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二十七話 一日の始まり

 朝日が山の間からゆっくりと昇る。涼しい朝の空気と相まって、赤い太陽はいつもよりも輝いて見えた。


 僕は今、山小屋……じゃなかった、キリコ屋敷から抜け出し、昇る朝日を眺めている。昨日は本当に大変だった。


 「よくこんな山小屋で暮らすよな」


 と、ふと思ったことを本を探しながらキリコに言ったら--


 『今聞き捨てならないことを坊やは言ったね! 山小屋とは失敬な。この私が住んでいるのだ。建物の真価は、誰が住むかによって変わるとは思わないかね? そうだろう。今のこのキリコ屋敷がいい例だ。私のような高位の存在が住むことによって、小汚い人間の住処でしかなかったこの小屋が、ここまでの輝--』



 相変わらず面倒くさいやつである。またもや僕に掴み掛らんばかりに熱弁をふるってきた。キリコ屋敷だろうが、ごみ屋敷だろうがどうでもいい僕にとっては、ただうっとうしいだけである。そもそも会話があまり成立しないのだ。あいつは勝手に人に質問しといて勝手に答えるから。



 大体下着もはいていないくせにさ! 本当に目のやり場に凄い困った。主に本探しの最中。四つんばいになってあっちこっち動き回るから。そんな中、それでも僕はとうとう見つけたのだ! 埃をかぶった古めかしい魔道書を! そしたらキリコも嬉しかったようで、尻尾を出して歓喜の歓声をあげた。そのせいでスカートが思い切りめくれて、しかも飛び上がるもんだから、僕はうつむくしかない。その瞬間、何をとち狂ったのか、喜びのまま僕に抱き着いてくるキリコ。当然支えきれずに、思い切り頭を床にぶつけてしまった。胸の感触やらがそのまま布越しに伝わってくるし、ちゃっかり僕をクッションにしたキリコはそのまま僕を離さないしで、何が何やらわからなかった。


 

 ようやく引きはがして、よし寝るか! と奇跡的に3枚あった毛布を引っ張り出して、寝ようとしたのだが、それからがまた大変だった。



 『クフフ、そうだね。どれ、一緒に寝てあげよう。何、気にしなくていいさ。既成事実というものを作っておいたほうが何かと--』



蹴っ飛ばしておいた。いや、動物虐待とか、女性にそれはないとか言わないでほしい。僕のキャパが限界を迎えていたのだ。よき達成感を感じたまま安らかに眠らせてほしいのに、まだまだ元気すぎるキリコ。もう日は落ちていたので、これまた奇跡的にあった蝋燭に火を灯しておいた。ほのかな明かりが周囲を照らしてくれる。修学旅行の子供のようなテンションはここから来ているのかもしれない。初めて友達がお泊りに来てくれた! てな感じで。 



 『こら坊や! いきなり何をするか! 人間の男にとって、これは夢のような状況ではないのか? うら若き美人と一つ屋根の下。据え膳食わねばともいうではないか』



 「お前は知識はいいから常識を学べ! いろんな要らない知識がありすぎる。六歳って言ってるだろ! 僕はもう疲れてるんだから、さっさと寝かしてくれ!」



 僕は毛布を頭からかぶった。これなら変なことしてこないだろ。途端に今日一日の蓄積した疲労が襲ってくる。



 『つまらん。いや、どちらかというと寂しいな坊や……まてよ、これが倦怠期というやつではないか? コレット夫人があまりの寂しさに自殺を考えたという--』



コレット夫人って誰だよ? こいつの無駄な知識の根源を垣間見た気がした。まぁ変な世界に行ったまま帰ってこないのはいいけど。頼むから僕が寝るまでは大人しくしていてくれ……そういえば、結局ジジイもシルーレも来なかったな。これはジジイに文句言って……とぼんやりと考えながら、意識は静かに夜の闇へと溶けていった。



太陽を正面に、大きく伸びをした。体の節々が痛むが、少しスッキリする。




昨日は本当に……疲れた一日だった。今日は出来るだけ穏やかな日であってほしい。起きたら人間の姿のままキリコが僕の毛布のなかにいたのだが、これは不吉の前兆じゃないよな? ラミレス家に帰らない限り、安息はない気がする。 



 『おはよう坊や。昨日はよく眠れたかな? まったく私を放って勝手に外に出るとは。やさしく起こしてくれるものではないのか? 』



「おはようキリコ。いつそこに? なんだかどっと疲れるんだけど」


当たり前のように、隣にいるキリコ。朝日に目を細めていたが、口は健在。朝から元気そうである。



『クフフ。今日も愉快な一日になりそうだ』



「二日連続厄日はごめんだよ」



『照れるなよ坊や。自分に正直に生きないとこれからの人生損してしまうよ?』



「照れる要素はひとっかけらもない!」



『クフ、そうかな?』


笑いながら顔を近づけてくる。両手でそっと僕の頬をつつみ、瞼を閉じ---させるか! 強引に頬を引っ張ってやった。


『むぅ』

  

キリコは不満そうにその紅い目を向けてくる。いや、不満そうな顔される意味が分からない。僕は被害者だろ? とりあえず睨み返しといた。



『ま、坊やは坊やだから仕方ないか。甘美な口づけというものをしてみたかったのだが』


「ほかの人でお願いします」


『だから照れないほうが--』


「そんなに口づけがしたいなら、師匠を紹介してあげるから! そういえば師匠は独身だよ!」 


『むが!?』


師匠が頭に思い浮かんだのかな? 口を押えながら倒れこむように膝を地面につけていた。


『坊や……私を殺す気かい? あいつの野卑な唇が目の前に浮かんできた……いくら私でも……さすがに……』



これは面白い! 初めてキリコの弱点を見つけてしまった! しばらくこれでからかってやろうかな。

はてさて、今日はどうなることやら。とりあえず、村に行ってみようか。 


やばい、キリコシリーズが長すぎる……でもクリムとキリコの絡みって書きやすいんですよね……キリコが勝手にしゃべってくれるし。



ヒロインでもなんでもないチョイ役としての出番予定だったキリコは、今後どうなるのか? 実はプロットにまったくいなかったキャラに翻弄され中ですが、まぁ見守ってやってください。次は赤月の群浪がいよいよ。またまた新キャラ登場です。 

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