってるみたいだし、私がいれば安全だから」
手を握られた。まったく感知できず、いつの間にか……これはどうやら……逃げられない! んでもってツッコミきれない! 僕は何に狙われているんだろうか…………思考が停止すること約30秒。
「初めまして、ミス・ターニャ。私はロイルと申しまして、本日…………」
勇敢なチャレンジーが来た! 僕より頭二つ分高い、くるくるした金髪の…………えっと、狐みたいな顔の人がやって来た。鼻が高く、長い切れ目が狐の変化したやつみたい。口元も笑っているんだけど、何か嫌な笑みだな。下心ありそうな感じ。青を基調にした王国の軍服を着ている。どっかの士官候補生かな? 年はまだ12、3歳ぐらいだろうか。
「…………」
「…………」
気まずい。何故かすぐ近くにいる僕にもこの空気は痛い。ターニャが一瞥しただけで、明後日の方を向いて見向きもしないからだ。しかもちょっと不機嫌そう。狐さんも戸惑っている。誰か…………そうだ、兄上は…………女の子と談笑中。ご機嫌だ。助けてはもらえないだろうな…………
「お主が、クリムかの?」
キョロキョロしていたら、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには上目遣いにこちらを見上げる、どこかのお嬢様がいた。
悪い予感しかしないのは何故だろう?