ニ十六話 ストーカー出現
意外や意外、キリコの料理は美味しかった。正直、あんまり期待してなかっただけに、ちょっと感動している。キリコ! やれば出来るじゃないか!
『坊や……いや、もういい。どうだね。私の20年の成果は。初めて料理というものを知って、研究を重ねてきたのだ。手を使わないと作れないからね。その為に人の姿まで成れるようになったのだよ』
多少呆れ気味に答えるキリコ。よく分からないこだわりがあるのか、姿勢正しくナイフとフォークを使う様は随分と上品だった。どこかの貴族令嬢で通じるかもしれない。今キリコは、白と紺のブラウスにシワだらけのスカートをはいている。下が残念。あまり着ていないらしいが、普段はどうしてるのだろうか? 考えようにも、答えは一つだが。バカなのか天才なのかよく分からない魔獣だ。
「そう言えば、師匠と死合いしたって言ってたけど何で?」
これは気になっていた。丁度掃除も一区切り着いたので、聞いてみる。ちなみに掃除中、キリコは戦力にならず、口ばかり動かしていた。
『あぁ、人間に興味を持ち出した頃でな。人里に姿を変えずに潜り込んでは、本を強奪していたのだ。それで討伐の依頼が出てしまったようで、それを受けたのがカストールだ』
食後の水を美味しそうに飲みながらキリコは答えた。
「よく無事だったね」
『普通は逆なんだかな。あれは化物だと私も思うぞ。よくも人でありながらあそこまで……私の白炎があまり効かなかったのには、ショックだったな。しかし負けたわけではない。勝敗は引き分けだ』
「本当に? まぁいいけど。白炎って何?」
『疑うのか? 私が負けるわけないだろう。白炎というのは、私のオリジナルだな。私の氷の波長に、炎の魔力を足したものだ。触れれば一瞬で燃え上がるように凍り崩れ落ちる。炎の性質に氷の属性をつけた、それはもう強力な魔法だ!』
「何で師匠には効かなかったの?」
『嫌なことを思い出させてくれる……魔力の渦が溢れるのが見えた。私に言えるのはそれくらいか』
どうやらあまり話したくないらしい。しかし、本当にジジイは何者だ? 倒せる日はくるのだろうか。
『今度はこっちが質問したい。私が見たところ、坊やは8……いや9かそれ以上の波長と色を持っている。私でさえ4つしか持たないのだ。坊やもカストールのことを言えないかも知れないね』
「どういうこと?」
『まぁ、私も聞いたことがないからはっきりとは言えないが、坊やに使えない魔法はないだろうね。全ての魔法と相性がいい。今の坊やの色は白で波長は光だが、これが他の魔法にも応用出来る……といったところか。魔法に自分と相性があることは知っているだろ? 不安定だから訓練が必要だとは思うがね。身に何か覚えはないかい? 坊やが只の人とは思えないのだよ』
それは転生が原因か? 都合のいい能力なんてこれっぽっちも期待してなかったから悪い気はしないが、波長やら色やらよく分からない。確証もないし、今は黙っておいた方がいいか。
「……さぁ?悪いけど身に覚えはないや」
『……そうか。まぁ、この話は追々としていこうか。ところで、坊やは誰と暮らしているのかな?』
「父上とクレハとシルーレとリリスと一応光ちゃんとメイドたちコウくんたちと屋敷で暮らしてる」
キリコの紅い目が見開かれ、口元は大きく開いている。感情表現が豊かなのはまぁいいが、何だ? いい予感がしない。
『クフフ、カストールの名がなくて安心したよ。私はあいつと暮らすなんて、堪えられないからね。坊やの家はちゃんと台所はあるかな? 私としては……』
「ん? ごめん、今なんて? 暮らす?」
『話を最後まで聞きたまえ。坊やの家に行くと言ってるんだ。ここも飽きてきたし、坊やが来たのも面白い縁だ。私は偶然というものは信じてないからね。さしあたっての問題は、ここにある本をどうするかだ。何かいい案はないかな?』
言ってねえ! これは不味い。一番どうでもいいことを一番に持ってくる辺りがキリコらしい。こいつ、本気だ! 本気で僕についてくる気だ。
「ない! 無理だって。ラミレス家に魔獣が住み着いてるとか、変な噂がたつかもしれないじゃないか」
『……何と! じゃあ坊やは、私にここに留まれと、一人寂しく死んでいけというのかな? …一夜を過ごした仲だというのに、あまりにつれないじゃないか』
「いや、まだ泊まってもいないし。やっと僕が寝るスペースが確保出来ただけだ」
調子のいいこというな! どっかの小説から仕入れたな。よよよ、と顔を両手で隠して泣く仕草をする辺りが、ものすごく芝居臭い。
『どっちにしろ変わらんよ坊や。屋敷に人間の姿で現れて、あることないこと問い詰められるのと、今ここで私を連れていくと決めるのは、迷う余地はないと思うがね』
演技か効かないと見るや、脅しをかけてくるとは……だがバカめ!
「……六歳にそんな脅しをかけても無駄だって」
前世の頃なら分からないが、こんなちびっこにそんな脅しは無効!
『クフフ、何を言われようと付いていくつもりだ。いい加減、覚悟を決めるといい。文句はカストールにでもいうんだね』
開き直られた……目の前の白狐は本気でやるだろう。ストーカーか!? 勝ち誇った顔が腹立たしいが……ま、ジジイに責任取って貰うとするか。
「はぁ〜……それジジイにも言っといて」
『ジジイ!クフフ、フフ、その通りだね。いや、坊やは正しいさ。面白いね。それでだ! 坊やには空間魔法を取得してもらいたいと思っているんだよ私は。そうすれば本を持ち運べるだろ?』
「空間魔法? 聞いたことないけど?」
初耳だ。地、水、火、風の基礎魔法に氷、雷、光、闇の扱いが難しく才能が要求される高位魔法なら知っているが、空間と言った抽象的なものに干渉する魔法なんて聞いたこともない。
『クフフ、今では古代魔法の一つさ。何せ使い手が少なすぎてね。波長と色が特殊なのさ。だが、坊やになら出来るだろう。丁度それに関する魔法は私の書物の中にある。ものの試しにやってみるといい』
「白炎も使えたりする?」
『坊やなら……だが、これは私が編み出した無詠唱の魔法だからね。私のように膨大な魔力があれば別だが、坊やの場合、威力は期待しない方がいい。無詠唱はそれだけ難しいんだ。強い意思とイメージで世界に働きかける。人間で無詠唱魔法が使えるなら、間違いなくそいつは一流さ』
なーるほど。いつか治癒魔法も無詠唱で使いたいもんだな。何だか面白くなってきた! 古代魔法に関する書物なんて国宝ものだと思うんだが、キリコはどこを急襲したのだろうか?
実は大物?
『あれ……どこにやったかなぁ。こら、坊やも一緒に探すんだ』
キリコはいつの間にか四つん這いになって、本をバサバサ散らかしながら探していた。まだ本棚に収まっていない書物からと言うことは、埃に埋まってるかも。ため息を吐き、僕は真夜中近くまで奮闘することになった。
キリコを書くのが楽しい!!!なので一気に投稿しちゃいました。
もともと会話もあまりなく、クリムの自己決裁の感想とかくかくしかじかって言葉だけでやっていこうと思ったんですが……そろそろ携帯で書くことに限界を感じます。
それを弟に言ったら、小説消せば?と言われました!全く、酷い奴です。
これが終わって、学園にいって、、狙われて、巻き込まれてと、またまた変な奴を書くまで頑張ります。
それでは!