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ニ十五話 赤月の群狼



カストールとシルーレは村長宅に行き着いた。初めてきた旅人もすぐにここが村一番の権力者の家だと分かるだろう。木造のしっかりした造りに、少し離れて円錐の建物がある。恐らく村の集会所として使われているのだろうが、妙に暗い雰囲気が中から発せられていた。



「何だか辛気くさいね」




シルーレがぽつりと呟く。明らかに多くの人が中にいるが、活気が伝わってこず、ただただ不気味な空気を漂わせていた。




「嫌な感じだ。ったく」



カストールもこの空気に当てられ気分を害したようだ。肩を怒らせながら中へと続く扉を開けた。



「おい、ヨゼ!何だってんだ一体!」



怒鳴り声をあげる突然の来訪者に、一斉に視線が集まった。大体30人程の男たちが胡座を組んで座っていたが、皆驚いているようだ。大部分のものは既にカストールの剣幕に圧されている。



「おぉ、カストール!よく来たよく来た!お前が依頼を受けてくれたのか?」



その中で一人だけ辛うじて平静を保ち、手をあげてカストールを迎え入れる人物がいた。彼の名はヨゼ・ラストル。齢60を過ぎているが、眼光は衰えず、体も頑健な男だ。だが、少々やつれているようで目が窪んでいる。顔色も悪い。



「何だ? わしは依頼なんて知らん」



「そうか……ふむ、そう言えば依頼を出すためにアスを村から出したのは昨日だったか。まだギルドに受理されていないかもしれん……偶然か、いや、これは喜ばしいことだ。お前の腕は知っている。頼まれてはくれんか?」




「わしはここにやることがあってきた。ギルドに出したなら待ってりゃその内誰かくるだろ」




「いや……だが、来たとしても……カストールも知っているだろう? 盗賊・赤月の群浪の悪名を。村に少し前、赤髪の男が一人でやってきて…………」




意外なことに、カストールよりも早くその赤月の群浪という単語に反応したのはシルーレだった。居心地悪そうにカストールの後ろに佇んでいたのだが、即座に前に出てヨゼに掴みかかる。




「今赤月の群浪って言った!?それに赤髪とも!」



「落ち着けシルーレ。ほれ、ヨゼもエルフは珍しいだろうが話は後だ。続きを」



カストールに右腕で強引に引き剥がされたシルーレは、興奮を隠しきれずに頬を赤く染めながら、ヨゼを促すように見つめていた。



「…………キリコの居場所を教えろと言う。わしの娘があやつのお陰で助けられたことがあってな。あいつには村の者も多かれ少なかれ感謝している。断ったんだが、5日待つから居場所を教えろと、さもなくば皆殺しにするといってきおった。どんな手段を使ったのか知らんが魔物もこの近くにどんどん増えてきてな…………」



「あいつが殺られるかよ。しぶとさだったらわしが認めてやる。居場所なんて教えてやればよかったんじゃねぇか?」




「その赤髪の男の……笑みがな、不気味で仕方なかったんじゃ。長く生きてきたが、あんな邪悪なものは……それに、いくらキリコが強かろうと恩を村人全員が受けている。それを売るような真似は、人として出来ん」




「相変わらず堅い頭してるわい。だから、この死人のような空気が漂ってたのか……ったく、んでいつ来るんだ? その男は?」




「後2日じゃな。村でも意見が割れている。キリコはここから逃がすべきだが、そうしたらわしらは……」




「いや、ヨゼ……分かってんだろ? 赤月の群浪の噂が事実なら、5日なんて長い日にち設けたのは苦しむ様が見たいからだ。どっちにしろ皆殺しはさけられんだろ」




途端にざわざわと男たちが騒ぎ始める。戦うべきだ!今すぐ逃げるべきだ!と喚く者が数人出てきた。ヨゼが沈痛な顔をして、何とか沈めようとするが一旦揺れた感情の波はそうそう収まらない。




その中で、シルーレが静かにヨゼに問いかける。




「ヨゼさん。その赤髪って、こう目に傷がなかった?」




自身の右目を指差し、縦になぞる。ヨゼは強く頷いた。




「忘れようがないさ」



その言葉を聞いた瞬間、シルーレの目は鋭い眼光を放ち、ヨゼを一歩下がらせるほどの威圧を含んでいた。




「ボクは運がいい。やっと、やっと」




一人呟くシルーレの姿は、とても子供とは思えない。ヨゼは背中がじわりと湿るのを感じていた。




「うるせぇぇ!お前ら!」




ビクっと、男たち全員が反応し、押し黙る。




「とりあえず酒だ!さっさと持ってこい!血染めの戦鬼の名を知ってる奴ぁ早く支度しろ!」




先の対戦において、ギルバートの砦と称された二人の男がいた。一人は当代ギルバート王、もう一人がこの男、血染めの戦鬼、カストール・グランである。




戸惑うのも一瞬、我先にと村にある酒を求めて男たちは全員去っていった。




「本当に面倒なことになったもんだわい」




そう呟くカストールの顔は、久々に沸き上がる血の猛りに静かに笑みを漏らしていた。




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