三十話 束の間〜カオス編
キリコが怖いです。
普段お喋りなお調子者が、急に黙りこくってじーっとしてると、変な圧迫感というか居心地の悪さを感じるよね。今まさにそれだ。
『……』
頼むから何か喋って欲しい。そして僕の手を放して欲しい。華奢な身体つきのはずなのに、がっしりと掴まれた僕の手は既に感覚がない。鎖で二重に縛られたかのようだ。しかも段々キツくなってるんだけど…
『…誰かな?』
おぉ、やっと喋ってくれた。ただうっすら寒気がするのは気のせいだと思いたい。
「えっと、僕の友達。シルーレっていって―」
『クフフ。それにしてはやけに嬉しそうだったねぇ。いや、文句を言うつもりはないんだよ私は。私の心は海より広大で太陽の如く暖かいからね。うん。度量の広いキリコさんと、あだ名として呼んでもらってもいいと思ってるくらいさ』
「じゃあ度量の広いキリコさん。手を放してくれ」
『それは駄目。まぁ坊やにも友達はいるだろう。それは構わないんだが、なんと言うか…そう、この気持ち!一言で言い尽くすのは非常に難しい。空前絶後であり天上天下さ。だがあえて!あえて言うとすると!』
僕の要求は一蹴されました…こいつの心は海より絶対狭いんだけど、ちっちゃい水溜まりといい勝負じゃないだろうか。
「はぁ…すると?」ため息をはきながら一応聞いてみた。
するとそっぽを向き、ボソッと『気にくわない』とキリコは呟いた。
「言い尽くしてるじゃないか!僕にどうしろって言うんだ!度量の広さはどこいった?」
『もう少しでキリコ先生って坊やが呼んでくれるところだったのに…しかも坊やめ、嬉しそーに…そんなにシルーレとかいう女がいいのかい?私とは遊びだったんだね!』
そしてキリコは、僕の肩を両手で掴んで揺らしてきた。うわ〜理不尽。何で僕は責められてるんだろうか。八つ当たりされてるだけのような気がする。
「おいキリコ…あんま激しく…うわ、気持ち悪くなってきた…」
ドンドン!強めにドアがノックされた。シルーレもさすがに不審に思ったのだろう。返事をしたのに大分待たせてしまっている。怒ってなければいいのだが。
「クリム!…開けるよ!」
勢いよくドアが開かれた。さて、とりあえずキリコが肩を揺らすのを止めてくれたのは幸いだ。だが脳がまだ揺れているし、視界もふらつく。結果、僕は自然とキリコに正面から支えてもらう形になってしまった。いや、コイツはわざとそうしたらしい。僕をニヤニヤしながら抱き締めてきた。ぬわ、顔に胸を押し付けてくる。身長差を考えたら仕方ないけど、男としてどうなんだ?これは恥ずかしい。
「……クリム……誰それ?何してるの?」
微笑しながらシルーレが僕に声をかけた。無論殺気しか感じない。
ヤバい!説明できない。誰か助けてくれ!
『クフフ。見て分からないのかい。愛し合ってるんだ。フフ、邪魔しちゃダメじゃないか。エルフのお嬢さん』
頼むからお前は喋るな!文句を言おうにも、ここぞとばかりに胸を押しつけて僕の口を塞いできた。うめき声しかあげられない。
シルーレの顔から微笑は一瞬で消えた。無表情に……めちゃくちゃ怖いんだけど!
「クリムを放してくれない?カストールの知り合いの魔獸さんだよね?そしたら苦しまないように一瞬で楽にしてあげるから」
『クフフ。野蛮だね〜。カストールのせいかな。あれが師匠だなんてお嬢さんも可哀想に。さて、もてなしをしてあげたいところだが、あいにく今は凄い忙しいのでね。んっ…坊や。大人しくしてくれ。時間はたっぷりあるから焦らさなくていいよ。クフ。というわけなんだお嬢さん。帰ってくれないかな?』
「……」
『……』
今にもレイピアを抜きかねないシルーレに対して悠然と構えるキリコ。視線はぶつかったままだ。
てかいい加減僕を放せよキリコ!絶対邪魔だろ!シルーレ!僕ごと突き刺すとかないよね?ありそうで恐いんですけど。
もう…耐えられない!
「ぷはっ…シルーレ落ち着いて!誤解なんだこれはキリコが無理やり」
「後でゆっくり聞くから。クリムは黙ってて」
『む、坊やから私の胸に飛び込んできたんじゃないか。全く、照れ屋なんだから』
「クリム……」
何その信じてたのに…みたいな表情は!?一体僕はどうすれば!?
長らく投稿せずすみません。忙しくて…感想頂きありがとうございます!誤字はあとで直しますのでご勘弁を。携帯が壊れたのは痛すぎます…
ではでは。駄文ですが読んで頂きありがとうございました!