二十一話 飯抜きは辛い
僕は頑張ったと思う。嫌々だったが、あのラチグルという魔物対峙して、命の危険を感じると、即座に短剣に手が伸びていた。これはもう仕方ない。むしろ頑張った。傷は負ったが勝ったんだ!褒められてよくね?と思うのだが…
飯抜きにされました…
慈悲の心がないのだろうか、あの独身ムキムキマッチョは。こんないたいけな子供に何たる仕打ち。
「なさけねぇ奴だなぁ……罰として今日の坊主の飯はねぇからな」
ジジイは目が覚めると同時に背中を向けたまま僕に言い放った。どうやら気絶したのがお気に召さないようだ。シルーレは親切に僕を木陰まで運んでくれて、血が出ていた頬にポーション的な緑色の液体を塗り、つきっきりで面倒見てくれたというのに!ジジイには人の心がないのな!何だかめちゃくちゃ悔しかった。鞭の前に飴をくれ。鞭で打たれて鞭でぶたれて鞭で叩き付けられてきたのに、それはないだろう。
「ボクの分けてあげるからさ。一緒に食べよう!ね!」
いや、飴はあった!!横たわりながら背中だけ起こした僕を見上げるように顔を近づけ、慰めてくれるシルーレ。肩に手をポンと置いてくれた。いい匂いが鼻孔をくすぐる。そよ風がシルーレの髪を宙になびかせていた。
「ありがとうシルーレ!」
僕はもう満面の笑み。もうジジイなんてどうでもいい!シルーレがいるじゃないか。
「……うん……」
蚊の泣くような声を出したかと思ったら俯いてしまった。若干耳が朱いような?触ってみたいが、ちょっと気が引ける。シルーレって怒ると恐そうなんだよね。今は友達だけど、最初の出会いとか強烈すぎる。よくもまぁここまで……泣ける!
「ぼけっとすんな坊主!休憩は終りだ。ちゃっちゃと行くぞ」
感傷に浸ることすら許されんのか。いつかジジイは倒す。僕はジジイに殺意を抱きながらそう誓っておいた。
またまた地獄のマラソンの始まった。
ラチグル5匹とグリズリー的な大熊が襲ってきたときは、死んだと思ったな……シジイの持つ斧が血に染まって片付いた……熊の助は一振りで、ラチグルは右腕一本で粉砕した……
夜は本当にご飯が抜きでした。シルーレには悪かったけど、少し貰ってさっさと寝た。ジジイが寝ずに見張りをしてくれたのにはちょっと感謝。
次の日の昼。シルーレは3匹、僕は2匹殺した。昨日よりはマシだったが、まだまだ……
「坊主は来年にゃあ7歳だろ?魔法の他にも、魔闘鎧や魔戦技をそろそろやらせるか」
もうすぐ村というところで、嬉しそうに話すジジイ。良いことでもあったのか?これからの稽古の話になんて興味はないんだけど。
何故この世界では7歳から学校に入学するのか。諸々あるが、一番の理由は体内の魔力が最高値に達する頃だからだ。魔力がどうやってうまれているのか、血に宿っているのか、魂に生まれながらに備わっているのかは分からない。体の成長と共に7歳頃まで増えるということは確かだが、詳しくは解明されていない。
150年程前、人の魔力はどこに宿っているのかを知るため、死刑囚を細切れにして調べた研究者、血に宿ると信じて、己の魔力を増やすために高名な魔導士を殺し血をすすったという殺人鬼がいたらしい。
僕は他の人よりも魔力値が高いと母上が言っていた。まぁ母上に教わった治癒魔法は、殆ど精霊魔法と言われる分野に近いからなぁ。普段の光ちゃんからは信じられないが、高位精霊の力は本物だ。光ちゃんがいないと、骨折を一瞬で治すなんて不可能なのだ!
母上は光ちゃんパワーで、領内の患者よ、どんとこい!って勢い何人で治してたな。多いときは3けた近く。光ちゃんがいればこその芸当だ。
そして走ること20分程。
「あ、見えてきた」
ようやく着いた! と思ったけど
「いや、わしの知り合いはここにゃあいねぇ。変わりもんだからな」
どうやら違うようだ。類は友をって奴だね!
「じゃあどこに?」
「あそこだ」
ジジイが指差したのは、村を見下ろす山の頂上付近。どんな変わり者だよ…………多分仙人クラスの変人だ。
ヘンテコな新キャラでるので、よろしくお願いします!