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すれ違う思い

山田先輩……ものすっごく気まずそうだ。

そりゃそうだわな。伝言だけ言ってとっとと立ち去りたかっただろうに、こうしてのんびり私とお茶なんかしているのだから。

一応人目がつかないように寂れた喫茶店に入って半個室の席にはしてもらったのだけれど……山田先輩は落ち着かない様子でコーヒーを飲んでいた。


「山田兄、山田先輩って彼女いるんですか?」

「えっ、彼女?」


「もしくは好きな人とか。」

「いや、どっちもいないよ。」


何度アプローチしてもデートさえ断られる理由はなんだろうと考えたのだが、どちらでもないとなるとやはり……



「私が嫌われてるってことですよね……」



嫌われる身に覚えならのっけから散々しまくっている。

取り返しのつかない事実に落胆したら、山田先輩が慌てて否定してきた。


「それはないんじゃないかな。今まで寄ってくる子が兄目当ての子ばかりだったから、警戒してたんだ……と、思う。」


昨日のしつこい女の子が脳裏に浮かんだ。

あんなのに度々絡まれていたのでは近づいてくる者に不信感を抱くのも仕方がないのだろう。

嫌われていたわけではなかった。しかも警戒してたと過去形になっているということは、今は違うと思っていいのだろうか?


「そうだね。今は……」


そこで一旦言葉が途切れると、山田先輩は私から視線を逸らすように顔を伏せた。



「自分が周りから良く思われてないのが分かっているから、君まで巻き込みたくないんだと思う。」



それが理由……?!

私はそんなの気にしない!と叫びそうになったのを飲み込んだ。

今目の前にいるのは山田先輩ではなくあくまでも山田兄なのだ。感情をぶつけてはいけない。


「みんな山田先輩の魅力に気づいてないだけです。気にしちゃダメですよ……」


他人の目なんて関係ないと私は思うのだけれど、山田先輩にとってはそう簡単なものではないのだろう。

山田先輩自身は決して出来損ないなのではないのに、優秀すぎる兄を持ってしまった不運としか言いようがない。



「木村さんはそのっ……なんでそこまで魅力を感じてるの?」



本人がそれを聞いちゃうんだ。

山田先輩はハッと口を抑えて顔を真っ赤にした。


「ごめんっ……変なこと聞いて。」

「いえ、確かに一週間に三回も告白してきたら本気なのかと疑いますよね。」




それは入学式から間もないある日の放課後。

うちの高校の図書室には漫画も置いてあると知り、小学生の頃に読んだ少女漫画もあるかなと思って何気なく寄ってみた。


図書室には勉強をする人や目当ての本を探す人などで思いのほか混雑していた。

漫画コーナーはどこかと探していたら、窓際に一冊の文庫本が開いた状態でくしゃりと落ちているのに気づいた。

気にはなったが破けてボロボロだったし、みんな無視していたので私も遠巻きに見ただけだった。

でも後から部屋に入ってきた三年生の先輩が、落ちている本に気づくとためらうことなく拾い上げた。


「それが山田先輩だったんです。山田先輩はカウンターにいた司書の先生にセロテープを借りると、破けた箇所に貼り付けていったんです。」


ただ静かに本を優しく撫でる白くて長い指先に、私は目を奪われてしまった。



「なんかそれがすっごくエロくて……」



山田先輩が飲んでたコーヒーをブハっと吹き出した。


「エ、エロい……?」

「はい、エロかったんです。もう一目惚れです。気づいたら告白してました。」


一回目はその場の勢いで名前も知らぬままに告白をした。

二回目は名前だけ調べて再び図書室で告白した。

三回目は駅のホームで偶然会い、今度こそはと思い告白した。

まあ、上手くいくはずないよね。


その頃には一週間で三回同じ人に告白して振られた新入生がいるとウワサになっていた。



嫌われてはいない。それが聞けただけでも今日の成果としてはもう十分だ。

そろそろ帰りましょうかと言ったら、山田先輩はホッとしたように優しく微笑んだ。



山田先輩は駅の改札口まで私を送ってくれた。

じゃあ気をつけてと背を向けた山田先輩に、ずっと引っ掛かっていたことを尋ねてみた。


「あのっ山田兄。以前、俺はサクに嫌われてるって言ってましたけど、それって本当にそうなんですかっ?」


振り向いた山田先輩はなんのことかと驚いたような顔をしていた。

この反応……やっぱり私が思っていた通りかも。


山田兄は自分だけがサッカーを続けていることに酷く負い目を感じているのだろう。

もし山田兄が言うように本当に嫌われているのだとしたら、兄弟を比べて嫌味を言ってくる人や兄目当てに寄ってくる人に対して山田先輩は嫌悪感を抱くはずだ。

あんな穏やかでいられるはずがない。



「山田兄はまた昔みたいにあの児童公園で一緒にコロッケが食べたいんですよね。その願い、叶うといいですねっ!」



大きく手を振ってから改札をくぐった。

こんなことを言うのは余計なお世話かも知れない。

でも二人を見ていると歯がゆくて……



言わずには、いられなかった────────







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