ニ十三話 お喋り魔獣
『クリムというのか。蒼い髪にその瞳は綺麗なものだ。顔つきも惹かれるものがある。魔獣の私が思うくらいなんだから、さぞ人間の女にモテるだろう。どうだ?』
「さぁ? 自分ではなんとも」
『おや、将来は女たらしになるかもしれんね。私の言葉を覚えておくといい。それで、坊やの師がカストールなんだね?』
「……一応そうだよ」
『クフフ、一応ときたか。あまり好かれとらんね。いや、当たり前だ。あんな野蛮な奴をよく師にすることが出来るもんだ。その一点に関してはさすがの私も頭が上がらないよ。ここにやられた理由もまぁ分かる。食べはしないから、今日は泊まっていくといい。私が人間に学んだもので、トップ5……いや3だな。調味料や道具を使った料理と言うのはなかなかのものだ。坊やは甘味は好きかな? 私は好物でね。あれを発明したものは実は魔神なんじゃないかと疑っているんだ。だってそうだろ。あんなに私の心を…………』
よく喋るなこの妖怪!
さっきからずっとこんな調子。僕は頷くか、曖昧な返事をしながら、このキリコの後をひたすら追いかけている。魔物も見当たらず、どうやら寝床も確保できそうだ。それはいいんだが……前を歩くキリコがめっさ話しかけてくる。魔獣というのはお喋りなのかな?
『坊やの魔力量は人間にしてはなかなかだね。変わった波長を感じる。いや、そこなんだよ。長年人間を観察してきたが、坊やのような魔力波長は見たことがないんだ。火のような雷のような、イマイチ掴めない。これは私にとって結構な出来事でね。最近は人間の本というものもある分は読みきったので暇だったんだ。そこで坊やが来た。今まで感じたことのない波長を持ってね。もうしばらく様子を観察してたかったがもうダメだ。私の好奇心を抑えるのは無理だったよ。それで坊や。何の魔法が得意なのかな? 恐らく光を扱うものだとは思うんだけど、波長が火に変わったり雷に変わったりで、一瞬一瞬変化が見えるんだよ。何かの加護を受けてるのかな? 魔力の波長と色は、人間は一つしか持っていないハズなんだ。もしくは特異体質かな? いや、興味深い。私の好きな甘味の本が、突然空から落ちてきたかのようだ』
もう面倒くさくなってきた。緊張がゆるゆる溶けていく。まさか白狐に言葉で圧倒されるとは。しかも魔力波長って何だ? 魔獣言語か? 魔力には特有の色があるらしいとは本で読んだことあるが、さて、どう答えたらいいか。
「そうだね」
まぁ、流しといた。途中からこっちの言葉聞いてないっぽいし。こいつは友達いないだろうな。何だか可哀想。
『ん? 今無礼なこと考えなかったかい。また波長が変わった。坊やの気持ちが変わると連動するのかもしれない。それはそうと、私は人間とは次元を異にした高位な存在なんだ。とりあえず、謝りたまえ』
「…………ごめん」
『許そう。坊やぐらいの子供が無礼なことを言おうが考えようが気にはしないさ。ほら、彼処が私の家だよ。見た目はボロだが、中は整理されている。本は私の宝だからね。もし汚したら容赦なく追い出すから心に留めておきたまえ』
いや、これは、凄い、面倒くさい!嘘だし、気にしないとか。めちゃくちゃ敏感じゃん。謝れとか言った後に大物ぶられても困る。どうやら哀れむと気持ちがバレるらしい。思考を放棄して、言われるがままにキリコ宅に入ってみた。
「キリコ……」
『お、私を早々に呼び捨てとは肝が座っている。まぁ坊やは特別だ。これは光栄な……』
四本足の獣がどうやって本を読むのかとか、料理するのかとか今はどうでもいい。
「汚すぎ!どこが整理されてるって? 本は床に散らばってるし、何か変な臭いするよ!まずは掃除!これじゃ寝られないって……あのさ、キリコってお風呂はどうしてるの?」
『川が近くに』
「そこは魔獣か!……疲れてるんだけど、仕方ないか。まずは薪に、ドラム缶みたいなものは……あるはずないか。とりあえず、台所の掃除しないと」
目をぱちくりしている駄目魔獣を放っておいて、今日は厄日だと思いながらいそいそと台所に向かうのだった。
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