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全部同じだった

昼休み、山田先輩は図書室にいることが多いのだけれど今日はいないみたいだ。

三回の告白中二回を図書室でしたから来づらくなったのだろうか……だとしたら悪いことをした。


放課後に門の前で待ち伏せするしかないかと廊下に出ると、渡り廊下を歩く山田先輩の姿が見えた。

やったあと思い走って近づいたその瞬間、おしゃべりに夢中な女子生徒二人が山田先輩とぶつかった。


「やだあ、出来損ないの方とぶつかっちゃった。」

「奏真君とだったら良かったのにねえ。」



──────────はっ?


なにあいつら?聞こえよがしに悪口言いやがって……

まず謝れよ!


「山田先輩、大丈夫ですかっ?」


見ると女子生徒が持っていたジュースが山田先輩の制服にかかっている。

慌ててティッシュを取りだし、染みにならないようにポンポンと拭いた。

もうっなんなのあの女.....勝手に双子を比べて面白がりやがって、山田先輩のことを見下してんじゃねえわ!超ムカつく!!



「僕のためにそこまで怒らなくてもいいよ。こういうのには慣れてるから。」



どうやら心の中の声が口からダダ漏れだったらしい。

どう考えてもさっきのヤツらが悪いのに、山田先輩は怒ることもなく私に微笑んでくれた。

怒りまくってる自分が子供みたいで恥ずかしくなってきた。


「何度も来てもらって悪いんだけど、僕は君とは……」

「いえ、今日は告白しに来たんじゃありません!」

紙袋からクッキーを取り出して山田先輩に渡した。


「甘いものがお好きだと聞いたので作ってきたんです。それと山田先輩が好きなluxの踊りも覚えてきたんです。見てて下さいっ!」


喜んでくれたらいいなあと淡い期待をしていたのだけれど、山田先輩の反応はイマイチだった。

ていうか暗い。そんなに私のダンスは気分を害するほど下手くそだったのだろうか。




「……じゃない。」




山田先輩はクッキーを私の手に戻すと、絞り出すような声で言った。



「甘いものもluxも、好きなのはソウの方だから……」




──────────えっ?



逃げるように去っていく山田先輩の後ろ姿を呆然と見送った。



二つとも山田先輩の好きなものじゃないってこと?



なにそれ……


私、山田兄に騙されたっ?!











放課後、部活を終えて帰宅しようとしていた山田兄の前に立ちはだかった。


「ちょっと山田兄!!恋する乙女心をよくも踏みにじってくれたなあ?!」


周りには金魚のフンみたいにくっついている取り巻き女子達がいて、ギョッとしたあとに睨んできたが気にしてられない。

山田兄からの助言を信じてこの三日間汗水垂らした私の努力を無駄にしやがって!


「ちょっとあんた一年?奏真君ファンクラブに入りたいならルールはちゃんと守りなさい!」

「そんなもん入るかあ!私は山田兄に文句があって来たのっ!」


「そんもんとはなによ?!奏真君に失礼よ!謝りなさい!」

「私が好きなのは弟!弟の方なんだからそこをどいて!!」


そう言ったとたんファンクラブ一同がドン引きした。

くっそ、どいつもこいつも……!



「ごめんだけど、今日はみんな先に帰ってもらっていいかな?この子と話があるんだ。」



山田兄が間に入ってそう言うと、ファン達は分かりましたあと猫なで声を出し、私にはチッと舌打ちをして去って行った。

なんだあいつら。裏表ありすぎだろ。







駅前のカフェに入って山田兄を問いただした。


「そうだよ。甘いものもluxも俺が好きなんだ。」


山田兄はあっさりと認めるどころか、悪びれることもなく生クリームたっぷりのパンケーキを頬張った。

よくもまあ騙した人の前でこんな甘ったるいもんが食えたもんだ。


「山田兄、性格悪いって言われません?」

「一度もないなあ。俺って理想の王子様らしいよ。」


「じゃあみんな気づいてないんですね。ご愁傷様。」

「ただしイケメンに限るってやつじゃない?大概のことは許されるみたいな。」


「自意識過剰にも程がありますね。私は絶対に許しませんから!」


これ以上話しても無駄だと思い、飲み物代の千円をテーブルに叩きつけて帰ろうとしたのだが……



「それは残念。サクの子供の頃の画像をお団子ちゃんにも見せてあげようと思ってたのに。」



─────────ピクっ。

山田先輩の子供の頃だと……?


山田兄が笑顔でスマホをヒラヒラとさせてきた。



「へ〜……ちなみにいくつぐらいのですか?」

「二歳かな。砂浜で遊んでるところ。」


に、二歳なんて一番可愛い盛りじゃないか!!

見たい……ものすっっごく見たいっ!


「パンケーキ代も払ってくれるなら見せてあげるよ。」

「出します!おいくらですか?!」


ウソウソと山田兄は笑いながらスマホを見せてくれた。

天使みたいに可愛いのが二人いる!

くせっ毛で真ん丸な目をした山田兄弟が、砂山を挟んでちょこんと座っていた。まるで合わせ鏡のようだ。


「二人とも恐ろしいくらい似てますね。」

「そりゃ一卵性だからね。今は俺だけ直毛矯正かけてるけど。」


一卵性なんだ……少し似てるかなとは思ってたけど。

今の二人は雰囲気が全く違うせいか双子だと言われなきゃ分からないくらいだ。



「昔はね、好きなものも嫌いなものも全部一緒だったんだよ。」



そう呟いた山田兄がどこか寂しげに見えた。


もしかして山田兄は私を騙そうとしたのではなく、いつの間にか二人の好きなものが違ってしまっていただけだったのかな……


「この画像いる?送ろうか?」

「是非お願いします!」



いつから二人は変わってしまったんだろうか……


そういえば学校でも話してるところを見たことがない。

二人の間にある溝のようなものを感じずにはいられなかった。






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