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二十八話 竜人

「おい! なんであんな辺鄙な村一つに5日もかけねぇといけないんだ! さっさとこんなねぐらから出ていきてぇんだよ俺は。なぁ、今から俺が村の連中を皆殺しにしてくっからよ。いいだろ? お前だってこんな何もねぇとこうんざりだろうが。あのいかれたメッカに何言われたかしらねぇけどよ。おい、頼むぜ。気が変になる。昨日の夜なんてよぉ、思わず一人で殺りに行こうとしちまったよ。見ろ! 手が震えてやがる。俺の気が長くねぇこと知ってんだろ?」



 怒鳴りながら机を両手でバンバンと感情のままに叩く男がいた。桑色のシャツからは逞しい腕を覗かせており、異様に大きな眼球が血走っている。その特異な鷲鼻と一緒に詰め寄ったりでもしたら、相手はたまったものではないだろう。カストールに劣らぬ巨躯である彼は、全身の熱を持て余していた。何かを常にしないと自分を抑えきれない性分なのだ。この単細胞な男には、現状が満足できなかった。 


 (うるせ……)


うっとおしそうなげんなりした表情で、そんな彼を平然と眺める男がいた。黒がかった赤い髪に、右目には縦に大きな傷。椅子に座りながら、足を散々に揺らされている机に預け、後ろに手を組んでいた。


 「聞いてんのかよ! おいルクス!」


 「聞いてるぞー。それはメッカに言え。今日か明日にはこっちにくるだろ。そもそも、お前にはこいつは向かないんだよな。だから待ってろって言ったのによ。魔道具の運用試験も兼ねてんだから、毎日毎日俺んとこにくんなよ。こっちは魔力使って大変なんだぞ? 暇なお前と違ってな」


 最後の言葉は侮蔑を含めた口調であった。言い放つや、すぐに眠そうにあくびを何度か繰り返している。


 「ふん!!」


途端に彼は納得いかないように再度机を両手で大きく叩きつけた。生生しい音とともに、さすがに堪らず机は真っ二つに割れた。ふー、ふーと彼、レイモンド・ラジアは鼻息を荒げている。依然として目は前にいる男を睨みつけたままだ。


 「好きで来たんじゃねぇ! お前の目付け役を団長から頼まれたんだよ!! 誰が好き好んでんなとこ来るか。まだザチアにいる奴らと酒かっくらってた方がマシだ! そもそもだ。メッカの野郎は気に食わねぇんだよ。お前以上にな!」

 

 「死ぬほどどうでもいいだろうが? 俺にとってさ……こう見えても副団長だぞ俺は? 目付役だが何だか知らないが、団長も変な心配しすぎなんだよなぁ……部下は部下らしく黙って俺の言うこと聞いてろよ」


 「上等じゃねぇか…」


 両者にらみ合ったまま動かない。いつでも襲い掛かれる態勢のレイモンド。依然として腕を後ろに組んだままのルクス。片方は顔を獣のような風貌に、片方は口に薄笑いを浮かべていた。



 「おーおー。殺し合いか? はっ!はっ! 止めないけど、やめといたら? 絶対レイモンド死ぬじゃん? 私は後片付けはしないからね。ルクスがやるんだよ」

 


どれほどの時が経っただろうか。この場にはまったく似合わない、妙に伸び伸びとしたゆったりとした口調の女性が部屋の入口にたたずんでいた。長い黒髪をポニーテールで後ろにまとめ上げ、黒い外套を羽織ったこの女性は、嬉しそうに双方を眺めている。



 「それは勘弁だ。レイモンド、メッカに礼でも言ったらどうだ?」


 「ふん! うるせぇ。俺が負けるかよ」


 「はいはい。いいからいいから。見せたいものがあるんだ。殺し合いは後でな。死んだら後悔しちゃうぞ~」


 この女性の名はメッカ・フランシス。黒色と知的好奇心を満たすことをこの上なく愛する、王立魔法研究学会を追われた破綻者である。手を叩きながら、顎をくっと上へ動かした。


 すると、音もなく二人の子供がメッカの横に現れた。


 「おい…………まじかよ……」


 レイモンドは絶句した様子で二人の子供を凝視していた。先ほどの興奮が嘘のようである。一見どこにでもいる少年と少女だが、現れた瞬間この場の空気が間違いなく変わった。


 (特にやばいのが右の奴だ……)


 レイモンドは灰色の長い髪を胸まで伸ばした少年に、ある恐れを抱いていた。生気もなく、ぼんやりとこちらを眺めているこの少年の瞳は……人間ではない。ドラゴンの瞳を持つ人間。噂に聞く竜人の瞳だ。


 (そんな奴が本当にいたのかよ…)

 

 茫然とする彼を横目に、ルクスはつまらなそうにメッカに話しかけた。


 「わざわざ団長命令で待たすから何かと思いきや……どうしたんだ? これ」


 「本当につまらないなあんたは……もっとうぎゃー! って反応を期待してんだぞ。その点、レイモンドは素晴らしい。キスしてあげたいくらいだ。もちろん冗談だけど。お? 本気にした?」


 「するか! 死んでもごめんだ。いかれ女!」


 「私を褒めるなよ。こっちを褒めろ。9番と10番だ。特にどうだこの9番は! 10番もまぁ竜人といえるんだが、別格だろう? 両目が竜眼≪ドラゴンアイ≫なんだぞ。見つけるのにわざわざ隣国まの奥地まで行ってきたんだ。調教に2、3匹失敗してさぁ。ったく、頑丈が取り柄のくせに。まぁ、いい死体が手に入ったと思えばいいかね。ほれほれ、見ろ見ろ! この首輪! メッカ様の自信作だ。首が閉まるなんてもんじゃない。私の意思で即電流が流れんだぞ」


 ぐいっと、もう片方。メッカが10番と名付けている少女の首輪をつかみあげた。亜麻色の髪をしたその少女は苦しそうにうめく。だが、そんな少女に一向に構う様子はなく、メッカはしゃべり続ける。



 「前に買い取ったあの首輪はダメだダメ! 欠陥も多いし、有効範囲があっからな。外すのはまぁ無理だろうけど、たまにうまく作動しないことがあるから。囚人にはそれでもいいんだろうけどさ。その点この新開発! あ、名前募集中だから、レイモンドはセンスなさそうだからなぁ。ルクス、思いついたら教えてくれ。採用するかもしれないぞ」


 余計なお世話だとつぶやくレイモンド。メッカが握るこの首輪は、この世界において禁忌とされる品。国が囚人に使う場合にのみ、認められている。奴隷に使っていた時代もあったが、この首輪を悪用するものが出たため、ある国では大規模な奴隷の反乱が起こったことがあるのだ。そのため、僻地での重労働を囚人に命じるときに例外としてこの首輪は使われることになった。国家間でも使用、流通が固く制限されている。むろん、個人がこのような首輪を、所持、開発などしたら、問答無用で処刑される。 


 

 「アホなこと言うな。てか、4匹目を作る気か? さっさと手を離せよ」


 「うーん、残念……おっと、そうだった。ほいっと」


 何事もなかったように手を放す。少女はせき込みながら床に崩れ落ちた。その時、灰色の髪の少年がわずかな光をその瞳から覗かせ……


 「その目、むかつくな~」


 ばちっ! 一瞬の閃光と何かが焦げる音が部屋にこだました。意識を失い、少女に重なるように少年は倒れこんだ。


 「あちゃ~。またやっちゃった。ま、死ななきゃいっか。そうそう、明日でしょ? 皆殺しパーティは? この子達使ってよ。10番はまぁおまけだけど、9番はかなりいい線いくぞ~。うわ~、楽しくなってきた!」



 踊りださんばかりにはしゃぐメッカ。どことなく不服そうなレイモンド。


 「今からでもよかったのに……気絶させんなよな」


 そう言いながら、相変わらず人を馬鹿にしたような笑みを浮かべているルクス。


 

 (間違いなく明日は血の雨が見れるな)


 心中はメッカに劣らず興奮気味だ。明日の惨劇を想像し、彼は面白そうに胸の内でつぶやいた。 

 

パソコンを使ってみました!やっぱり楽です!携帯で打ちたくなくなります。


初めて結構ダークっぽいシーンとキャラが登場しました。苦手な方はすみません。群浪関係はこんな感じです。


ではでは!読んでいただきありがとうございました!

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