四話 四歳になった!打倒光ちゃん!
あっという間に月日が流れていった。僕は立つこと、歩くことを覚え、何故か一人でいるときに限って現れる光ちゃんとの追いかけっこに熱中していた。お陰でこの屋敷で僕の知らないところはない。裏門の門番、コウくんとも知り合いになったし、広い庭に生えたラスムの樹にも落書きしたり、庭師さんに色々な花の名前を聞いたりと、充実した毎日だ。
改めて思うが、この屋敷は非常に広い。大理石などの石で造られた二階建ての屋敷は、歴史を感じさせる。外出用の門までは結構歩かなくちゃいけないし、門番も絶えず立っている。一人で抜け出すのは難しいかも。
夏からターニャ姐がラスルコフ学園とかいう名門貴族が入る学園に通い始めたので、自然と遊び相手は光ちゃんにチェンジしたのだ。学園の寮に入ってしまったので、長期の休みか年末年始しか会えなくなってしまうのは寂しいな。
本人は相当嫌がっていた。「クリムと一緒がいいっ!」と僕の腕を1日中離さなかった。途中から腕の感覚がなくなったのを覚えている…………母上やメイドさんの粘り強い説得と、僕と交わした約束によってようやく納得してくれた。向こうにいる兄上たちと仲良くしてもらいたいな。未だには二人を嫌ってる。間違いなくラミレス家の子供の中で、最強の武力を誇るターニャ姐の学園生活と将来は一体どうなるのか。僕にとっても他人事じゃすませられない。
ちなみに、この国の名前はギルバート王国といい、王と貴族が政、司法、行政の全てを担っている。統治は地域ごとに貴族が行い、領地内での権力は強い。だが、厳密な王法があり、もし違反すれば首都に君臨する王が裁く。先の隣国との戦争の爪痕がまだ残っているが、今のところ内乱もなく平和が保たれているようだ。
父上と母上は権力に興味がないらしい。首都で社交パーティーを開き人脈の拡大と権力のポストを狙う他の貴族と違って、領地の統治に従事している。
王に呼び出されるか、用事がなければ滅多なことでは領地を留守にはしない。たまに領地周辺に出没する魔物の討伐を父上が行っているが、それも貴族の義務なのだとか。カッコイイぞ父上!
ある日、魔物の討伐が終わったときに、
「この地を守ることが、王に忠義を尽くすことになり、この国の平和に繋がるんだ。クリムも誰がを守るカッコイイ男になるんだぞ。おっと、俺譲りでもうカッコイイか!はっはっは!」
最後に台無しにしやがった感があるけど、騎士の鏡みたいな男だな。こんなカッコイイ人は前世ではあったことないや。僕は素直に誇らしかった。
話は変わるが、いまいち光ちゃんのキャラが掴めない。クールで寡黙な大人しいキャラかと思いきや、挑発じみたことしてくるし。それに乗る僕も僕だが。ひたすら追いかけて目を離すとすぐどこかに姿を消すので、世話役のメイドさんは大変らしい。
母上に注意を受けたが、父上が庇ってくれた。男は元気があってなんぼだってさ。光ちゃんに勝つまで、やめる気はさらさらない。
未だに捕まえられないが…………追いかけっこに負けて疲れたら、屋敷の書庫から勝手に持ってきた本をひたすら読むことにしている。絵本はそろそろ飽きてきた…………明日には36だし。文字は英語に近いかったが、右手には辞書を装備しているので何となく読める。お気に入りなのは、魔法理論の構築者「クルズ大魔導士の一生」と、歴史書「ギルバート史」とラミレス家当主の功績を讃えた「ギルバートの英雄」かな。自伝はどの世界でも面白いらしい。少々眉唾なことも書いてあるが。数多の敵軍をたった一騎で粉砕できるものなのか?? いつか見てみたいものだ。
一応、4歳児が読むのは不自然な本ばかりなので、カモフラージュに大量の絵本を横に置き、扉から死角になり見えないように読んでいる。寝っ転がって本を読みながら、将来のことも考えてみた。
僕の生まれた家は幸運なことに名家だ。建国を支えた4大貴族の一角。軍事に名高い伯爵家。立派な貴族の一員で、父上は蒼き獅子の異名を持つ猛者だ。
何でも僕が生まれる前、隣国との大戦で大活躍したらしい。そこでついたのが蒼き獅子。百獣の王が二つ名にあるとか、自分のことのように誇らしい。
だが、戦争は正直嫌だ。争い事は好きじゃないし。3男坊の僕としては、家長になるわけでもないので、この世界を気ままに放浪しようかと思ってる。だってまだ本で読んだだけだけど、領地の外には魔物がいるんだよ!ドラゴンも!エルフと呼ばれる亜人たちも!
ファンタジー満載な世界に折角生まれたのだ。世界を見てみたいと思うのは当然だ。
前世の知識は…………正直微妙。使うにしてはどうも半端すぎる。違う価値観と基準を持った、一風変わったアイデアを持つ人物にしかなれる自信がない。
格闘技とかやっていたわけじゃないし…………世の中、そんな上手くいかないよな…………
目指すは冒険者だな。うん。んでもって先ずは打倒光ちゃん。見事に繋がらないけど。
その後もひたすら追いかけっこをしていたのだが…………言っとくが、僕に遊ぶ余裕は全くない。必死に追いかけたが…………あれは反則じゃね? 消えるんだよ! いつもいつもあと一歩のとこで…………そういえば、光ちゃんはどういう存在なんだろう。
初心に帰って、敵を知ることからと思い母上にアドバイスを求めてみた。
「母さん。光ちゃんのことなんだけどさ。」
「光ちゃん?」
おっとしまった。これじゃ伝わらないか。姿形含めて出会ったときから今までのことを話してみた。
そしたら、立って歩いたとき以上に驚いた様だ。呆然と僕を見つめた後、突然ハグしてきた。うわ…………柔らかい。今更だが照れてしまう。意味不明な行動に首を傾げ戸惑う僕を放って、ぎゅうっと抱き締めたままの母上。
「凄いわ〜。さすが私のクリム!! 天才よ〜。」
本邦初公開! 僕の名前はは鈴木空也改めクリム・ラミレス。まぁ、それはいいんだけど。はて? 天才とは?