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ニ十ニ話 白狐

「絶対殺す気だ!ったく、キャンプにだって行ったことなかったのに」



只今ジジイとシルーレとは別行動中。きっかけはまたまたジジイの非道な命令だ。



「一人で行け。わしは村長に用がある。シルーレも、昨日は見逃したが今日は許さねぇ。一緒に来な。いいか、こっからは坊主一人でアイツの家に行け。ほれ、地図とコンパス。走れば3時間くらいだろ。わしらに抜かれたら罰として…………ま、帰りの荷物もちで許してやるか」



「無理!!師匠!絶対無理!魔物が出たら?」



あまりの宣告に、ジジイに飛びかからんばかりに叫んだ。ちなみに普段は父上に習って師匠と呼んでるのだ。目上の人をジジイ呼ばわりなんて、例え殺意を抱いていても目の前じゃ出来ん。リアルに半殺しにされそうだし。



「あぁ?自分で何とかしろ。当たり前だろ。運がよければ会わねぇよ。さっさと行け」




「僕は方向音痴なんだ!」



遭難という言葉が頭を過る。地図があろうが、コンパスがあろうが、カーナビレベルの全自動道案内機がないと不安だ。地元で普通に道に迷える僕にとって、結構死活問題。冒険者には向いてないかもと、今更だが思った。




「知らんわい。その為の地図とコンパスだろうが。じゃあわしは行くからな」




正論なだけに、言葉につまる。何とかして思い止まらせたいが……そんな僕を残してさっさと行こうとするジジイ。だが、僕には友がいた!



「カストール……クリム一人じゃ危ないよ。僕も一緒に行く!」




何て優しいんだろう……胸が熱くなる。僕の慌てる様が必死だったから、同情してくれたのだろうか。兎も角、これで一安心。



「甘やかすな。ほれ、同じこといわせんな」




ジジイはシルーレの襟首を掴んだかと思うと、ぐわっと軽々と持ち上げた。シルーレが悲鳴と抗議の叫び声をいくらあげようとお構い無し。地面を揺らしながら去っていった。




「…………」




声が出なかった…………一瞬安堵しただけに、天国から地獄って感じだ。




今度は天から蹴り落としやがった!!




葛藤と現実逃避すること数分。仕方なく地図を目に焼き付けて行軍を開始した。




道なき道をひたすら走る。よし、方角は東北に。空は晴れ。魔物なし。何とか無事につけてくれよと祈りながら走る。




と…………嫌な悪寒。咄嗟に振り返ると…………白狐がこっちを見てた。




やー……綺麗だ。神々しくすらある。耳から尻尾まで雪のような白模様。時折耳をピクピク動かしながら、気品ある態度で僕を観察している。野生の狐なんて初めてみた。




しかし僕は忙しい。普段ならたっぷりと眺めたいところだが、罰ゲームはごめんだ。襲ってこないし別に無視していいかと思い、特に気にせず行軍を再開した。




『村の者じゃないね坊や。迷子かい?』



誰かが人をからかうような楽しげな口調で頭に直接話しかけてきた。女性のように高いが、妙に渋みのある重々しい声色。初めての経験に戸惑う僕。



足を止め、素早く辺りを見渡すが人の姿はない。上からでも下からでもない。ただ言葉だけが直接頭に響いてくる。



……人の声じゃない?



『はて、可愛らしい坊やだが、嫌な匂いがするな。私と死合いをしたあの野卑な人間の匂いが。もしかして、坊やはあいつの関係者かな?』



ひらりと目の前に何かが降り立った。真っ白なその狐は、一足で僕を飛び越し、今度は間近で見つめてきた。



こいつが喋ってるのか? 只の白狐じゃない……もしかして魔獣!?



『混乱しとるようだ。ふう、先ずは自己紹介といこうか。人間の坊や。私はお前たちの言うところの魔獣・第四位・白炎のキリコという。』



そう言ってにやっと顔を崩した。狐が笑った! と呑気に構えてる場合ではない。目の前のこいつは前世でいう妖怪に近い。しかも魔獣!ジジイの知り合いってもしやこの妖怪さんか? だとしたら本気で恨むからな!



『坊やの名前は何かな?正直に言えば、食べないであげなくもないよ』



「どっちだよ!」



どこまでも愉快そうな目の前の狐に、思わず突っ込む僕。明日まで命はあるだろうか?




一方その頃、カストールはようやく観念したシルーレを引き連れ、村長宅に向かっていた。



「酷いよ!鬼!悪魔!人でなし!クリムが魔物に襲われたらどうするのさ!」



大層ご立腹なシルーレは、さすがに倍以上の巨漢に殴りかかりはしないが、ひたすら文句をぶつけていた。




「うるせぇな。あいつは子供は食わねぇから大丈夫だ。それに宿を村長に借りなきゃ泊まるとこねぇぞ。こんな何もない田舎にくるやつは滅多にいねぇからな」



「食べない?え?知り合いじゃないの?泊まるのはそこって……」



「わしはあいつが人間だなんて言っとらんぞ。何でも人の山小屋を占領しとるらしいが、そんな辺鄙なとこに泊まる気なんてさらさらないわ」


「じゃあ、山に住んでるのって…………」



「魔獣じゃ。何度か殺しあったこともある。といっても変なやつでな。人間に興味があるようで、この山に住み着いてる。なに、害はない。この村の守護魔獣ってとこか」



「そんな!何でクリムを一人で行かせたの?」



「…………まぁ、長年の勘だ。わしが行くと殺し合いになるかもしれんし、お前も一緒にいくとクリムの成長にはならんと思ってな」



「何だよ勘って!今すぐ助けに!」



「いいから黙ってついてこい」



問答無用で今度も襟首を捕まれるシルーレ。手足をばたつかせるが、カストールには大した重荷にはならないようだ。いくら暴れようがお手のもの。足をどんどん進めていく。



(あの山にはキリコしかいねぇ。雑魚の魔物はまず近寄らねぇからな。さてさて、この出合いがどう転ぶか楽しみだぜ)



今回の修行の目的は二つ。

一つはクリムに魔物を殺させること。つまりは命のやり取りの経験を積ませること。

二つ目は偶然思い出したキリコの存在。並みの魔導士では相手にならない規格外の魔獣の存在をクリムに直に知らせること。それはこれから魔法を学ぶクリムにとって大きな糧になる……ハズだとカストールは考えていた。二つ目の方は自身の勘が8割だが。



(さっさと村長んとこいかねぇと…………にしても、これまで一人も村の奴を見てねぇ。何か嫌な感じだな)




嫌な予感に急かされながら、少々喚くシルーレにうんざりしつつ、村の中心地を目指すのであった。




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