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デートに誘ってみた


「確かに押し倒してみたらとは言ったけど、冗談だったんだけどな。」


山田兄の声でハッと目が覚めた。

部屋はもう薄暗くなってきていて、私はいつの間にか寝てしまっていたようだ。

にしてもなんだろうこの柔らかな感触は……

抱きしめていたのが山田先輩の頭だと気づいてベッドから転げ落ちた。

ヨシヨシと撫でてあげたところまでは覚えてるんだけれど、その後の記憶が全くない!


「ち、違うんですこれは!変な下心が全然なかったとは言い切れないのですがっ.....」

「静かに。サクが起きる。」


山田兄は山田先輩のおでこに手を当てるとホッとした表情をみせた。どうやら熱は下がったようだ。


「ありがとう。駅まで送るよ。」


山田兄の背中を見たら汗だくだった。

駅からのあの距離を走って帰ってきたのだろうか……







山田家から駅までの道には昔ながらの商店街があった。夕飯の買い出しの主婦や近所の子供達で賑わっていて、どこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。


「お団子ちゃん小腹すかない?ここの肉屋のコロッケ美味いんだけど食べる?」


山田兄は店のおばちゃんと親しげに会話を交わすとコロッケを奢ってくれた。

近くにある児童公園のブランコに座って頂くことにした。揚げたてのコロッケを食べるのなんて初めてだ。


「美味しいっ。なんですかこのホクホク感!」

「だろ?サクもこれ好物なんだ。」


中学の頃は部活帰りに二人で寄り道をしては食べていたのだと、懐かしそうに教えてくれた。


「今は一緒に帰ったりはしないんですか?」

「ないねえ、サクはサッカー辞めたから。」


山田先輩がサッカーを辞めたのはやはり右足のケガが原因だった。

同じ高校への入学を心待ちにしていた春休み、二人でサッカーの練習をした帰りに後ろから暴走してきた自動車にはねられたのだという。


「俺は軽傷で済んだんだけど、サクは利き足の脛骨と腓骨を派手に骨折してさ。」


靭帯や血管、筋肉にも損傷を受けて激しい運動ができなくなってしまった。

入院も長引き、山田先輩だけ一ヶ月遅れの入学となった.....



「サクの分もと思って俺はサッカーを続けたけど、頑張れば頑張るほど……サクとの距離が離れていった気がする。」



今では家でも必要最低限の会話しかなく、このコロッケも、高校に入ってからは一度も一緒に食べたことがないのだと……




「俺、サクに嫌われてるんだろうな。」




ポツリと呟く山田兄があまりにも悲しげで……

励ましの言葉がなにも思い浮かばなかった。












サッカー部は去年、冬のインターハイとも呼ばれる高校サッカー選手権の地区予選を決勝戦で敗退してしまい、あと一歩のところで全国大会出場を逃した。

今年は去年決勝戦で負けた相手と三回戦であたったのだが、見事リベンジを果たし、次こそ全国大会への切符を手にするのだと学校中が盛り上がっていた。


「 奏真く〜ん、こっち向いて〜!」

「キャーカッコイイー!彼氏になって〜!」

「ちょっとあんた達ルールは守って!練習の邪魔するなら帰って!!」


山田兄の人気は加熱する一方で、放課後には他校からも見学にくる女子がいるほどだった。

ファンクラブの子らも気が気でないのだろう。常に青筋を立てながら監視していた。


実際山田兄の実力はプロのスカウトも注目するほどで、チームをまとめあげる統制力もピカイチだ。

インターハイ出場ともなればもっとすごい騒ぎになることだろう。



ケガさえなければ山田先輩も同じように注目されていたのだろうか。

でもそうなると私は山田先輩のことを好きにはならなかった。

私は今の山田先輩が好きなのだから……




「木村さん、ちょっといい?」



中庭を歩いていたら山田先輩から呼び止められた。

向こうから声をかけてきたのは初めてだ。飛び上がりたい気持ちを抑えてなるべく冷静さを装った。


「山田先輩、お体はもう大丈夫なんですか?」

「その節はありがとう。熱であまり覚えてないんだけど、助かったよ。」


それはそれは。覚えてなくて幸いだ。

山田兄からサクは今日から学校に来るから頑張れよとメールをもらっていた。

だから昼休みに山田先輩が行きそうなところをあえてウロウロと歩き回っていたのだ。


「それでお礼がしたいんだけど、女の子が好むものってあまり分からなくて……なにか欲しいものってある?」


欲しいものだと……?

まさか山田先輩からこのようなアシストがくるとは夢にも思わなかった。

これはチャンスだっ!



「デート、デートがしたいです!」



山田先輩とデートをする。

順番はいろいろ間違っちゃったけれど、ここから山田先輩と仲良くなっていけばいい。

焦らずゆっくりと。ゆくゆくは♡な関係を目指せばよいのだっ。頑張れ私っ!




「……ごめん。それは無理かな。」




昼休憩を終えるチャイムが、試合終了を告げるゴングのように頭に鳴り響いた。


「なにか思いついたら教えて。じゃあね。」



山田先輩の背中が小さくなるまで(まばた)きもできずに見送った。










「フラれたか。四回目だね。」



──────────ですよね。


レイちゃんの容赦ない言葉が胸に突き刺さる。

いいよっていう返事がくると期待したのは私が自惚れていただけでしょうか?

まさかあの流れで無理って……こんなんもうどうやっても無理じゃん!!


「レイちゃん私、どうしたらいいのっ?」

「まだいくの?諦めなって。」


「山田先輩に貴方の貞操が欲しいですって言ったらもらえるかなあ?」

「あんたそれ、もはやホラーだわ。」



諦めれるならとっくに諦めてるっつーの!

どちくしょうめっ!!






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