一話 誕生!零歳児
瞼の裏から光を感じた僕は、違和感を感じながらも目をゆっくりと開いた。
(朝かな……)
若干寝ぼけながら辺りを見渡そうとしたのだが、ここがどこだか分らない。硝子を通して窓から木漏れ日のような優しい光が洩れていることと、全身を柔らかいなにかでくるまれていることくらいしか分らなかった。
(…………ん…………)
あれか、天国か。とも思ったが、すぐに異変に気づく。体が自分の物ではないみたいなのだ。動かそうにも感覚が掴めないし、それに、
「うゎーーん!!!!!」
痛い。頭が痛い。考えると痛いし泣くと響いてもっと痛いけど痛いから泣くのにそれが痛さの原因になるからこの痛みのスパイラルは止まらないというか考えてる時点で考えちゃってるから痛いんだけどこの痛みで嫌でも泣く、さらに泣く。結論、止まらない。というかもうどうでもいいから痛い。助けて欲しい。
と悲鳴と思考と諦観の念に襲われていた僕に、救いの手が伸びてきた。温かい手が頭と背中に。そのまま静かに持ち上げられる。
「大丈夫だよ〜。お母さんがついてるからね〜」
いつからそこにいたんだろうか。優しく抱き抱えられた僕は、突然現れた人物にどきまぎしながらその相手をじっと見つめていた。
この女性の微笑みはなんだろう。始めて見る笑顔。散々幼馴染の邪悪な笑みは見てきたけど、それとは180度違う。ほかのどんな笑顔とも違う。もっと深い。心の奥の奥、底の方からじわじわと暖かいものが溢れてくるこの感じはいったいなんなんだろうか。
も、もしや。
(こ、これが恋なのか?)
しかし、すぐにいい歳した大人のくせにそんなことを自分に問う自分に嫌悪感を抱く。頭痛もよりひどくなった気がする。せっかくこの天使(仮)のおかげで忘れていたというのに。
天国にいるんじゃないか説が濃厚になる中で、僕は改めて目の前の天使を観察することにした。
何を言ってるのか全然分からないが、この天使は可憐な声で話しかけながら、僕の体を揺らしてくれる。どうやらあやしてくれているようだ。
現状を何とか把握したい模索するが、そのスタート時点でまた頭痛が僕を襲う。たまらずまたもや泣き叫ぶ僕に慌てる天使。笑みを浮かべたままだが、困ったように首を傾げている。
いろいろ突っ込みたいところはあるのだが、考えても仕方ないというかそれ以前に考えられないので、幼い時から3馬鹿との絡みで磨かれたスルースキル発動。
僕は全力で眠りこけるのだった。