十八話 魔物を殺せと言われても
クレハは光ちゃんとよしゑさん2号に頼んどいた。あぁ、僕が手を離すとまたもや大泣きする。それを見た光ちゃんは嫉妬したのか、早く消えろと蚊を追っ払うかのように手を払ってくる。
普通にムカついた。精霊に攻撃は出来ないのだろうか。書庫でそれらしき本探してやる。
シルーレと共に、ジジイに連れられギルドに到着!
あぁ…………ドン・キホーテを連れてきてあげたい。我輩の姫はどこにいるー!!とか言って、あの受け付けらしき男に殴りかかるか、麗しの姫よ!!とか向こうにいる美人の女戦士にかしずくんだろうか。お付きの小男は何をするかな。止めるか、主を自慢するか、自分も暴れるか。
と、妄想を巡らせる僕。それほどこの空間は僕にとって独特の屋敷の匂いが、雰囲気が、人がドン・キホーテで読んで浮かべた空想の世界に近かった。
木製の古びた扉を開けると、正面には長い机が置かれ、2人の受け付けらしき男が座っていた。その内の一人に話しかけるジジイ。左を向くと、ずっと奥まで四角いテーブルがいくつも並べられていた。宿屋と提携してやってるのかな?上に続く階段もある。何人か椅子に座り、談笑しつつ食事をしていた。酒臭い……昼間から飲んでるのか……
異様なのは、皆が皆武器を腰か背中にぶら下げているところだ。黒いローブを羽織った魔法使いはいないか…………筋肉質な荒くれものってとこかな。
女性はさっき見つけた女戦士と、店員さんらしき人だけだ。子供が他にいないからかな。何人かこっちを見てる……いや!
どうやらジジイに注目が集まっている!モテモテだな!ちなみにジジイは独身である。
「何か依頼あるか?クロメス草の採集か、下級の奴の駆除がいいんだが。」
クロメス草でお願いします!それなら知ってる。生態や効能まで何だって!この時期は数が少ないかもだけど。
「少々お待ちを…………ラチグルの駆除依頼でしたらありますね。5体につき、銀貨1枚と銅貨30枚が支払われますが」
ラチグルって何?知らないんだけど…………駆除だから、魔物だよな!?見てみたいけど、殺したくない。
環境は人を変えると言われているが、さて…………ま、人よりはマシか。いつか人を殺さなくてはならないのかな。そんな状況、あんまり考えたくはない。
前に買った果物が3つで銅貨2枚だったっけ。そう言えば、銀貨とか金貨の価値がいまいち分からない。市場では買う気なかったから品物眺めただけだし、基本銅貨で買える値段だった。衣食住含めて暮らしに不自由してなかったからな…………後でジジイかリリスに聞いておこう。
「…………仕方ねぇわい。それでいい。どっかに異常繁殖でもしてねぇか?こいつらにゃあ、ちとラチグルは温いんだよなぁ」
人を殺したいと思ったのはこの世界では初めてだ。前世はうざい親戚の気持ち悪い男…………っっ!もしや、これがさっき忌避したいと願ったシチュエーション?ジジイを凄い殺したい!光ちゃんがジジイ倒してれば良かったのに。
まぁ、この化け物は笑いながら魔法だろうが何だろうが跳ね返すんだろうけど…………冗談抜きで。
「少し離れたウルド地方でしたら大量のラチグルを含めた魔物が確認されてますが…………」
そうだ!諦めろジジイ!
「ふぅむ。ったく運がねぇな。ウルドっていったらまぁ歩いて2日ってとこか。走れば1日と少し…………」
あれ?
「足腰の鍛練にゃあ丁度いいか。面倒くさいがいい経験になりそうだな」
「ねえクリム。何日くらい泊まることになると思う?」シルーレはちょっと嬉しそう。
兄上…………僕も部屋に引きこもりたいです。