三話 出会い
両親に見守られ、兄上たちから弱肉強食の理を学び、姉上に遊んでもらう。
はっきり言おう。結構楽しい。毎日が新鮮だ。上る朝日がなんと美しきことか。
鳥の囁きが耳をくすぐり陽光が全身を包み込む。一日の始まりだ。僕は母と寝ることが多いが、最近は姉上と二人きりが多い気がする。ターニャ姉は僕を溺愛し過ぎじゃないだろうか。まごうことなきブラコンの片鱗を見せる彼女に、弟離れができるのかちょっと不安だ。ま、大きくなれば自然と解決するだろう。
僕の目覚めは遅い。3歳児らしからぬことばかり考えているから脳が疲れるんだろうか。昼まで爆睡することが多い。
起きると誰もいないのは正直寂しいものがある。朝に起きない僕が悪いのだが……母は【光の聖母】と敬われ、忙しいのだ。此の世界でも珍しい治癒魔法が使えるらしく、よく領内を回り怪我人の治癒に無償で取り組んでいる。まんまナイチンゲールの如き活動をしている母は、凄い人気で領内の様々な行事に招待され、父よりも影響力があるとか。情報源は拗ねて母に甘えていた父からなので間違いない。
正直、魔法にめちゃくちゃ興味がある!姉上が母上のことを誇らしげに話すのには些か飽きて辟易するが、いつか習ってみたいものだ。
とりあえず、最近の僕の目標。それは立って歩くこと!未だにハイハイなのは結構恥ずかしい。今日は姉上も来ないし、チャレンジしてみよっかな〜。
今日中に歩くことに決め、二度寝した重いからだをゆっくり起こす。お昼寝から覚醒した僕の体力ゲージはMAXだ。今なら屋敷をハイハイで一周できる。気がする。
ふと、視線を感じ右上をちらっとみると…………精霊?がいた、え??ちょ??精霊?じゃなくて幽霊?此の世界の神様?薄く輝く翠色の髪を腰まで伸ばし、窓辺に浮かびながらこっちを見つめる見た目20代の女性の姿があった。何だか生気を感じない。造られた…………ギリシャの彫刻から感じる造形美とでも言おうか。顔の輪郭がはっきりした目が覚めるような美女が…………浮いていた。色んな意味で。
5分が経過しただろうか、とりあえず手を振ってみた。無視された。明らかに無視された。心なしか笑われた気がする。
ほぉー。僕の何かがメラメラと燃え始めた。触れられるか分からないけど、捕まえてみよう。慎重に揺りかごから降りると、僕はクラウチングスタートの体勢に。光ちゃん(仮)は、僕の意図を見抜いたようだ。ジッとこちらを見ている。
我がハイハイ生活の成果!とくと見よ!変なテンションに達した僕は、全力で光ちゃん(決)にアタックしようと向かっていく。
それを冷めた目で見つめてたと思いきや、スッと部屋の中央にあるダブルベットに移動した!
不味い。彼処にはまだ一人では登れない…………だってそもそも立てないし。無性に悔しくて、うんうん唸っていると、調子に乗った光ちゃんが満面の笑みで僕を身ぶりで呼んでいる。
笑えるのかよ!脳内で突っ込みつつも、うろちょろとベットの周りをうろうろする僕。まるで路頭に迷った犬みたいだ。唸ってるし。
さらに調子に乗った光ちゃんはベットをぴょんぴょんを跳び跳ねる。間違っても大人の女性がすることではない。
平和主義の僕だが、これにはムカッときた。今に見てろよと、ベットにしがみつき、プルプル震える足に活をいれ、立ち上がった。
よし、ここまでくれば後は足を引っ掻けて、体重移動を上手くやれば登れるはず!しかし、右足を引っ掛けたところで、光ちゃんはまたもや移動しやがった!
開いていたドアからあぁ〜暇潰しできたと言わんばかりに、出ていこうとする。それはないだろ光ちゃん!うーあ〜と、まだ舌足らずな口で喋りつつ、立ったまま歩いてみる。自転車みたいなもんか、コツはすぐに掴めた。
ふはは!逃れられると思うてか!両手を前にバランスをとりつつ、急いで跡を追ったところで、父上と母上が登場。
いや〜……大 感 激。二人の目には、こっちに舌足らずな言葉で話しながらよちよち歩くようになったばかりの末っ子の赤ん坊の姿は、さぞ可愛く写ったことだろう。
抱き締められ、揉みくちゃにされた。次こそは光ちゃんを捕まえて見せると誓いつつ、二人の喜ぶ姿が嬉しくて、自然と笑顔になった。