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外伝2 女傑〜ターニャ・ラミレス

ターニャはうんざりと剣を降ろした。そのすぐ脇には、何度も立ち向かってきた今日の挑戦者。無惨に破れた服を着た男性の姿があった。



「無駄な努力が好きなのね」




陽光に照らされ輝く銀の髪は、幾人の男の心を奪っただろう。強き光を宿した不敵な瞳は、誰を愛しの男として映すのか。



切っ掛けは些細な、あまりにあっさりとした一言。



「私に勝てたらね」



日に何人もの男に告白され、面倒になった彼女は、二度とこんな馬鹿げた告白をしてくる男が出てこないように、そいつを完膚なきまでに叩き潰した。




そこからが受難の始まりであった。ラスルコフ学園は7歳から15歳までが通う、ギルバート屈指の名門校。付属の学院には成績優秀な者のみが入学でき、22歳まで学び続ける。その設備、敷地面積、学生の質、歴史、どれをとっても国の教育機関としては最高峰のものであり、卒業生の大半が大学の研究者か王家の宮廷魔導士、国家直属の騎士となることができる。教師陣の顔ぶれも豪華であり、元騎士団隊長や宮廷魔道士が教員を務める学園も珍しいだろう。また、王都の中にある学校はラスルコフ学園だけなので、自然と貴族も多く通うことになり、プライドの高い貴族と平民との間で諍いが起きることも多い。



宣言したのが8歳の春。クリムと会えず、鬱憤が溜まっていたのかもしれない。今日は14歳の自信満々な腕自慢が相手だった。わざわざターニャのクラスにまで来て、大きな声で愛を宣言したのだ。負けるとは微塵も思っていなかったに違いない。どうして貴族は、同じ貴族(馬鹿)から学ばないのだろうか。ターニャには、言い寄る男全員が馬鹿に見えてならなかった。



「クリムの方が剣筋が鋭かったな……はぁ〜……まだこっちに来てくれないのかな。お姉ちゃんは悲しい」



溜め息をついて下を向くと、気絶した男の姿が目に映った。無言で視界の隅に消えるよう、蹴りあげる。何か呻き声をあげたが、ターニャの耳を通ることはない。ターニャは今人目につかないよう屋上に来ているのだが、その屋上に張り巡らされたフェンスに男がぶつかり、鈍い音を響かせた。



「ターニャお疲れ〜っと。おやおや、これはまた……。にゃーちゃんに怒られるよ?」



「正当防衛よ」



「いや、説得力に欠けると言うか……無慈悲な魔物に襲われた哀れな物体Aにしか私の眼には映ら……ってごめんごめん!睨まないで、やめて!こっちに物騒なもの向けないで!私は弱いのよ!あ、いや、か弱いのよ!」



「ん……どう違うの?」



「乙女っぽくない?」



「《反則魔法少女》略して魔女のお前が?」



「やめて!その変なあだ名であたしを呼ばないで!親友でしょ!あ、笑ったな。≪銀髪の戦乙女≫っていう、かっこよくて可愛い名前を持ってるターニャに、私の苦しみは分からないんだー!自分に正直に生きてるだけなのに!」



ターニャを前に物怖じせずに騒ぎ立てるこの女の子の名は、アテル・ミスアート。赤色の髪がところどころに跳ねた癖毛に、二重の大きな目が密かな自慢のターニャの数少ない友人だ。よく笑い、よく喋るお調子者だ。ターニャの数少ない理解者とも言える。



「それより、ま〜た黄昏てたでしょ?クリム君だっけ?ターニャの弟君。むっふっふ、来年か〜。あたしが年上の魅力で誘惑しちゃおっかなー」



「死にたいの?」



アテルにしたら、いつもの冗談であったが、それは特大の地雷。ターニャの目つきが、獲物を狩る獅子の瞳に代わっていく。



「目が本気だよ!?いや、冗談だから!応援してるよ。目指せ、姉弟婚!新たな時代の幕開けだね!」



手をぶんぶんと前に振り、すぐに逃げられるように逃げ道を確保しておく。



(まだ死にたくない!)



命の危機を感じながら、適当に並べた姉弟婚発言だったのだが、その効果は目覚ましかった。



「別に……そこまでは。ただずっと一緒に……」



(可愛い!!ターニャがモジモジと……クリム君って何者!?)



アテルは滅多に見られない学園最強の親友の姿に呆気に取られながら、その想い人に興味を抱かずにはいられなかった。生粋の天邪鬼。見え見えのトラップにさえ、触ってはいけないと言われたら、他人の手を使ってでも触るような手段を択ばないアテルは、そんな自分の性格をよく理解していた。



(もしターニャが夢中になるくらいの本物なら…)



「……」ターニャは黙ったまま、アテルが妄想を膨らませているのを見つめている。



(超かっこよくて……優しくて……強い、最高の男になるんだろなぁ……クリム君かぁ……)



「……」ビュン、ビュンと、切れ味を確かめるような鋭い素振りを二度、片手で繰り返した。



「きゃは♪」



ターニャの持つ剣先が、アテルの心臓へと向いた。



「って何やってるの?ちょっ!剣を構えちゃって!親友を殺す気?本気でやめて!怖い!」



「お前の考えてることくらい分かる」



(殺される!……こうなったら……逃げるしかない!)



「あたしも今凄い分かるよ!…………さよなら!!」



「逃がさない」



壮絶な鬼ごっこが始まった。少なくともクリムの学園生活は退屈することはないだろう。その10分後、アテルの悲鳴が学園中に響き渡った。




一人称クリムのみに飽き始めたので、ターニャサイドストーリー書いてみました。またまたノリで、結構楽しかったです。

1/20に少し加筆修正


読んでいただき、ありがとうございました!

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