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三十六話 瞬殺



 「さっさと殺して、あいつらのとこにもどりてぇぜ。ストレスで死んじまう。へ、女がいたらそいつで解消しちまおうか」



 レイモンドは馬にまたがりながら、今や遅しと村にたどり着くのを待ち焦がれていた。その下にいる馬は、途中で出会った行商人を虐殺して手に入れたものだ。護衛が4人ほどいたが、生半可な相手など彼の敵ではない。生まれは山賊の息子。生まれた時から奪うこと、殺すことは日常だった。その恵まれた体格と、とびぬけた腕力にかなうものは近隣におらず、文字通り暴れまわった。だが、そんな彼の日常はギルドがランクAの賞金首に指定してから一変する。逆に大勢の仲間をギルドのメンバーに殺された。だが、それでも生き残った彼は、懲りることなく更なる血を求めて赤月の群狼に入団することになる。そこで魔戦技を第5番隊隊長補佐から学び、もはや王国騎士といえど一対一ではかなわぬほどの力をつけた。


 だが、自分の力に自信をつけた彼が命じられたのは、あろうことか副団長ルクスのお守り。赤月の群狼の中でも際立って異色を放つ、何を考えているかわからない赤髪の男の下につくという屈辱と不満。うずく体を抑えるのに、どれほど苦労したか。だが、それもようやく終わりを迎えるのだ。



 (これが終わったら、ミルバ隊長に願い出て、さっさとあいつのもとからおさらばだ)



 馬を駆け、しばらく街道を一直線に走り、森を抜けるとようやく目的の村が見えてきた。



 (けっ、人がいる気配がしねぇ。あの間抜け野郎。魔獣を使って逃げられないようにするんじゃなかったのかよ!)



 人気のない異様な雰囲気に、内心唾を吐く。こうなると面倒だ。どこに逃げたかは知らないが、さっさと村を燃やして追いかける必要がある。二日前に自分を抑えきれずに村に来たときは、まだ避難していなかった。そう遠くないはずだ。



 「おらぁ!燃え尽きやがれ!≪わが肉体に宿りた」



 「お、ようやく来たと思ったら、雑魚一匹か……つまらんな。せっかく久々に戦えると思ったんだが」



 


 確かに人の気配は感じなかった。だが、いつの間にか10mほど先に武骨な男が、何かを呟いている。右手には黒い斧をぶら下げ、こっちをつまらなそうに眺めていた。これがレイモンドのプライドを刺激する。あの見下した態度、表情、やる気のなさそうな目つき。


 

 (俺を見るルクスの野郎と同じ目だ!!)


 

 「なんだじじい!死にてえのか!」



 眼球が飛び出さんばかりに睨み付け、怒声をあげながら一気に馬を走らせた。すぐに縮まる双方の距離。レイモンドは大剣を大きく後ろに構えた。すぐさま自身の魔力を己の両腕に集中させ始める。ただでさえ強力な彼の一撃。それに加えた魔力による身体強化。この一撃に、レイモンドは絶対の自信をもっていた。たとえ鎧に包まれた重騎士だろうと、両断できる自信がある。



 (せいぜいあの世で後悔しやがれ!)



 レイモンドが大剣をカストールに振り下ろした。そこまでは良かった。すぐさま浮かぶ血に染まった相手の姿。だが……



 「斧もいらんか」



 砕けたのはレイモンドの大剣。名のある騎士から奪い取った逸品で、所属する5番隊隊長から授かった品。売れば金貨100枚は下らない大剣が、カストールの左腕を両断するどころか逆に砕かれたのだ。信じられず、砕けた大剣を目で追うレイモンド。思考が現実に追いつかない。


 

 「雑魚は消えな」



 カストールの失望が混じった、空気を震わす一撃がレイモンドの心臓を直撃した。それは左腕一本の正拳。レイモンドがその間際に何を思ったのかは分からないが、茫然とした表情のまま、その命を潰えさせることになった。



☆★☆



 その様子を、遠視の魔法を使って見つめていた人物がいた。ルクスとメッカである。



 「ねぇ……今二秒だよね?レイモンドが向かっていってさ、バン、ドーンって!私ってすげー!とうとう私の頭脳は神の領域にまで到達してしまったか!」



 はしゃぐメッカを横目に、実はルクスは焦っていたりする。確かにレイモンドが叫び、振り下ろした大剣が折れ、あの化け物の拳が馬鹿に当たったまでにかかったのは丁度二秒。きっかり二秒なのだ。もっと茫然とするあいつに言葉をかけてやればいいものを……そんなルクスに、嬉しそうに両の手のひらを上にむけておねだりしてくるメッカ。



 「はぁ?6秒だろうが。あの馬鹿があの化け物見つけてから数えたらそんくらい経つぞ。そもそも戦闘がはじまったのはもっと」



 反撃を試みるルクス。金貨二枚は払えなくもないが、それでも手持ちの金の半分を占める。無駄に使いたくない。というか、この女のしてやったりといった顔がむかつくのだ。適当にごまかしてうやむやにしておきたいところなのだが、今回は相手が悪かった。



 「そういうと思って、今のシーンは魔眼の瞳をつかって記憶済み~。団長に~判断してもらおっか~」



 「っち」


  

 腹がたったので、金貨二枚を懐からだし、メッカの顔面に投げつけた。だが、後ろに控えていた9番と呼ばれる少年に阻止されてしまう。相変わらず生気を感じない目をしたまま、道具のように佇んでいたので、すっかりその存在を忘れていた。笑いながら、その金貨を受け取るメッカ。ミルバちゃんに自慢しよ~っと、鼻歌を歌い始める彼女にいら立ちながらも、ルクスはその怒りを抑え、これからについて話し始める。



 「で、そのお前の自慢する9番とやらはうごかさねぇのかよ」


 

 「いや~、だってねぇ。多分10秒持てばいい方でしょ。あれを見る前は少しは自信あったんだけど、今はさすがに……こいつら殺されちゃうし、死体も回収できないとなると大損じゃん。ルクスが行くなら、少しは望みありそうなんたけどね~」



 「んな面倒なことするか。だったら大人しくしてな。今から魔物70匹をあいつにぶつける。データでもとってろ」


  

 「それもつまんないからさ……私は魔獣の方を捕獲しようと思うんだよね。ほら9番。お前もちゃっちゃと行け。失敗したら10番を始末するからね」



 「……」



 一言も喋ることなく、その場から消える竜人の少年。


 

 (実験体≪モルモット≫として、知能を持った魔獣ね……今度は何の実験始めるんだかな)



 ルクスは、ふと浮かんだ疑問を思考のかなたに追いやり、気だるげに魔力を左腕にはめた指輪に集中させ始めるのだった。


  

じじいの能力についてはおいおいと。まぁ、簡単に予想できてしまうと思いますが。



ではでは、久しぶりの連続投稿になりました。暇つぶしにでもどうぞ。

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