ニ十話 バトル〜カストール〜クリム
クリムは鉄の短剣に手をかけた。父から貰った馴染み深い武器。自身の無力を呪い、無心にひたすら振るい続けたその刃を鞘から抜き放つ。
だが敵に戸惑いは見られない。涎を口から垂らしながら、鋭く尖った牙を覗かせて飛びかかってきた。相手は殺すことに迷いはない。木々の葉が、ラチグルの放つ威嚇の雄叫びに震えていた。こんな小さな子供など、空腹を満たす馳走にしかみえないのだろう。
爪が!牙が!襲いかかる。
一太刀で仕留めるには、短剣を振り抜く覚悟と、タイミングを見極める勇気が必要だ。
その二つは、カストールがどんなに武器の使い方を叩き込んでも、稽古を重ねさせても身に付けさせることは出来ない。
どんな優れた技量を身に付けさせようが、剣の才に恵まれようが、それらは命のやり取りの中では、あっという間に霞んでしまう。
クリムは優しすぎる。カストールにはそこが心配であった。技量も体力もつけた!苦難に負けない根性も、父以上の剣の才もある。間違いなく将来、その名を国中に轟かすであろう六歳の少年にかける期待は、傍目からは考え付かない程大きかった。
自分に孫がいたらこんな気持ちだろうかと、何度考えたことか。嫌嫌義理で引き受けた稽古だったが、いつの間にか自分から喜んで足を運ぶようになっていた。
シルーレという良き好敵手も側にいる。優しさを乗り越えた先にあるものを、クリムに感じ取らせたい。
わざわざウルドまで行くのには、そうしたカストールの真剣な思いがあったからである。
剣を下段に構えたクリムは、大きく跳躍して襲いかかってくる相手よりも、姿勢を低く、重心を前に傾け、爪先に力を込めた。
一瞬の交叉。クリムは無心で右下からラチグルの喉を斜めに切りつけた。全身の力を入れた斬撃。避けきれずに頬は爪で抉られ、赤い血を流していたが、拭う余裕などない。突進してくる相手の勢いを、上手く利用できた。早く止めを……と、振り返るとラチグルは勢いよく血を喉から吹き出しながら、前のめりに倒れていた。
達成感など微塵もない。あるのは自分が生きていることへの安堵。残るは嫌な感触だけだった。
隣で、断末魔の甲高い悲鳴を上げてもう一頭の命が消えた。
流れる血を心配し、シルーレが此方に来る。
(やー……最悪だ…………)
友に感謝しなくてはならない。極度の緊張から解かれたクリムの体は、ゆっくりとシルーレに倒れこんでいった。
初めての本編三人称。いやはや本当に文才がないなぁ……
けど軽いノリで殺させるわけにも……PV70万とユニーク10万超えてましたー!ありがとうございます!