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「巨大な金食い虫」

作者: 赤馬

赤馬です。「巨大な金喰い虫」を手に取っていただき、ありがとうございます! 奇妙な世界を書きたいと思い、私が過ごした昭和の雰囲気の中で「変身」と「欲」を描いてみました。どこか懐かしく、でもぞっとする物語を、気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです。金喰い虫の目、覗いてみてください!



昭和三十年代、京都の裏町にひっそりと佇む木造アパートで、おりつは朝の支度をしていた。夫の宗助は、いつもならラジオの演歌を聞きながら朝刊を広げている時間だ。だが、その朝、隣の部屋からいつもの物音が聞こえない。おりつは眉をひそめ、襖をそっと開けて覗いた。そこに宗助はいなかった。代わりに、畳の上で蠢く巨大な虫がいた。体長は畳一枚分ほど、甲殻はまるで金箔を貼ったようにギラギラと輝き、無数の足がカサカサと不気味な音を立てていた。頭部には、宗助の近視鏡のような丸い目が二つ、キラリと光っていた。「宗助…あんた、何!?」おりつは叫びそうになったが、隣の部屋のラジオの音にハッと我に返り、口を押さえた。このアパート、壁が薄い。隣の山本さんや上の階の学生に聞かれたら、どんな騒ぎになるか。おりつは震える手で襖を閉め、決めた。「こいつ、隠さなきゃ。」


宗助――いや、金喰い虫は、押し入れの奥に押し込まれた。虫は人間の言葉を発さず、ただカサカサと這うだけだった。おりつが差し出した味噌汁や飯には見向きもしなかったが、ある日、台所で落とした十円玉をガリガリと噛み砕いて飲み込んだ。金だ。こいつは金を食うのだ。最初は、おりつも貯金箱の小銭を渋々与えた。だが、虫の食欲は止まらなかった。給料日の宗助のボーナスも、おりつのへそくりも、みるみる消えた。アパートの家賃は滞り、電気代も払えなくなった。おりつは近所の縫製工場で内職を増やしたが、虫はさらに大きくなり、押し入れは金色の糞で埋まった。畳は軋み、おりつの頬はこけた。「もう、持たん…。」ある夜、おりつは虫を麻袋に詰め、闇に紛れて裏山の竹林へ放した。虫はカサカサと笹をかき分け、消えた。おりつは涙を拭い、アパートに戻った。「宗助、堪忍して。あたし、もうどうしようもなかったんや…。」


数ヶ月後、おりつは近所のスナックでパートを始めた。ある晩、客が騒ぐのでカウンターの小さな白黒テレビを見ると、ニュースが流れていた。「京都中央銀行に、巨大な虫が立てこもる異常事態!」画面には、宗助の目をした金喰い虫が映っていた。金庫室に陣取り、金貨や札束をガリガリと食い荒らし、警官が拳銃を構えて叫んでいる。虫は時折、キラリと目を光らせ、まるでテレビ越しにおりつを見つめるようだった。「宗助…あんた、何やっとるん…。」おりつはカウンターで立ち尽くし、ビール瓶を握り潰しそうになった。画面では、虫が金庫の鉄扉を食い破り、紙幣が舞う中、アナウンサーが叫ぶ。「この怪虫、どこから現れたのか! 市民の皆様、近づかないでください!」その夜、おりつはアパートで一人、宗助の残した古い煙草の空き箱を見つめていた。虫のことは、誰にも話せなかった。近所の噂では、「銀行の虫は資本主義の化身だ」とか「米軍の実験だ」と囁かれた。子供たちは「金喰い虫が来るぞ」と歌って怖がった。おりつだけが知っていた。あれは宗助だった。やがて、虫は銀行を抜け出し、京都の夜に消えたという。誰もその行方を知らない。おりつは時折、裏山を見上げ、竹林でカサカサと響く音を聞いた気がした。路地裏で、金色の糞が街灯に光るのを見た者もいたという。(了)



赤馬です。「巨大な金喰い虫」を最後まで読んでくれて、ありがとう! 昭和の裏町で、宗助が金に取り憑かれた虫になる話、皆さんはどう感じましたか? 欲と人間の滑稽さ、ちょっとした不気味さを味わってもらえたら幸いです。おりつが見た虫の目は、何を語っていたと思いますか? 感想や評価をいただけたら励みになります。また次の奇妙な物語で、お会いしましょう!



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