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失恋からの成就

唐揚げにタコさんウィンナーにポテサラに、山田先輩が好きなダシの効いた卵焼き。

うん。初めて作ったにしてはなかなか上出来じゃない?


今日は昼休みに山田先輩とお弁当を一緒に食べる約束をしているのだ。

この日のためにと特訓した手作り弁当。あの超辛口のレイちゃんも美味しそうじゃないと褒めてくれた。

山田先輩、まっだかな〜。



「おっ美味そう。それってお団子ちゃんが作ったの?」



後ろから覗き込んでくる山田兄と目が合った。

いつものカースト上位の煌びやかなお仲間を引き連れている。

少し離れたところにはファンクラブのメンバー達が監視するように睨みをきかせているし、校舎の窓には中庭に現れた山田兄を一目見ようとする大勢の女子生徒がへばりついていた。


全国大会出場が決まってからさらに注目度がパワーアップしている。

こんなに一挙手一動を見られていて疲れないんだろうか。


「山田兄、あっち行って下さい。私は山田先輩との静かな時間を満喫したいんです。」

「つれないねえ。俺にそんなこと言うのお団子ちゃんくらいだよ。」


ちなみに全国大会は夏休みになってから始まるので、今はそれに向けての猛特訓中だ。

山田先輩も今度は全国大会出場を決めた他府県のチームデータの収集に追われているので、こうして私とゆっくり会うのは久しぶりなのである。

あれだけお互いを避けていた山田兄弟が、今では話し込んでいる姿もよく見受けられるようになった。

仲良くするのは喜ばしいことだ。けれど私は山田兄には軽く殺意が湧いている。

分かってる。これは完全なる嫉妬だ。


「二人ってまだ付き合ってないんだって?なにチンタラしてんの?」

「誰のせいですかっ?!誰の!!」


本来ならばあの日あの時あの児童公園で結ばれてるはずだったのにっ。

あの続きが聞きたくて、こっちから告白したい衝動を必死で抑えている私の健気な乙女心を察しろ!


「そんな悠長に構えてていいのかな〜。サク、廊下で女に呼び止められて話してたぜ?」

「ぬわ、ぬわんですってえ?!」


山田先輩が決勝戦の日に超絶イケメンな姿で現れたことはウワサになっていた。

その時の姿を盗撮した画像も密かに出回っているらしい.....


メガネで髪ボサの時は双子を見比べてバカにしてたくせに。

山田先輩の本当の良さは内面から滲み出てくるそこはかとないエロさ.....じゃなくて壮大な優しさなのっ!

うわべっつらだけで寄ってくるヤツらなんかに絶対に負けてなるものかっ.....!

かくなる上は.....


「あ、あのっ山田兄。どうしたら恋愛に奥手な山田先輩をその気にさせることができますか?」


草食系で照れ屋な山田先輩も素敵だけれど、あの日の熱っぽい視線でもう一度私のことを見て欲しい。

叶うなら、山田先輩の方から私のことが好きだという言葉が聞きたいのだ。



「サクが恋愛に奥手?言っとくけど、あいつが一旦攻めに転じたら.....」



校舎からやってくる山田先輩の姿が見えた。

山田兄がなにか言いたげにしていたが、また余計なことを言いかねないので手でしっしっとやって追い払った。


「遅れてごめん。ソウとなに話してたの?」


山田先輩が遅れた原因.....本人に聞いてもいいのかな。

なにを話していたのかがすっごく気になる。


「あの〜、山田先輩が女の子と一緒にいたって山田兄が言ってたんですけど……」

「ああそれね。ここに来る前に二年生の子に好きだとか付き合ってとか言われたんだ。」


はあっ?そんなど直球な告白をされてたの?!

もしかして私が思っている以上に山田先輩ってモテ出してるっ?なんてこった!


「そ、それで山田先輩はなんて答えたんですかっ?」

「もちろん断ったよ。話したこともない子だったし。」


山田先輩がホイホイ付き合うタイプではないのはフラれまくった私が一番よく分かっている。

でも超絶に可愛いモデルみたいな子が言いよってきたら?

山田先輩だって、さすがにグラッときてしまうかも知れない.....



「心配しないで。ちゃんと好きな子がいるって断ったから。」



────────好きな子........


それって私ですかって、聞いてもいいのかな。

自意識過剰だとか思われないかな。



「山田先輩.....それって、誰ですか?」



私ですかとはさすがに聞けなかった。

山田先輩は真っ赤になってうつむく私の顔を覗き込むと、意味ありげに微笑んだ。




「誰だと思う?」




なにその聞き方.....エッロ!!

山田先輩から色気がダダ漏れていて直視できない。


これは言ってもいいのかな。

私ですよねって。

なにこれ、普通に告白するより100倍緊張するんだけど!



心臓がドキドキしすぎて、もう口から飛び出そうだ。




「それって、わた────────」




山田先輩の顔が近づいてきて唇になにかが触れた。

柔らかで、それでいて甘い感触。

突然の出来事に頭が追いつかない。

今、なにが起こったの.....?




「あ、ごめん。木村さんがあまりにも可愛いからキスしちゃった。」




はっ?ええっ、えぇえ──────────!!


今のキスだったのっ?!

キスって、こんな挨拶みたいにできちゃうもんなの?!



「ダメだった?」

「ダ、ダメではないですけど、ここ、こ、学校です!」


「誰も見てないから大丈夫。もう一回する?」

「わわっ、わ────────!!」





この時、山田兄からメールが届いていたのを気づいたのは家に帰ってからだった。




『サクって恋愛に関してはサッカーと同じで、超攻撃型ストライカーだから覚悟しとけよ。』





先に言えよ山田兄!!













私が好きになったのは人気者の兄ではなく、みんなからは地味だとか出来損ないとか言われている弟の方だった。



私は彼に会った瞬間恋に落ちて、その場の勢いで告白。

その後も合わせて一週間の間に三回告白して三回ともフラれ、見事撃沈。



諦めようにも諦められず.......




「サクと付き合えたのは俺のおかげだし、お礼は売店で売ってるキャラメルホイップメロンパンでいいぜ。」

「はあ?山田兄のお世話になんて1ミリもなってませんけどっ?」





────────山田兄弟。



この二人と過ごす内に、お互いを思い合う兄弟の絆の強さを知ることとなった。


なんだかんだこの先も、山田兄弟に振り回されそうな予感はするけれど.....




なにが起ころうとも、めげない、逃げない、諦めないの精神で頑張って参りますっ!




ではでは。










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