十二話 不幸な遭遇
市場に到着した僕と光ちゃん。ぶっちゃけて言うとノープランだ。逸る気持ちを抑えきれず、勢いで屋敷を飛び出してきちゃったから。しかし、僕の横には頼りになる相棒がいる。
「隊長! 見つかった?? 気配とか分からない?」
傍目からは痛い人間に見えたかもしれない。右隣でキョロキョロしている光ちゃんに、早速聞いてみた。
けど、分かるわけねーじゃんとばかりに素っ気なく手を降る光ちゃん。…………戦力にならない? 一抹の不安をかなぐり捨てて、黒いフードのちびっこを探し始める。
昨日ぶつかった辺りで一通り探してみたが、それらしき人物はいない。偶然ぶつかっただけだし…………ひたすらこの場所で現れるのを待つしかないのかな。
ぶらぶらと市場の見学しつつ、なんとかなるだろと、気楽に考える僕。昨日と変わらず人で一杯だ。というか、よく見ると面白いのがいるぞ。背中に大剣をぶら下げ、灰色の武具で全身武装した要塞みたいな大男。外せばいいのに、こだわりなのか歩くたびにガシャガシャと金属音がやかましい。戦争にでもいくのだろうか。
ドン・キホーテみたいなの他にいないかな〜…………おっと、左から緑色の外套に、もさもさの髭をつけた男爵みたいなのが、頭に赤いバンダナを巻いたグラマーな美女と一緒に歩いてくる。デートか? いや、そんな感じじゃない。こいつらを結び付けているのは一体なんだろうか……
普通の住人に混じって、一風変わった人が歩いていく様は、とても面白い。
ドラクエか何かのゲームの中みたいだ。市場の売り物も隅々まで見学したので、今度は人を観察しながら適当に歩いてみた。ひたすら道なりにずんずん歩いていく。
やー、飽きない。海外旅行気分でしばらく浮かれていると…………迷った…………知らない道を歩いていれば、当然こうなるのは自明の理なのだが、今更何を言っても…………さて、市場はどっちだろ。困ったときの光ちゃん! にはまたもや知らねーよと手を振られた…………役に立ってはくれないようだ。人選ミスは明らかだった。今後の参考にしよう。
適当におおよその方角を決めて路地裏に入ってみた。というか、冷静になって考えると迷子はヤバいのでは。お金もない。あるのは朝食を食べた後にくすねた、冷えたひときれの黒パン一つ。布に包んでポッケに入れといた。昼にかじろうと思って。
頼むから前世に僕を苦しめた方向音痴は治っていてくれ、切に願う…………護身用に短剣でも持ってくれば良かったな〜って考えながら道を進むと、剣で撃ちあったかのような火花の散る音が響いてきた。
うん。やっぱり物騒みたい。身代金目当てに誘拐されたらどうしよう…………てか一体何があった? 光ちゃんも気になるようで、いってみよーぜと、音源の暗い曲がりくねった不気味な路を指差している。どうやら僕の安全と、自分の好奇心とは天秤にかけるまでもないみたい。
仕方ない…………恐る恐る歩を進めていくと、二人の人相の悪い男が倒れ、それをちびっこが剣を片手に見下ろしていた。
思わず駆け出した。間違いなく、昨日会ったエルフの女の子だ! 偶然! 殺人現場のような殺伐とした場所で会えた! なんだこれ、タイミングが悪すぎるだろ! つくづく自分の不運を呪う。
「あ…………似てないのにむかついた顔の子だ…………ボクに何か用?」
しかも変な覚え方されてるし。むかついた顔はあんまりだ! それにボクってどういうこと…………
出会って二回目だが、謎は深まるばかりだった。